プリウスのバカ売れはトヨタにとって良いことか、悪いことか。

日産対トヨタ

 日産対トヨタ、現在のところ、完全にトヨタが二歩も三歩も先を行っていた。09年6月の新車販売台数の1位がプリウス、2位フィット、3位ヴィッツ、そのあとにインサイト、パッソ、セレナ、フリード、カローラ、ウィッシュ、ヴォクシーと続く、ベスト10の中に日産はセレナ1車種しか入っていない。11位ノート、13位ティーダ、15位キューブ、20位マーチと、日産はベスト11以下にずらりと並んでいる。
 プリウスインサイトなど、ハイブリッド車の売上が急増しているが、日産がハイブリッド車を市場に出すのは2010年。周回遅れと行ったところだ。
 日産は、99年にリチウムイオン電池を動力源にした「ハイパーミニ」を発売。翌00年には同電池を搭載した独自のハイブリッドシステム「NEO HYBRID」を開発し、「ティーノハイブリッド」として限定販売した。日産はハイブリッドに無関心だったわけではなく、むしろトヨタを一歩リードしていた。しかし、99年日産はルノー傘下に入り、カルロス・ゴーン社長の下で、ハイブリッドカーの開発部隊は残されはしたが、表舞台には立てなかった。

ハイブリッド技術の中身

 ハイブリッド車には独自の技術者が必要となる。まずは、ハイブリッド・コントローラーを設計する制御系エンジニア。ハイブリッド・コントローラというのは、ハイブリッド車の頭脳で、そのプログラムは膨大な量だ。こうしたプログラムが書くプロが必要になる。次にシミュレーション技術の専門家。当然、実際にモノを作ってみて、うまくいくか確かめたほうが確実だが、金と時間がかかりすぎる。だから、さまざまな負荷、運転条件のもと、実際エンジン制御がうまくいくかということを、コンピュータでシュミレーションすることが必要になってくる。さらに、モータ、バッテリ、インバータなど、ハイブリッド車を構成する部品を開発するエンジニアが必要になる。
 日産はこうした開発部隊を温存しており、いざとなればハイブリッド車開発に向けて一斉に動き出すだけの力がある。

ゴーンの興味は電気自動車に。

 しかし、ゴーンはハイブリッド車より、電気自動車に目が行っている。ゴーンは電気自動車を、今の車と同じ価格で売り出すという。電気自動車はリチウムイオン二次電池二次電池は蓄電池の意味)を使うが、この電池がバカ高いため、電気自動車を通常の車の2倍ほどの値段にしてしまっているのだ。
 じゃあゴーンはどういう魔法を使うのか。ゴーンの考えはこうだ。お客が買うのは車の本体だけ、電池はリースにする。電池のリース代がガソリン代くらいになれば、みんな普通にリース代を払うだろうということだ。しかし問題は電池のリース代を安くする方法だ。電池リース代を安くするには、電池の製造費を安くする方法がもう一つ。これは一朝一夕にはできない。ゴーンが狙っているのはもう一つ、電池の寿命を延ばすことだ。しかし二次電池は、充電を繰り返すごとに、必ず劣化する。5年も立ったら、車の動力源としてはかなり心許ないものになってくる。そうしたら、その電池を別の用途に使うのだという。
 15年もつ電池をリースするとなると、もう一つ大きな問題が出てくる。仮に1年で50万個の電池を供給するだけで、750万個の電池を所有し、管理しなければならない。年間300万個作れば最終的には4500万個の電池を所有することになる。このような過大な資産を内部に持つのは、負担が重すぎる。そこでゴーンが考えているのが、電池リース事業を証券化して、投資家にお金を出してもらおうという考えだ。

トヨタにとって、プリウスは救世主か

 確かにプリウスの売れ行きはすごい。特にエコカー減税の影響は絶大だ。売り上げは、5月が前月比114.9%2増、約2倍であるし、6月が前年比257.8%増、約3倍近い。しかしトヨタのほかのヴィッツカローラといった車種が、プリウスに客をとられているのだ。最近はクラウンの客層までもがプリウスを買うという。クラウンは「いつかはクラウン」の宣伝にもあるよう最高級車種。これが売れてくれれば、利益率も、価格も高いのだが、その貴重な客層に利益率の低いプリウスを買われては、プリウスの販売台数がいくら増えてもトヨタにはうれしくないはずだ。
 余談になるが、プリウス以外で一番気を吐いているのが、6年ぶりにモデルチェンジしたウィッシュ。「200万円前後の価格で7人乗車が可能、その割に手頃なサイズ感」というコンセプトで売り上げを伸ばしている。