亀井さんのモラトリアム

亀井さんの金融モラトリアム発言

 亀井さんのモラトリアム発言で、金融界はひっくり返ったような大騒ぎになった。亀井さんが、徳政令的なモラトリアムをしようというのではないか、との観測が走ったからだ。政府が強制的に元金の支払をストップさせる、場合によっては利息もストップするといったことになれば、銀行としては入ってくるべき金が入ってこないことになるからだ。ただ、最近の新聞報道によると、単なる努力目標で、銀行に過度の負担を与えないよう、信用保証制度や改正金融機能強化法、企業再生支援機構など既存の制度を活用する方向らしい。

返済猶予は努力目標

 返済猶予は努力目標ということだ。1年間の時限立法とし、返済猶予は最長で3年間認める方向。返済猶予は、金融機関や信用保証協会が審査し、業績の回復が将来見込める中小企業を対象にする。収入が激減し、住宅ローンの返済ができなくなった個人も対象とすることも検討する。返済猶予の対象は、元本だけでなく、希望者には金利の支払いも含める。銀行が国会に返済猶予の状況を報告させることで、心理的圧迫を加えようということらしい。
 日経は銀行擁護論を盛んに言っているが、一方に偏してはいないか。バブル崩壊後、ゼロ金利政策で、銀行は国民家計の犠牲の元に、収益力を回復し、立ち直った。その一方で一番打撃を受けたのは、リタイア世代だろう。この世代は、退職金を預金し、その利息と年金とで生活することをささやかな夢にしている。しかし預金金利がほとんどゼロに近いなかで、彼らは退職金を食いつぶすしかなかった。他方、銀行はほとんどタダに近いコストで預金をかき集め、それに金利を載せて貸すのだから、水に色をつけて売っているようなもので、ぼろ儲けすることができた。銀行も国にこれだけ助けてもらったのだから、もう少し恩返しをしたらどうなのだ。
 ただ返済猶予は最長で3年とあるが、最長期間がどの程度認めてもらえるかは不明だ。現状、銀行が元本支払猶予する場合、半年、せいぜい1年ではないか。困るのは保証協会付融資である。半年ごとの見直しということで、半年ごとに手数料を取られるのだが、この費用がばかにならない。これが払えなくて返済猶予が得られない場合もある。こうした点についても目配りしてほしい。

不良債権基準の緩和

 政府は金融検査マニュアルを弾力化し、不良債権基準を緩和するらしい。本来の金融検査マニュアルでは、支払猶予を行った貸出先が、3年以内に経営改善しないと、不良債権に色分けされ、貸倒に備えて積み立て(引当)をしなければならないことになっている。金融庁は昨年の金融危機以降、一時的に要件を緩和。10年以内に経営改善の見込みが立てば不良債権と区分しないようにしている。この10年ルールをさらに続け、利息の一部を支払っていれば、正常債権と認定する考えらしい。
 当然、日経新聞は猛反発、そのような会計基準を採用すれば、不良債権隠しにつながり、邦銀の健全性に対する信用低下をもたらすと反対している。しかし、金融大国米国も、本来取引のほとんど成立しないような金融商品はそれなりの時価評価が必要であろうはずなのに、銀行の自社ルールで査定していいという大甘ルールを採用。ストレステストを受けた米大手銀行は、FRBは健康体で有ることのお墨付きをもらった。米国の大甘ルールは銀行救済だが、不良債権基準の緩和は中小企業救済。志の内容が違う。IFRSという国際会計基準の大波の前で、邦銀は、長期保有株についての時価基準採用を阻止しようと躍起なくせに、ご都合主義ではなかろうか。

信用保証協会の活用

 信用保証協会が融資を保証する信用保証制度の活用も考えられているらしい。金利支払いを猶予する場合は、元本も含めた借り換えに、信用保証協会の保証をつけるなど、既存の保証制度を活用する。よく理解できないが、支払猶予前が銀行プロパー債権だったのが、支払猶予後保証協会保証付債権に元利丸ごと切り替わるということになると、銀行が焼け太りすることになる。銀行は危ないプロパー債権をどんどん保証協会保証に切り替え、損失を信用保証協会に押し付けることになりかねない。
 猶予期間中に企業が破綻(はたん)し、金融機関に損失が発生した場合は、信用保証協会による既存の損失補てん制度を活用するともいう。この場合の損失とはどういうものだろう。支払延期した結果破綻してしまったという場合、回収不能金額全額ということにはならないだろう。猶予期間中返済予定だった元金分ということだろうか。

改正金融機能強化法、企業再生支援機構の活用も

 返済猶予に応じる金融機関が経営難に陥らないようにするため、改正金融機能強化法に基づいた公的資金の注入も活用する。一方、借り手の返済を猶予するだけでなく、その後の再建を後押しする必要もあるため、中小・零細企業の再生を手掛ける企業再生支援機構の活用も視野に入れる。ここら辺になると大まか過ぎてどこまでやろうとしているかも分からない。早く、スキームを公表して、国民の声が反映される機会を与えるようにしてほしい。