米経済は本当に大丈夫なのか

米経済指標の改善

米経済の足元の経済指標は、回復を示すものが多い。12月のISM製造業景況感指数が55.9と、市場予想を上回る幅で前月から改善した。12月のISM新規受注指数は65.5と、11月の60.3から上昇した。また、生産指数は12月に61.8と、前月の59.9から上昇した。同指数は09年前半の低迷から脱した後、勢いよく改善し09年8月から5ヶ月連続で50の水準を上回っている。
製造業の雇用指数も改善がみられる。12月の雇用指数は52.0と、11月の50.8から上昇。 1ポイント以上上昇。第3四半期のGDP成長率もプラス2.2%となった。
02年の米国もITバブル以降、IMS指数が5ヶ月連続で改善を見せたが、6ヶ月目に悪化し、結局2番底を迎えている。しかし、市場は1月も同指数は落ち込まず6ヶ月連続で高水準を維持し、2番底は回避されるだろうという見方をしているようだ。

米国経済学会は2番底を警戒

しかし、1月5日付ロイターによると、4日米国アトランタで開かれて米国経済学会の年次総会に出席した著名エコノミストらは、米国の金融危機はまだ終わりには程遠いとの見方を示し、ウォール街の銀行関係者や政府高官の間で強まっている危機の最悪期は終わったとの見方を否定した。イントリリゲータUCLA教授は、経済生産が危機前の水準に戻るには2013年までかかり、雇用市場は2016年まで完全に回復しないとの見方を示した。また、マサチューセッツ工科大のエコノミスト、サイモン・ジョンソンは、「金融セクターを支援してきた政府の努力は、避けられない新たな崩壊を遅らせているにすぎない」「危機はまだ始まったばかりだ。銀行は勝ったのか。短期的には勝っただろう。だが、目前にあった変革の機会はすでに失われた」と語った、という。
 今の米景気は「偽りの夜明け」の可能性がある、ということだ。

政府財政支出の先細り

米国の09会計年度(08年10月〜09年9月)の財政赤字が、史上最大の1兆4171億2100万ドルに達したと発表した。赤字額は過去最大だった08年度の4548億ドルに比べ、3.1倍。GDP比で10%に達し、第2次大戦末期の1945年度に記録した21.5%以来の規模になった。
 これは不景気で歳入が減少したこともあるが、ブッシュが大統領選挙に勝つため、金をばらまいたが、オバマも負けずに09年2月7870億ドル規模の景気対策法を成立させた。
 こうした財政支出を支えたのが、FRBだ。FRB国債ファニーメイフレディマック保証の住宅ローン担保証券(エージェンシーMBS)を買い取ることによって、政府の積極財政をサポートしたのである。しかし、このサポートも打ち切りになりそうだ。英国による増税独立戦争の発端となったお国柄だ。元々米国国民は税金の使途については神経質だ。議会も、経済指標の改善を理由に、政府、FRBのこれ以上のばらまきは認めないだろう。
 長期金利の動向も気にかかる。09年6月に長期金利が3.98%にまで上昇。その後長期金利は下がったが、最近また4%に近付きつつある。長期金利があがれば、住宅ローンも、事業資金貸付の金利も上昇し、景気を悪化させる。実際、最近住宅ローン金利が上昇し、住宅取得減税も打ち切られるとあって、居住不動産市況の低迷が心配されている。米国は10年には、過去数年に大量発行した短期国債の償還期限が相次いでくるため、赤字国債がさらに増加することを考えると、もう政府支出は限界に達しつつある。
 日経を見ると、日本の景気回復が遅れているが、米景気の回復は日本の一歩先を行っているといった論調だが、米景気の回復は政府の財政支出FRB量的緩和(市場にお金をジャブジャブ流す金融政策)に支えられた面が強く、今後こうした支出が打ち切られるとして、景気が自律的に回復していくかと言うと、GDPギャップは、足許▲6%前後と大幅な需要不足に陥っており、疑問がある。
 ところで米国の財政赤字と日本の財政赤字とどちらが深刻かと言った場合、米国の赤字財政の方が深刻である。日本の家計がGDPの約3倍、1500兆円の個人金融資産を持っているのに対し、アメリカの家計はGDPと同じ規模の約14兆ドルの借金を抱えていると言われる。財政赤字と家計の赤字という、米国にはもう一つの双子の赤字がある。このため、国内で国債を消化することができず、外国資本に頼らざるを得ない。中国が今後も米国債を買い続けるだろうかという不安定要素も抱えている。

商業用不動産の危機

 商業不動産の下落が止まっていない。そもそも商業用不動産価格は遅行指標と言われている。ISMの新規受注指数と言った先行指標、生産指数と言った現在指標が改善しても、商業不動産価格が上昇するのは、遅行指数であるから、まだ先の話になる。
 商業不動産は09年4〜6月にはピーク比でマイナス39.2%であり、住宅不動産の同マイナス31.7%に比べて、下落率が大きい。延滞率も09年9月末時点で8.5%となっている。
 エコノミストの中には、商業用不動産担保貸付は、住宅用不動産担保貸付の3倍程度ある。また証券化された率も住宅用不動産貸付の61.1%に比べ、25.1%と低く、金融に及ぼす影響は軽微なものとなるという意見の人もいる。
 しかし、そうした見解には疑問がある。住宅ローンは一度借りれば、30年、35年の分割払いは認められるが、商業用不動産担保貸付は3年や5年などの短い期間での借入のため、どうしても借換が必要になる。しかし昨今金融機関も融資に慎重になっている。また担保にした商業用不動産の価値も大幅に減っている。そうなると借換は難しいのではないか。借換ができないとなると、物件を処分して返済を行う必要がある。そうすると不動産価格が下がり、さらなるオーバーローンが発生してしまう。

地方財政悪化

 連邦政府赤字国債を発行できるが、地方政府は財政均衡を定められており、赤字を繰り越せない。このため財政が赤字になれば次年度予算では増税するか歳出を削減しなければならない。全米50州中48州が歳入不足。カリフォルニア州は9,10年度の2年間で400億ドル=3兆6000億円もの財政不足を生じている。
 世界大恐慌のときも、連邦政府財政出動による景気回復効果を、地方の赤字が減殺したが、その繰り返しが心配される。

一番の不安は雇用

 米大手企業の決算発表は増収増益で、それ自体を見れば不安はない。しかし、雇用が全くさえない。米国は出生率が2.05なうえ、移民も多く、雇用人口が増えないと、失業率が増えることになる。
 結局米大手企業の増収増益は、部品を海外から求め、海外進出を加速することで得られたもので、国内には還元されていないのである。これでは米GDPの7割を占める個人消費が振るわない。
 また米大企業が増益で貯め込んだ金を、設備投資に使わず内部留保にしていることも問題だ。(10.9.8)