ウラン争奪戦

ウラン需要の急増

 世界的に原発ラッシュが起き、ウラン需要が急増している。世界原子力協会によると世界で47基の発電所の建設が進み、415基が計画中、検討段階にあるという。

現在の生産量

 世界原子力協会のHPによると、世界の生産量シェアトップがカナダの21%、以下カザフスタンが16%、豪州が16%、ナミビアが10%、ロシアが8%、ニジェールが7%、ウズベキスタンが5%となっている。確認埋蔵量となると豪州が23%、カザフスタンが15%、ロシアが10%、南アフリカが8%、カナダが8%、米国が6%、ブラジルが5%、ナミビアが5%、ニジェールが5%となる。
 さらにウラン生産はウランメジャーとも呼ぶべき国際企業が支配している。ウラン生産は高度な技術がいるため、資源国も自社では開発できないためだ。上位6社で採掘量の75%を占めている。石油メジャーは、民族資本の興隆でその地位を失ったが、ウランメジャーはまだまだ健在だ。

  1. リオ・ティント(Rio Tinto、英豪、ロスチャイルド系) 18%
  2. カメコ(Cameco、カナダ) 15%
  3. アレバ(Areva 仏) 14%
  4. カザトムプロム(KazAtomProm カザフスタン国営) 12%
  5. ARMZ(露) 8%
  6. BHPビリトン(BHP Billiton) 8%

WNA・HP資料:http://www.world-nuclear.org/info/inf23.html
 これを見ると、ロシア、中国、EUが中央アジアの覇権を争う理由が分かるだろう。

中国も動く

 資源獲得に必死な中国だが、2020年までに原発を新たに約30基増設する計画もあり、ウランについても着々と布石を打っている。

  1. 上海紙「東方早報」によると、06年7月17日、ニジェール政府は同国北部のアガデズとアーリットにあるウラン2鉱区について、国営企業「中国核工業集団公司」の子会社3社による探査・開発を 許可したと発表した。
  2. 中国は06年4月、オーストラリアとの間で豪州産ウランの提供とウラン鉱の共同開発で合意した。
  3. 前記「東方早報」によると、胡錦濤主席は07年2月5日、アフリカ訪問ツアーの一環でナミビアを訪れ、無利子融資を行い、学校への支援を行うと約束した。ナミビアのポハンバ大統領は2005年3月就任以来、中国との協力関係を促進。中国とナミビアの貿易額は06年1月ー11月期で、前年度比103%の上昇となった。
  4. 06年2月6日、胡錦濤主席は南アフリカを訪問。中国は南アフリカと資源交渉をしたがっているが、安価な中国製品が南アフリカ軽工業の圧迫になっているため、その解決が図れない限り、資源交渉に入れないでいる。
  5. アフリカ・ザンビアにも有望なウラン鉱床があるが、同国のエネルギー鉱山省の庁舎は中国がただで建て、庁舎につながる広いアスファルト道路も寄付したという。
  6. 中国指導部は、アフリカ外交を重視、当然資源国中心だが、アフリカを頻繁に訪問している。
  • 06年1月:李肇星外相、6ヶ国訪問
  • 06年4月:胡錦濤主席、3ヶ国訪問
  • 06年6月:温家宝首相、7ヶ国訪問
  • 06年11月:「中国・アフリカ協力フォーラム」を開催。アフリカ48ヶ国の首脳が北京に参集。
  • 07年1月:李肇星外相、7ヶ国訪問
  • 07年1月:胡錦濤主席、8ヶ国訪問
日本もカザフスタンに権益確保

 日本の資源外交の久々のヒットが、カザフスタンでの権益獲得だろう。07年4月末、甘利経産相率いる商社・電力・原子力メーカーなどのハイレベル官民合同ミッションがカザフスタンを訪問して、同国におけるウラン共同開発など24件の協力案件に合意した。日本は、カザフスタンとの政府間協力関係を強化するとともに、核燃料加工分野などわが国の進んだ原子力技術に関する協力をパッケージにすることにより、中国や韓国に先立ってカザフスタンのウラン権益獲得に成功した。この一連の合意により、今後中期的に同国からのウラン開発輸入量は、日本の総需要量(年間約1万tU)の3割程度までに高まるとともに供給国の多様化が図られる予定だ。
 09年5月12日、来日したプーチン首相と麻生首相との間で日露原子力協定が調印された。日本はウラン濃縮の技術を持っていないが、ロシアはウラン濃縮で世界の4割のシェアを占める。日本は、カザフスタンで調達されるウランの濃縮をロシアに委託することが可能になる。

モンゴルウラン権益の行く末

 モンゴルは、現時点でのウラン確認埋蔵量は世界15位の6万トンであるが、未確認埋蔵量は世界1位の139万トンと言われている。09年7月16日、来日中の同国のバヤル首相と麻生首相との間でウラン開発に関する覚書が締結された。
 貴重な一歩ではあるが、あくまでも覚書。日本企業が採掘権を得たわけでもない。モンゴルは歴史的にロシアの影響が強く、139万トンという数字もソ連時代にソ連調査団が推測した数値だ。09年3月17日には、ロシア国営のRosatom、モンゴル国営のMonAtomが、ジョイント・ベンチャーによってウランの採掘・生産を行うとする原子力協力協定を締結している。関連してロシアのプーチン首相は、モンゴルの農業開発支援の目的で3億ドルの借款をロシア農業銀行経由で供与する約束をしている。
 日本に先行して、フランス企業アレバ、カナダ企業カメコも採掘事業に取りかかっている。エンフバヤル大統領はすでに07年2月22日、モンゴルにおける原子力発電所の建設・操業およびウラン採掘につき、フランス企業アレバとの間で話し合いを行い、シラク大統領ともこの件で協議している。
※以上http://www.erina.or.jp/jp/Appear/opinion/2008/Russia/iwata5-2.htm
 今回の覚書も、第1歩ではあるが、スタートラインについたにすぎず、他のウランメジャーの後塵を拝しての出発となる。