菅財務相で日銀激震

菅の円安誘導発言

 菅直人は、1月7日の記者会見で、為替政策に関して、為替相場が適切な水準になるように日銀と連携して取り組むとし、現在の為替水準について一時期よりも円安の方向に是正されているが「もう少し円安方向に進めばいい」と語った。

財務省は歓迎

 菅財務相就任で一番激震が走っているのは、財務省より、日銀ではないか。菅は財政規律を重視する立場だから、財務省にとっては好ましい。特別会計についても、これが一般財源化すれば、各省庁に移っていた予算決定権が財務省に戻ってくる訳だから、財務省は歓迎だろう。
 鳩山政権には、ゆうちょ銀行のトップに元財務官僚を据えたり、事業仕分けでも財務省と連携するなど、各省庁と喧嘩するためにも、財務省とは仲良くしておいた方がいい、という本音があるのではなかろうか。おそらく菅直人は、財務省を猟犬にして、各省庁の予算、特別会計特殊法人に切り込んで行くのでは、と思われる。

日銀はドルを買わされる

 しかし日銀の白川総裁は、今頃胃を痛くしているかもしれない。円安誘導とは、日銀がドル買いの為替介入をするということだ。しかし、米国の今の財政赤字の状況を考えると、今後ドルが下落するのは避けられない。その中でドルを買うのはリスキーな選択だ。
 日銀は買ったドルで、米国債を購入することになろうが、一度購入してしまうと、額が巨額なだけに、市場への影響が大きく(外交問題にもなりかねない)、手放すタイミングも難しい。

03年末からの日銀の大規模な市場介入

 日銀が大規模な市場介入をしたことがある。03年末、イラク情勢の影響を受け、投資ファンド円高ドル安を予測し、円を買い進め、円は高騰。1ドル=105円にまで値上がりした。
 日銀ディーリングルームから10億円単位の円売りドル買い注文が、矢継ぎ早に出された。一日1兆円規模の円売りドル買い介入が執拗に繰り返され、一説ではアメリカのヘッジファンド2000社が倒産し、自殺者・行方不明者が多数出たという。
 今回、またこれが再現されるのであろうか。

旧政権の対応

 どこの国も為替を安くしたい。人為的に円を安くしようとすれば、各国の警戒感をあおることになる。場合によっては報復関税を課される可能性もある。
 世界大恐慌では、通貨切り下げが貿易相手国の関税税率のアップを招き、通貨切り下げ、関税強化の悪循環を生みだした。結果、経済のブロック化が進み、日本やドイツが、高関税によって締め出された自国製品の行き場を求めた結果、第2次大戦が勃発したのである。為替の人為的切り下げは、当時の悪夢を想起させる。菅次期蔵相の発言は余りに露骨で、諸外国に対する配慮がかけているのではないか。フランスのラガルド経済財務雇用相は1月7日、テレビのインタビューで「ユーロだけが苦しみ、これに乗じてドルと人民元が互いに利益を享受するような状況にユーロを置くことはできない」と述べ、2010─11年に主要国首脳が為替問題に取り組む必要があると訴えた。
 日銀が、この時期、大規模な市場介入を行ってドル買いに走れば、「円」も世界から非難を受けることになる。

インフレターゲット論にも拍車がかかる

 菅直人はさらに、日銀にさらなる国債購入を求めてくるかも知れず、インフレターゲットにより明確に舵を切るようもとめてくるのではないか。12月白川総裁が、政策決定会合後の記者会見で、各政策委員が適当と考える消費者物価指数の上昇率の中心は1%程度」と強調し、1%になるまで金融緩和を続ける(日銀言うところの時間軸効果)ことを暗に示唆した際、菅は「実質的なインフレターゲットを打ち出した。デフレファイターの姿勢をはっきりさせた。非常に良かった」と手放しで褒めた。白川総裁の発言も民主党政府に突かれてのこと。今後、政府の日銀に対する圧力はますます強くなるだろう。