原発輸出競争に日本は勝てるか

原発ラッシュがやってきた

 世界的に原発ラッシュが起き、ウラン需要が急増している。世界原子力協会によると世界で47基の発電所の建設が進み、415基が計画中、検討段階にあるという(社団法人日本原子力産業のHPによると計画中は66基、最多は中国の13基。日本は12基、米国、インドは8基、ロシアは5基、インドネシアは4基)。09年7月16日付日経朝刊では、OECDが、原子力、風力、太陽光等の低炭素発電所の輸出を推進することで合意との記事がでた。発電所を輸出するについて、輸出国側の企業が、輸入国側の企業に輸入代金を融資するについて、ダンピング的な利息設定等が行われないように、最優遇融資条件をガイドラインとして定めているが、低炭素タイプの発電所については融資条件を緩和しようというのである。日経は「原発などに強みを持つ日本企業にとっても追い風になる」とするが、果たしてそうだろうか。

日本の原発の技術力

 原子炉には、加圧水型と沸騰水型がある。国内プラントメーカーは、東芝・IHI連合,日立製作所三菱重工の3社。従来、東芝・IHIと日立は沸騰水型軽水炉(BWR)、三菱重工は加圧水型軽水炉(PWR)という色分けが可能だった。しかし、BWPメーカーの東芝が、世界的PWPメーカーのWHを買収し、BWRとPWRの両技術を持つことになったため、こうした色分けが無くなった。(注)なお東芝が取得したのは発行済み株式の77%。20%が米国メンテナンス企業のショー、3%はIHI。

日本の原発の技術力

 日本が有する先端技術がABWR(Advanced Boiling Water Reactor)、改良型沸騰水型原子炉だ。世界初の商業ABWPが東京電力柏崎刈羽原子力発電所6、7号機である。このAPWRは、日本国内でBWPの改良を重ねた結果得られた技術であり、次のような特徴がある。日立も沸騰水型炉メーカとして、同じ技術を持っている。 
大容量・高効率:従来のBWRに比べて熱効率が向上。電気出力は、世界でも最大級の1350MWe級。
経済効率:建設期間が従来の60か月から48か月に減少し、定期検査期間が減り稼働率が向上。
総合デジタル監視制御:作業員の労働中の被爆量が減少、放射性廃棄物の低減、鉄筋コンクリート製格納容器使用が可能に。
安全性:インターナルポンプ採用により配管が減少、原子炉建屋の体積が従来比76%に減少

WHの技術力

 WHはAP1000という新型のPWRを開発。このAP1000とは、このAP1000は、ポンプ等の動力を使わず、重力等を利用して冷却水を注入するものだが、このことで安全性が向上したほか、格納容器外の配管設備等が大幅に減少することで建設コストも低減している。出力も従来型AP600の600千kWからの1000千kWに向上している。東芝は、WHを買収したことで、加圧水型、沸騰水型いずれの原子炉においても開発型の技術を得ることができたことになる。このAP1000の開発には三菱重工も参加していたため、三菱重工としては鳶に揚げをさらわれた感じだろう。
 なおABWRは97年に米国原子力規制委員会(NRC)の標準設計承認が出ており、AP1000は05年末にNRCの設計承認を得ている。

