財部さんが言う、米国がやろうとしている恐いこと

米国はインフレを狙っているのか

 今日のテレビ朝日の「サンデープロジェクト」で、財部誠一が、田原さんから、米国経済の今後についてふられて、「米国は今とても恐ろしいことを考えているんですよ。インフレを起こそうというんです」と言った(正確じゃないのでゴメン)。私としては、そこから先を聴きたかったのだが、結局田原さんからも無視され、それ以上議論が進まなかったのは残念だ。

FRB国債買い取りは財政ファイナンス

 1兆8000億ドルの財政赤字を穴埋めするために財務省は2009年に2兆ドルの国債発行を予定している。しかし、それだけの米国債が安定消化されるだろうか。ここに大きな不安がある。3月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBが今後半年間に中長期国債を最大3000億ドル買い取ることを決めた。しかし政府が多額の米国債を発行し、FRBが多額の米国債を買い取る、という構図を、市場の一部は、マネタイゼーション(政府負債の現金化)または財政ファイナンスではないかと見ている。当然FRBはこの見方を否定する。「金融市場の流動化の確保のためにやっているのであって、そういう観方は誤解だ」と。しかし、FRBの現議長は、デフレになったらドルをばらまけばいいと言ったバーナンキである(彼の主張はヘリコプターからマネーをばらまくという意味で、ヘリコプターマネーと言われている)。FRBの弁解はそのままには受け取ってもらえない。
 さらに疑われているのは、米国は意図的にインフレを引き起こそうとしているのではないかということである。米国債は米政府の借金。仮に毎年5%のインフレがあれば、10年後には物価は1.63倍で2倍になれば、10年国債の償還費用は6割の負担で済む。毎年7%のインフレになれば、10年後に物価は1.97倍、貨幣価値はちょうど半分になる。
 ちなみに、米ダラス地区連銀のフィッシャー総裁は、6月9日のインタビューで「今後数年間に予想される大規模な財政赤字FRBファイナンスするとみなされることは避けなければならない。FRB財政赤字ファイナンスすれば、米国債やクレジット市場で金利が一段と上昇する」との見方を示した。もっとも、同総裁はインフレリスクを否定している。

中国がFRB国債買い取りに重大関

 米ダラス地区連銀のフィッシャー総裁は、5月25日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙とのインタビューで、次のように答えている。「(金融当局者との会合のため中国を訪れた際)すべての会合で、FRB国債買い取りについて尋ねられた。余剰の資金の大半を米国に投資している投資家にとって最大の関心事のようだ」と語った。
 中国は、やはりFRBが財政ファイナンスをやっているのではないか、やはり不安に思っているのだろう。7月6日付新華社通信によると、中国外務省の何亜非次官は、5日訪問先のローマで、ドルに代わってSDRを新たな基軸通貨として創設するという周小川人民銀行総裁の構想について「学会で議論されているだけで、中国政府の立場ではない」と表明。当分ドルの基軸通貨としての地位は揺るがないとの認識を示した。これには、「ドルは基軸通貨なんだから、うちも(当分は)それを認めるから、経済をインフレに持っていくなんてことをやっちゃだめだよ」という見えない声も含んでいるのではなかろうか。

米国債の格下げは当分なさそう

 スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が5月21日、英国債のトリプルA格付けの見通しを安定的からネガティブに変更。これを受け、米国債のトリプルA格付けが引き下げられるのではないか、との不安が広がった。
 しかし、少なくとも当分、米国債の格下げはなさそうだ。S&Pの責任者が5月27日の記者会見で、「英国債格付けに対するネガティブ見通しは、ワシントンに向けられた秘密のメッセージではない」「当社は米国について言いたいことがあれば、米国に関する見解であることを明確にした上で言及する」と述べたほか、「米国は世界で最も重要な準備通貨を自由にできる巨大な特権」を有しているため、「ほぼ際限のない借り入れ」が可能で、米国債は「最上級の格付け」を有し、「非常に安全」だと付け加えた(5月27日ブルームバーグ)。