オバマ大統領 ノーベル平和賞受賞

オバマ大統領の受賞

 オバマノーベル平和賞が授賞されることになった。オバマは09年4月、チェコプラハ核兵器のない世界を目指すとの演説を行い、聴衆を熱狂させたことは記憶に新しい。しかし、オバマ核兵器のない世界実現のために具体的に何をしたかというと、まだ何もしていない。日本の首相が同じことを言っても、新聞の一面にも載らないが、米大統領核兵器廃絶を言っただけで、ノーベル平和賞をもらえるのだから楽なものだ。
 ただ、米大統領とは、常におつきの者が核ボタンのスイッチの入ったスーツケースを持ち歩き、この世の終結を決定することのできる人物なのであるから、その人物が核兵器廃絶を言ったのは異議が大きいとは一応言えるかもしれない。しかし、警察庁長官が「銃のない社会を作ろう」と言っても、記事にならないが、山口組のトップが同じことを言えば、勲章をもらえるのかというのと同じ話ではないかという気がする。

オバマ核戦略に関する外交課題

 ただオバマが抱える外交の重要な課題の多くが、核に絡んでいるのは事実だ。

  • 欧州では米国のミサイル防衛(MD)計画が問題となっている。MD計画については、ロシアが自国の核ミサイルを無効化し、核のバランスを崩すものとして、強力に反対している。同計画ではポーランドに迎撃ミサイル基地を、チェコにレーダー基地を建設する予定だったが、オバマは、09年9月にこの計画の見直しを決めた。しかし、イランの欧州に対するミサイル攻撃能力について、欧州の新たな防衛体制を構築するとも表明しており、MD計画を取止めるのか、焼き直した上で実行するのか不透明だ。
  • 対ロシアでは、09年12月5日に失効するSTART条約に代わる、新条約の内容が問題となる。7月6日、米ロ両大統領は、両国が戦略核弾頭を1500−1675の範囲まで、戦略核の運搬手段(戦略爆撃機、潜水艦等)を500−1100の範囲まで削減することを約束した。ロシアは、財政状況からして、戦略爆撃機、潜水艦を現状維持できる状態になく、今後順次廃棄していくほかない。だから米が戦略核運搬手段を減らしてくれるのは願ってもない話だ。このため米議会は「敵に塩を与えてやるのか」という反対論も多く、紆余曲折が予想される。
  • 中東ではイランの核開発が一触即発の危機をはらんでいる。9月25日、IAEAは、イランが新たに2つのウラン濃縮施設を建設中であると伝えてきたことを明らかにした。同日、オバマは「あらゆる選択肢を排除しない」と述べ、軍事的手段を行う可能性を示唆した。イランの核はイスラエル向けられている。イランの革命防衛隊は9月27日、軍事演習の一環として、射程距離300〜700㎞の中距離弾道ミサイルの試射を行った。同ミサイルはイスラエル全土を射程に収める。イスラエル核兵器保有を否定しているが、「本当は持っている」というのが世界の常識。その数も100−200個と言われる。イランが今後も核開発を続けるとなると、イスラエルが直接攻撃を加える可能性があり、それはさらなる緊張を生みかねない。
  • アフガン問題も核と結びついている。アフガンにタリバーン政権が誕生すれば、パキスタン国内のイスラム原理主義グループが活気づく、パキスタン保有する核兵器タリバーンの手に渡れば、大変なことになる。
  • 北朝鮮核兵器放棄
オバマ授賞の政治的動機

 ノーベル賞受賞者の選択は、西欧側の政治的動機によって行われることが多い。旧ソ連時代のサハロフの平和賞受賞、ソルジェニーツィン文学賞受賞、ポーランド民主化の旗手ワレサの平和賞受賞、ダライ・ラマの平和賞受賞などが典型的だ。本来は政治的意図とは関係なさそうな経済学賞であるが、08年のブッシュ批判の急先鋒クルーグマンの受賞は、ブッシュの退陣を祝う欧州のうっ屈した心情の表れのようにも思えた。
 さてオバマの平和賞受賞だが、核兵器廃絶を、言葉だけでなく、現実の行動で示してくれ、という欧州からの意思表示ではないか。今回のオバマへの平和賞の授与は、都内の有名大受験をすると宣言した息子に、まだ受からないうちから通学用に都内にマンションを借りるようなものだ。息子も、オバマも今さら「あれは勢いで言ってしまいました」とは言いにくくなるに違いない。