日本企業に成算があるのか

 原子炉メーカの人のブログだと思うが、次のような記述があるので、ご参考まで。
原子力発電所建設の機運が高まっている米国では、ある事業者が複数の新型原子炉(ABWR,AP−1000,ESBWR)について建設費用の比較を行ったことがありました。その結果、ABWRは経済性が優れているとは言えない、との結論が出ていたと記憶していますが、結果的には米国の複数の発電所でABWRが採用されることになりました。これは、ABWRは1997年に米国原子力規制委員会(NRC)の標準設計承認が出ており、既に米国外では安定した運転実績があることによるものと思われます。なお、この時に経済性でABWRに勝利したAP−1000はWHが開発したもので、こちらも2005年末にNRCの設計承認を取得しています。世界の原発の炉型はNRCの設計承認の影響を受けることが多く、これを見越してWHを取得した東芝さんは上手くやったな、と思います。”
“今や世界一の原発推進国である中国は、「中国国内に建設する原発は、他国の規制機関の承認があることが望ましい」(2年程前のNucleonics Weekだと思いましたが・・・忘れました)としています。AP−1000は中国の希望する技術移転(と費用)の問題をクリアできれば、かなり「戦える」炉型なのではないかと思います。”
“最近の報道(12/28電気新聞)によると、原子力発電所新設を視野に入れている英国では、欧州で幅を利かせているAREVA社の独走を懸念し、AREVA以外のプラントメーカー、さらには欧州で主流となっているPWR以外の炉型についても導入の余地があるとしています。ここでも、安全性についてNRCの承認を得たABWRとAP−1000が高い評価を得ており、採用候補に含められる可能性があるそうです。英国の炉型は古い世代のガス冷却炉(AGRとGCR)が殆どで、軽水炉は1995年に運開したサイズウェルB(PWR)が一基あるのみ。この辺に実績のある日本勢が食い込む余地がありそうです。”
“WHとの関係を失った三菱は独自開発の大型炉、APWRの海外への展開を加速(NRCの設計承認申請)させるとともに、同じPWR陣営であり欧州を活動の中心としているAREVAと提携し、APWRと競合しない100万kw級の中型炉の開発を行なう事としています。”
http://nucnuc.at.webry.info/200701/article_1.html

情報隠ぺいは今後世界的信用問題

 原子炉の事故、不備についての情報隠ぺいが、過去たびたび発覚しているが、今後はこういった問題が原子炉の売り上げに大きく影響してくるだろう。とくに欧州向け輸出の場合は、致命的なダメージになるかもしれない。
※ ちなみに私は原発については活断層の上にないかという立地の安全性。また原子炉自体の安全性より、北朝鮮工作員が日本の原発を乗っ取るほうを心配しています。

追記

 経産省は原子炉メーカ以外の素材・部品企業の技術開発に初めて補助金を出すことになった。IHIの大型蒸気発生器、神戸製鋼は大型鋼塊の鍛造技術、日本製鋼所の鍛造部材の製造技術の開発を援助するという話だ。(日経09.8.20)
 フランスは官民で原子力発電設備の輸出を推進している。フランスの原子力関連企業のアレバは、仏政府が株式の9割を保有する準国営企業だから、政府の応援も半端じゃない。アレバは2月にインドに原子炉を納品することを合意したが、サルコジ仏大統領自身が7月、パリでインドのシン首相と会った際、追加発注を要請した。仏はチュニジア原子力協力協定を締結。これも仏首相が仏企業団体に同行し、トップ会談で話がついたという。仏は原子炉輸出だけにとどまらず、私企業連合で発電所運用、送電システムまでも受注するし、アレバ自体がウラン鉱山、精練、核廃棄処理の一連のシステムを提供しているため、受注が決まった場合の波及効果が大きい。(09.9.10日経)

追記

 この頃、日本の原発輸出は大きな曲がり角を迎えている。09年12月、「韓国型原子力発電所コンソーシアム」がUAEが発注した原発建設事業者に選ばれた。10年2月には、ベトナムでの建設予定原発の第1期工事(原発2基)をロシアが受注した。韓国はイ・ミョンバク大統領が直々にUAEに乗り込んで交渉をまとめ、ロシアは軍事援助も絡めて受注に成功した。最近はこうした官民一体になっての売り込みが多い。ただ原発に限ってみれば、同様のことが日本はできない。他国は原発メーカーは一つだが、日本は東芝と日立とがライバルであるからだ。政府としてはどちらかに肩入れすることができない。(10.3.29追加)

トップセールスにおける日本の弱点

 原発新興国宛輸出するについては、政府首脳のトップセールスが重要になる。
 UAEのアブダビ首長国は27日、アラブ諸国初となる原子力発電所の建設を韓国電力公社を中心とする韓国企業連合に発注した。韓国勢としては海外で初の原発一貫建設の受注。日立とGEを中心とする
日米企業連合も、アレバを中心とする仏企業連合も敗退した。
 韓国単独では基幹部品の供給ができないため、東芝と同社傘下の米原発大手ウエスチングハウスも技術協力で加わるが、その分は1割程度に過ぎない。今回の受注は李明博大統領のトップセールスが決め手となったと伝えられている。
 それに対して日本はどうか。日本の場合原発プラントメーカーが、東芝・IHI連合、日立製作所三菱重工と3社もある。政府が応援しようにも、どれかを応援すれば、他の企業に不公平になるため、政府の支援も及び腰にならざるを得ない。