経産省が支援するBOPビジネスとは何か

経産省がBOPビジネスを支援

 経産省が、BOPビジネスと呼ばれる貧困層向けの支援ビジネスを支援することになった。
 BOPとは「ベイス・オブ・ザ・ピラミッド」の略。当初は「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」の略称だったが、あまりに身も蓋もない言い方だったので、呼び方が変わったのだが、BOPという略称はそのまま残っている。
 BOPビジネスとは、40億人いる世界の貧困層=BOPを「マーケット」と捉え、こうした人たちにも買える安価で、なおかつ生活向上に役立つ商品、サービスを提供しようというものだ。こういったビジネスはすでに米国を中心に広がりつつある。

典型的なのはグラミン銀行

 BOPのさきがけは何と言ってもグラミン銀行だろう。バングラディッシュチッタゴン大学経済学部長ムハマド・ユヌスさんが当初は貧困層に個人的にお金を貸したところ、借りた人が経済的に自立し、しかも返済率が思いのほかいいことから、83年正式の許可をとって銀行を設立した。この銀行の貸付制度はマイクロクレジットとよばれ、女性を中心に500万人以上に貸し付けが行われた。貸し倒れ率は2%ほどしかないという。
 貸出金利は20〜25%と商業銀行としては高めだが、その理由として、以下の理由が挙げられている。

  • 小口多数のマイクロファイナンスはコストがかかる
  • 高い金利を払わせた方がいい意味でプレッシャーになる。25%の金利だと、必死に働いて、結果的に50%くらいの利益を出すこともあるが、5%の金利だと真剣にならず、元金の返済が却って滞る。

 貧困層は商売しようと思っても、食うのがやっとで、元手が無いため商売が始められないが、元手さえあれば、体一つでできる仕事なので、仕入れだけで経費がいらず、価格力で地場の商店と十分渡り合えるようだ。
 ユヌスさんは、グラミン銀行の成功が理由となって、ノーベル平和賞を受賞している。

グラミン・フォンの成功

 グラミン・フォンというのは、ユヌスさんとは別人のバングラデシュの企業家が立ち上げた携帯電話事業だ。彼は「テレノール」という北欧の携帯電話会社から技術の、丸紅から資金の、提供を受け、バングラデシュ全国に携帯電話網を広げる計画を立て、政府から通信事業免許を取得した。
 グラミン銀行マイクロクレジットと組み合わせてテレフォンレディーと呼ばれる地方の女性起業家(日生のおばちゃんみたいなものですね)を育成。電話の利用者を広げていった。国有の電話会社に回線の接続を求めたが拒否された。しかし考えてみれば、貧困層で固定電話を持っている方が少ないのだから、別に固定電話になんかつながらなくてもやっていけるという逆転の発想が事業を救う。「携帯電話間しか通話出来ないけど、安いからいい」という点が売りになり、利用者を増やしていった。電話の利用が拡大するにつれ、テレフォンレディーの収入が増え、電話を利用する人々の生産性も上がり地域の経済が改善されていった。
 これもBOPビジネスの見本だ。

粗利は劣るが、投資効率は良好

 ユニリーバのインド子会社、ヒンドゥスタン・リーバ社は、現地企業が洗濯用洗剤をBOP向けに売って儲かっているのを見て、それまでの高級品でない、BOP向けの製品を製造、販売し始めた。確かに、従来高級品の25%に比べて、18%と粗利は良くなかったが、商品開発費や販促等の投資金からの利益回収率は、従来高級品が22%だったのが93%と、めちゃくちゃに効率が良かったのである。

日本企業に勝算は

 とにかく市場がでかい。例えば、アジア、中東のBOPは28.6億人、3.47兆米ドルという市場規模だ。ちなみに、東欧は2億5400万人、4580億米ドル、ラテンアメリカは3600万人、5090億米ドル、アフリカはその人口の大半がBOPで、4290億米ドルだ。
 日本はどうしても、ハイエンドモデル(高級モデル)志向が強い。日本の生産ラインでBOP製品を作ると割高になってしまうから、現地で生産することになるだろう。ハイエンドモデルを作っていた日本企業には、発想を180度転換することが必要だが、できるだろうか。
 さらに強力なライバルが存在する。インド、中国だ。彼らのほうが、日本人よりBOPに近い分、BOP商品の開発に長けている。20万円台の車ナノを作ったタタ自動車のような存在がそれにあたる。

追加

 経産省発展途上国向け事業支援の一環として、低所得者層が多い地域を対象に、10のモデル事業を選定。味の素がガーナで行う地元の伝統食品を元にした栄養強化製品開発事業、ソニーが電気が通っていないインドネシアの農村で行う小型発電装置事業、住友化学がアフリカ向けに行う、殺虫剤を練りこんだ糸で作った蚊帳の製造などが選定された。
 モデル事業の進捗状況を踏まえ来年1月を目途に報告書をまとめ、事業の段階ごとの支援策も検討する。(09.9.24日経)