シンキの主張 過払金に手をつけたら横領ないし背任?!

シンキの珍奇な主張

 最近消費者金融が過払金請求訴訟でびっくりする主張をしてくることがある。どういう人間がこの書面を作っているのか分からないが、法律の勉強を始めたての初学者のような書面を書いてくる。以下はシンキの主張である。最高裁平成21年9月4日第2小法廷判決で、過払金利息は過払金発生時から発生するとの判断が示されたが、なおシンキはこの主張をするのであろうか。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37953&hanreiKbn=01
 民法704条が不当利得の受領と同時に遅延損害金(利息)の付加を認めた趣旨は、当該不当利得について損失時(受領時)より運用していれば少なくとも法定利息分程度の法定果実は発生するであろうとの計算と、悪意の受益者に対する行為批判である。
 704条で悪意受益者が支払う利息は、「元本を悪意で不当に利得した者は、元本が現存するか否かにかかわらず、当該元本から生じた果実たる利息も支払うべきである」という公平の観念から生じたものである。遅延損害金ではない。立法趣旨に利益考量はあろうが、「悪意受益者への行為批判」といったものはないと思う。しかし、その点を除けば、正しい理解を行っており、この理屈からいったら悪意の受益者は過払金利得当時から利息について支払義務を負っていることになる。
 しかし、シンキはここから奇論を展開する。
 最高裁判決によれば、過払金充当合意が認められる場合、過払金は将来発生する貸付金に対する充当金として交付されたものと擬制する、ことになる。とするならば、貸金業者は受領した過払金を将来発生する貸付金に充当する充当金として預からなければならない。そうするとかかる預かり金を受領した金融業者は勝手に当該預かり金を運用してしまえば、背任ないし横領という行為を働くことになってしまう。貸金業者に対して返済の都度個別に利息(遅延損害金)を請求することは、貸金業者に対して不適切な行為を犯すことを奨励することになってしまう。このようなことを法及び最高裁判所が是認することは到底あり得ない

金銭は価値そのもの

 金銭は、「価値」そのものであり、他の優待物とは異なり、個性を持たない。100円玉1枚でも、10円玉10枚でも、その個性を離れて、双方100円という価値を表すものに過ぎない。ある者が金銭を封筒に入れて預けたといった場合は、金銭が特定物として扱われるから、預かった者がその中の金を使い込んだら横領になる。しかし、貨幣ないし紙幣が決済の手段として扱われる限り、価値物に過ぎず、それを使い込んでも横領の問題は生じないのである(返却する意思も能力もないのに受け取り、使いこんだら詐欺の問題は起こり得る)

シンキの主張はさらに飛躍する。

 平成20年1月18日最高裁判決が、その判決中で平成19年6月7日最高裁判決を引用していることから、次の如く主張は飛躍する。
たとえ同一の基本契約であっても、取引に中断期間がある場合には、上記のような詳細な(平成19年判決が示すような、契約書やカードの破棄・返却の有無、空白期間の長短、再借入の経緯、契約条件変更の有無)検討に基づく事実認定が必要なのである。
 これに対する反論は一言。平成21年1月22日最高裁判決を見よ、である。

シンキの個別主張

 シンキは、ノーローンを行っている。1週間で完済すれば利息は無料という取引だ。このため、顧客の中には頻繁に完済を繰り返している人もいる。当然、同一カードを利用しての取引であるため、一連貸付であるとして一連計算を主張する。証書貸付についての最高裁平成19年7月19日第一小法廷判決も予備的に引用する。同判決は「平成15年4月2日に,いったん,それ以前の借入れに係る債務を完済するための返済をしたが,その約3か月後である同年7月17日には,従前の貸付けと同様の方法と貸付条件で貸付けがされ,平成16年1月6日,従前の貸付けと同様の借換えがされ,その後同年4月5日まで元本及び利息の分割返済が重ねられた。」事案について、一連計算を認めたものだ。
 無利息取引と利息取引とを交互に繰り返していたり、当初が個別貸付で始まっていたり、という点で、シンキの取引には特殊性が有り「本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である」とする平成19年6月7日最高裁判決を、漫然と引用すると、思わぬ反論に合う。(追加)