日航再建策の混迷

日航への公的支援策の混迷

日航再建策が混迷を極めている。鳩山さん、前原さん、高木新二郎さんをトップに据える作業部会も、破産処理は考えておらず、政府の金を使って何とか救済しようという方向に動いているらしい。

改正産業活力再生法

政府の金を使うにも、大義名分がいる。ようするにどういう法律を使って救済するかが重要だ。まず名前が上がっているのが、改正産業活力再生法。同法は、金融危機下で企業金融が得られず困っている企業が「事業再構築、経営資源再活用、経営資源融合、資源生産性革新」のためにお金が必要であれば、それを政府が公的資金を使って支援しましょう、という法律である。
日本航空の場合、2条4項1号ロの「事業再構築」に該当するかが問題になる。この「事業再構築」とは、「生産性の相当程度の向上を図るために事業者が行う事業の構造の変更」であって、事業財産の譲渡や廃棄、会社の分社化、株式交換、株式譲渡、子会社の譲渡等を伴うものをいう。日航が、「事業再構築計画」を提出、主務大臣の認定が得られれば(5条)、日本政策金融公庫が、「危機対応業務」(同公庫法11条)として、日航支援銀行に金を貸し、その金を銀行が日航に貸すが、その貸金について公庫が保証人になるという仕組だ(24条の2)。
条文上は、この法律で日航を救済することも可能だが、本来、産活法のこの規定は、金融危機下で、企業が選択と集中を進めるについて、銀行が融資したくてもできないような状況で、公的資金が融資を下支えしようというもの。銀行が融資を引き揚げたがっているような、ダメ企業を救う法律ではない。日航にこうした資金を供給すれば、本来この法律で公的支援を受けるべき企業を支援できなくなる可能性もある。

企業再生支援機構

「株式会社企業再生支援機構法」によって設立された企業再生支援機構に、融資、保証をさせようという案もあるが、これも疑問だ。
同法の目的は「地域における総合的な経済力の向上を通じて地域経済の再建を図り、併せてこれにより地域の信用秩序の基盤強化にも資するようにするため、金融機関、地方公共団体等と連携しつつ、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅事業者、中小企業者その他の事業者に対し、当該事業者に対して金融機関等が有する債権の買取りその他の業務を通じてその事業の再生を支援する」ことにある。中堅企業の再生支援を目指しているのであって、日航のような大企業を救うための法律ではない。技術も人もいて、本来潰してしまうには惜しい企業を救ってあげようというのがこの法律で、日航にはふさわしくない。また、同法25条9項には、「事業所管大臣等は、前項の規定による通知を受けた場合において、過剰供給構造(供給能力が需要に照らし著しく過剰であり、かつ、その状態が長期にわたり継続することが見込まれる事業分野の状態をいう。)その他の当該事業者の属する事業分野の実態を考慮して必要があると認めるときは、第7項の期間内に、機構に対して意見を述べることができる。」とあり、慢性的供給過剰にある航空事業を救済するのも、本法の趣旨に反している。それに09年度予算における政府保証枠は1.6兆円であり。日航だけを支援しては、本来支援を受けるべき他の企業の支援ができなくなってしまう。

ADR手続

 ADR手続でまとまるくらいの話なら、現段階でとっくにまとまっている。

特別立法

 現在、日航問題を解決するために、確定給付企業年金について、特別立法の制定が考えられているという。公共交通にかかわる公益性の高い企業に限り、企業年金の高い給付水準を強制的に引き下げることができる内容だ、という。現行法下では、受給者に不利益となる制度変更をする際は、受給者の3分の2以上の賛同を得なければならないことになっているため、その特別法ということになる。
 確かに、このような法律が成立すれば、年金問題が解決し、金融機関による債権放棄や公的資金の投入なども円滑に進み、再建が一気に加速するかもしれない。しかし、将来必ず、財産権侵害、法の下の平等違反を理由に、訴訟提起がなされよう。一応法律上は「公共交通にかかわる公益性の高い企業」全般についてのものとの体裁は施されている。しかし、何故、このような企業に限定して年金水準を強制的に下げなければならないのか、理由が思いつかない。日航を狙い撃ちにしているのが見え見えだ。憲法上かなりの疑義がある。
 そもそも、本来法律では、加入者の請求があれば「減額する前の給付に相当する額」を一時金で払わなければならない。もし、そうした一時金請求を排除しようということを考えているとするなら、明白な財産権侵害になる。
 あとで訴訟で負けたら、あのとき、法的清算手続きをとっておけばよかった、と後悔することになりかねない。