産業革新機構 お役所思考で何ができるのか

産業革新機構が27日に設立

 経産省は、企業同士の事業統合や新技術の開発などを支援する「産業革新機構」を27日に発足させる。06年4月に成立した産業活力再生特別措置法産業再生法)に基づき設置する株式会社だ。15年で解散することになっている。出資の是非は新設の産業革新委員会が決定する。能見公一(63)元あおぞら銀行会長が初代社長。産業革新委員会の委員長には吉川弘之産業技術総合研究所理事長(75)が、最高執行責任者(COO)には米系ファンドのカーライル・グループの朝倉陽保氏(48)が就任する。
 政府は820億円、政投銀が10億円、民間企業は1社5億円出資する。すでに、パナソニック東京電力など20社あまりの国内大手企業が総額100億円程度を出資する見通しだという。しかし、これって官民ファンドと言えるだろうか。国の出資の方が圧倒的で、民間のリスクは少ない。民間出資も、「面白そうだからやってみよう」というのではなく、大手企業から横並びの奉加帳方式で金を集めただけ。みんな国のいうことだから、お付き合いで寄付しているだけだ。この点も非常に日本的だ。
 理念は立派だ。「成長が期待できる新しい産業の支援」「日本の潜在力を最大限に引き出す産業構造への転換」「投資ビジネスの成功事例の創出」を目指すという。おまけに、純投資として将来のリターンも見込む。「おまけに」と書いたのは本当におまけだからだ、民間がリスクを負わなければ、本気で新しいビジネスの種を探すことはしないだろう。単に「税金を無駄遣いしませんよ」と言っているだけに過ぎないように思う。

産業革新機構の実像

 同機構がどうやって、先進的ビジネスを育てて行こうと言うのか。国会で同制度について民主党の大島敦議員(私の大学の同窓である)が、国会質問で「目利きはどこから連れてくるのか」「サラリーマン根性で取り組んだらだめ」「民間がリスクを負わなきゃ、成果は生まれない」「どういうふうにリスクを負わせるのか」といったような質問をしたのだが、経産省官僚で大臣官房政策評価審議官の石黒憲彦さんが、政府委員として次のように答えている(石黒さんは「新事業創出促進法」立ち上げに参加。主にベンチャー企業・中小企業振興の政策に携わってきたエース的存在)。
「私どもがシリコンバレー等のベンチャーキャピタリストの話などを聞きましたときに、一つ重要なポイントは、委員が昨日も御指摘だった点ではございますけれども、いかにネットワーク能力を持っているかどうか。要するに、技術の目ききについて、また別な専門家からいろいろな意見を聞けるネットワークを持っているか持っていないかといったようなあたりは非常に重要なポイントだろうと思います。もちろん、すべての技術等に知見を持ったスーパーマンのような方がおられればいいのでありますけれども、現実にはそういうわけにはいきませんので、どれだけ技術の評価、事業の評価ができる方々とのネットワークを持っているか持っていないかといったあたりも一つ大事なポイントだと思っております。委員の御質問に関してお答え申し上げますと、まず、なるべくそういった知見をお持ちの方を探してくるのが一点。また、そういった方を核にしながら、目ききのネットワークをこれからどうつくっていくかといったようなところについて、私どもも努力をしてまいりたいというふうに思っております。」
「CEO、COOのもとに、それぞれ専門分野のマネジングディレクタークラスをチームとして配置することを考えております。その上で、マネジングディレクターがある程度案件を、オーソライズは委員会等でさせていただきますが、責任を持って投融資をさせていただくわけでございます。その方の実際の実績といいますのは、すべて公表させていただきます。したがいまして、投融資の実務の結果として、何年後かにどの程度のリターンを上げたかというのは、その人の名前と一緒について回るということでございます。」
http://selfpit.way-nifty.com/selfpit/2009/04/post-c24a.html
 要はマネジングディレクターの人選次第ということだろう。高給を餌にヘッドハンティングをするようなことはしないだろうから(本当の民間ファンドだったらそうするだろうけど)、参加企業に出向を願うということになるのではないか。しかし、企業がお付き合いで金を出しいているだけで、企業の利益にもなんもならないこういったところに有能な人材を出すだろうか。あるいは、どこかの独法の理事かなんかを引っ張ってくるのかもしれないが、そうなったら最悪だ。学者か。一線の学者は研究の中断を嫌がるだろう。結局、これといった人材は集まらないのではないか。

基盤技術研究促進センターといった失敗例

 85年4月に、日本電信電話株式会社の設立に当たって発行された株式1560万株のうち、3分の1に当たる520万株が政府保有義務株とされた。これから見込まれる配当260億円が、産業投資特別会計に帰属することとなり、これで新技術の開発をやろうじゃないか、といういかにもお役所的発想から、基盤技術研究促進センターが設立された。基盤センターは、基盤技術研究を目的とする会社を民間企業に作らせ、この研究開発プロジェクト会社に対して、研究開発費の7割を出資。残り3割は民間の企業等が出資することとなっていた。
 結果は大失敗だった。研究開発プロジェクト会社74社に対しては、12年度末までに、民間からの出資金と合わせて4000億円を超える出資金が投下されているが、特許収入等の総額はわずか30億4627万余円である。前記29社のうちには、単年度では利益を計上している会社が7社みられたが、各社とも膨大な繰越欠損金を抱えているため配当できる状況にはなっていなかった。結局配当を実施した会社はゼロ。基盤センターが出資金を回収した実績についてみると、解散した会社16社の残余財産の分配金8億0721万余円のみであり、16社に係る基盤センターの出資額249億6060万円のうち、241億5338万余円が損失処理されていた。
 会計検査院は同センターの失敗の理由を次のように分析している。

  1. 基礎研究の要素を多く含む基盤技術研究には、成果を事業化するに当たりいくつかの技術的課題の克服と相当の研究期間を要するものが多く、その間に、最近の技術進歩・市場動向の急激な変化により特許権等の成果が陳腐化してしまうリスクが存在している。同時にこのような事業化をめぐる状況の下で、採択時から各段階における評価において事業化の可能性を正確に見通すことは容易ではない。
  2. 研究開発プロジェクト会社74社の設立に参加した企業等の数は400ほどであるが、その一部は複数の研究開発プロジェクト会社に出資しているため、研究開発プロジェクト会社1社当たりの出資企業等の数は平均20を超えている。このように、複数の企業等の出資により研究開発プロジェクト会社を設立し、共同研究を実施する方式は、異業種間あるいは同業他社間の交流を通じて、参加企業の技術力の向上や技術分野の拡大が促される反面、実際に事業化するのは各企業であることから、競合する企業間で実用化の最終段階まで共同研究を継続することは困難である。
  3. 会社に赴いて調査した前記29社の特許収入等についてみると、例外的な2社を除く27社においては、ほとんどが出資企業等からの収入でその割合は92.2%に達しており、特許権等を利活用する者が出資企業等に限定されがちな傾向となっていた。出資企業の意向は、主として成果をいかに自社の企業活動に活用するかという点にあり、また、成果管理会社にあっては、管理費用を節約するため最小の人員と経費で運営されており、成果普及活動等はほとんど行っていない状況であった。

http://report.jbaudit.go.jp/org/h12/2000-h12-0625-0.htm
 同じ轍を踏まないことを、納税者の一人として願ってやまない。