さらばVISTA ようこそ7、となるほど世の中甘くない 

ウィンドウズ7販売繰り上げ

 マイクロソフト(MS)は、6月2日「ウィンドウズ7」を米国の一般向けに10月22日発売することを明らかにしていたが、7月7日、日本国内でも22日に販売が開始されることになった。
 MSが07年1月に「ビスタ」を発売して以来、3年足らずで新OSに取って代わられることになった。しかしこれは当然だろう。VISTAは、やたら多くの機能を詰め込みすぎた。動作がもたつく上、今はやりのネットブックに乗せるには重すぎた。ビスタは、とにかく、発売当初から評判が悪かった。1世代前の「XP」のほうが人気があったくらいだ。MS日本法人の樋口泰行社長は「ビスタに対するすべての反省を学びとして誕生したのが「セブン」だ」と語ったという。
 しかし、MSはビスタにしがみつき過ぎた。間違いを認めてすぐにこうした「セブン」みたいなOSに変えるべきだった。グーグルがクロームOSというOSを開発、無償OSが市場にやってくるからだ。MSは、あわててセブンを前倒しで販売することにしたが、今まで築いてきた地位を、新しくOSを開発したグーグルに奪われるかもしれない。 

ロームOSとは

 当初MSは、セブンの発売開始を2010年としていた。だから今年の10月発売開始となると大幅な前倒しになる。これはグーグルがOSを開発、無償で提供することになったからだ。7月7日に発表された「グーグル・クローム・OS」がそれだ。グーグルは既に「クローム」というネット閲覧ソフトを開発。今回の「クロムーOS」は、クロムにOSが乗っかったようなものらしい。
 クロームOSは、とにかくサクサク動くらしい。起動して数秒でネットに接続するという。グーグルは10年には、ネットブックにクロームOSを搭載することになっており、7月8日、連携企業としてエイサー、アスースヒューレット・パッカードレノボ等の名前を挙げた。そのほかにも次のような企業との連携を発表している。

 なぜかDELLの名前が無い。また日本企業の名前も一つもない。日本は、寄らば大樹の陰で、ビッグネームに寄りかかっているので、クロームOSを相手にしなかったのかもしれないし、逆にグーグルから相手にされなかったのかもしれない。
 グーグルは、クロームOSを通じて、クラウド・コンピューティングと連動してビジネスを展開するらしい。アドビ・システム、TIとの連携もその絡みがあるのではないか。さらにはクアルコム。機能を絞り込んで、携帯電話にもOSを提供する試みではないか。同社は携帯電話向けに既にアンドロイドというソフトを提供し、ドコモなどもこのOSを搭載した携帯を販売しているが、今後はアンドロイドはクロームOS簡略版に置き換わるのではないか。
 どうやらグーグル帝国が誕生しつつある。

MSの経営の失敗はイノベーションのジレンマ

 「イノベーションのジレンマ」という経営用語がある。既存有力企業が、顧客の意見をよく聴き、より高品質の製品サービスを開発し続けることが、却って、後発の新規企業の破壊的イノベーションに立ち後れる結果を招くという考え方を指して言う言葉だ。ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセンが提唱した。
 イノベーションのジレンマが起こる理由として、次のものがある。
第1に、破壊的な技術は、当初はその未熟性ゆえに既存技術の性能を下回っているため、既存有力企業はその技術に関心を示さない。しかし破壊的な技術がイノベーションを重ねるうちに、性能を高め、既存技術が応えられないできた消費者ニーズを掴み、既存技術を陳腐化してしまう。
第2に、既存企業は、既存企業間での競争の結果、品質をより高めることで他の企業と競わざるを得ない。しかし、こうした技術開発は、コストが増すにもかかわらず、上級指向者の満足を得るだけで、多数のユーザからすると余分な機能を提供しているに過ぎないことが多い。性能が低くても顧客の需要を満たす、新たな技術をもった新規企業に市場を奪われてしまう。
第3に、破壊的技術が低価格で利益率が低い、あるいは市場規模が小さいなどから、既存企業が魅力を感じず、参入しないうちに、新規企業がユーザを増やして行き、既存企業が顧客を奪われる。
 ソニーのPSⅢの失敗も、まさにこのイノベーションのジレンマの結果と言えるだろう。