米国債 長期金利どうなる

今週は米国債発行ラッシュ

 米国では今週、過去最大規模の国債入札ラッシュを迎える。23日には400億ドルの2年債、24日には370億ドルの5年債、25日には270億ドルの7年債が予定されている。前回5月の入札では、海外投資家からの需要もあって無難な入札となったし、23日の2年債の入札も無事に済んだ。しかし、7年債の入札が無事に済むかが注目されている。

懸念材料としての米金利上昇

 2月24日には、オバマブッシュ政権から引き継いだ財政赤字が1・3兆ドルあるが、1期目末までに赤字半減させると表明した。しかし、オバマ政権下、2月には7870億ドルの景気対策法が成立している。米議会予算局は、3月20日、09会計年度(08年10月─09年9月)の財政赤字予想は過去最大の1兆8000億ドルと発表。10年度の財政赤字については、1兆4000億ドルに減少するとの予想を示した。それでもオバマ赤字の半減という目標達成のためには残りの2年間で1.4兆ドルから0.65兆ドルに減らさなければならないのだが、可能だろうか。議会予算局は、米財政赤字が10年以上、巨額なまま高止まりすると試算している。
※米国の09年財政年度の財政赤字は1・8兆ドルと、08年度の4548億ドルからケタ違いに急増する見込みだ。
 米国債長期金利は6月10日に4%となり、その後下がりはしたが、決して低い数字ではない。米国債の超短期金利差を見ると、短期国債金利は低く、長期国債金利は高くと、いわゆるイールドカーブのスティープ化が顕著に表れている。
 短期金利の低下の原因は明らかだ。米国の景気対策、金融緩和でお金がジャブジャブのためだ。しかし長期金利上昇の原因については意見が分かれる。金利上昇にはいい金利上昇と悪い金利上昇がある。「今後景気もよくなるし、景気がよくなれば将来長期金利が上昇する。」という将来の金利上昇を予想しての結果なら良い金利上昇。「こんな国債が大量に発行されて消化しきれるのだろうか。よほど高い金利をつけないと買い手が付かないのではないか。」ということでの長期金利の上昇だと、悪い金利上昇となる。では米国債金利上昇はどちらなのか。
 FRB長期金利の上昇を抑えるため、国債買い入れを行っているが、これが有効に機能していない。市場がFRBの買い入れ行為を、財政赤字の埋め合わせをする兆しと見たからだ。中央銀行国債を政府から直接買い入れる行為は、財政規律を乱すため禁忌とされるため、FRB国債を市場から買い入れているのだが、市場は政府と連携し国債増発の後押し=インフレの加速と見ている。バーナンキ議長は、デフレになれば、ヘリコプターマネー=ヘリコプターから金をバンバンばらまいて、インフレに誘導すればいい、という持論を持つ。インフレターゲット論者は、これを行っても、インフレを適度に抑えられるという考え方に基づいているが、なかなか理論どおりには行かないと言うことだ。
 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは5月21日、英国債の長期信用格付けの中期的な見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げた。また格付けは「トリプルA」に据え置いたが公的債務削減の行動予定を示さないならば、格下げの可能性があると語った。英国の格付け見通しを下げたことで、米国債の格下げ観測の広がっている。米国債がトリプルAからダブルAに格下げになれば、それこそ長期金利の上昇は決定的になる。

長期金利の上昇がもたらすもの

 米長期金利が上昇すれば、景気への懸念も浮上する。まず長期ローンの代表格住宅ローンの金利が上昇する。また今は下がっている短期金利もつられて上昇すれば、企業への貸付金利も上昇。当然景気は悪化する。住宅ローン金利の上昇が、不動産価格をさらに押し下げることにもなる。
 長期金利が上昇すれば、既発の米国債も下落するし、米国債の償還コストが上昇し財政も悪化する。そうなればオバマは公約を果たせない。

気になる中国の姿勢

 戴相龍・前中国人民銀行総裁は、中国は長期的に外貨準備を分散させる方針だが、ドル相場が安定すれば、依然として米国債保有高を引き上げることができる、との考えを示した。周小川中国人民銀行現総裁は、3月23日、ドル基軸通貨制に疑念を呈し、国際通貨基金IMF)の特別引き出し権(SDR)がドルに代って準備通貨として機能する潜在力があると指摘したが、中国も将来的にはドルを基軸通貨の地位から引きずり降ろそうと考えているだろうが、今のところは、まだドルには頑張ってもらわないとと思っているのだろう。
 中国は依然、外需頼みの経済を脱しておらず、米国の景気回復が中国経済の回復には不可欠だ。何といっても中国は世界最大の米国債保有国であり、米国債の暴落は今のところ避けたい。
 今本気でドル基軸通貨体制の崩壊を、目指しているのはロシアくらいだろう。
※追記:中国は2兆1316億ドルの外貨準備のうち7割をドル資産で運用していると言われるが、6月末の米国債保有残高は前月比251億ドル減の7764億ドルと9年ぶりの大幅減となった。09年8月20日付人民日報海外版は「米国債は見た目は安全でも、ドルが下落基調にある中で知らぬ間に価値を下げている」「保有米国債を減らすのは道理に合っている。」と論説している(09.8.21日経朝刊)

マネタイゼーション

 米連邦準備理事会(FRB)は、23─24日の連邦公開市場委員会(FOMC)で国債買い入れ額の大幅な増額はしないものの、期間の延長を決めると見られている(FOMCでの政策発表は日本時間6月25日午前3時15分から)。
 しかし、中央銀行が「国債」を引き受けて「紙幣」を増刷することを「マネタイゼーション」と呼ぶ。実際、市場ではFRBマネタイゼーションに踏み込み、インフレが高進するといった懸念が出ている。マネタイゼーション批判はFRBも強く意識しているという。ちなみに、日本の財政法も、国債の直接引受を、財政規律を緩ませるものとして原則禁止している。FRBによる国債引受も、限度がある。今はFRBの買い支えがあって、長期金利の上昇もある程度抑えられ、インフレにもなっていないが、その危険は日に日に増している。

いつまで続くのか

 今回の米国際入札は無事終わるのではないかと思うが、米景気回復が思わしくなかったり、また不動産市況の悪化で米銀の資本不足がさらに問題化すれば、再度国債の増発を招くだろうし、そうなった場合はそれこそドル暴落、さらなる大混乱が起こりかねない。