移転価格税制

移転価格税制とは

 移転価格税制とは、親会社と海外子会社の間の製品や部品の移転について、独立企業間で取引される価格(独立企業間価格)と異なる価格で取引が行われた場合、独立企業間価格で取引がなされたとして課税する制度である。
 例えば、日本法人のA社が、X国にある子会社B社から、B社が30万円で購入した商品を50万円で購入、日本国内で80万円で売却したとする。この場合、B社はX国政府から、「50万円−30万円=20万円」が利益として課税対象となる。そしてA社は日本国内で「80万円−50万円=30万円」の利益が課税対象となる。しかしX国が、この商品の独立企業価格が55万円と認定すると、B社は「55万円−30万円=25万円」についてX政府から課税され、A社は「80万円−50万円=30万円」について日本政府から課税される。すなわち、5万円ほどの利益が日本とX国で2重課税されてしまうのである。
 こうした税制があるのは、X国としては、A社が、本来B社がX国内で利益を得た部分も、不当に日本国内の利益に転嫁され、税金も日本に入ってしまうということからである。

アジア諸国で移転価格税制が活発化

 本来移転価格税制は先進国での採用が先だったが、次第にアジア諸国においても広がっている。どの国も不景気で税収が落ち、何とか多くとってやろうと必死なのである。05年5月にタイが移転価格税制のガイドラインを公表したのを皮切りに、03年7月にマレーシア、04年12月に台湾、05年12月にベトナム、06年2月にシンガポールが移転価格税制を導入している。未公表ではあるが、フィリピンも今後導入予定である。
 中国は、91年に移転価格税制を導入していたが、04年には事前確認制度、05年には相互協議の細則を設けるなど、移転価格税制の整備が進んでいる。ただ05年5月、国税庁と中国国家税務総局とが、二国間事前確認(APA)を締結。関連取引の妥当性について事前に日中両国の税務当局から認可を受けられるようになり、認可されれば移転価格調査を受けなくてすむ。

日系企業が狙われる理由

 日系企業が追徴課税されるケースが多く、欧米企業は少ない。日系企業の課税が多い理由は、多くの日系企業は権限を本社に集中し、関連者間の取引価格を親会社が決める。そのため親会社が意図的に所得移転を行っているとの印象を与えやすい。欧米系現地法人の多くは独立採算制のため親会社が取引価格に関与する余地が少ないとみられる。

租税条約を結んでいるかいないかで違いが

 移転価格税制に基づき課税された場合、一時的に国際的二重課税が発生する。国外関連取引当事者が所在するそれぞれの国の権限ある当局(日本の場合は国税庁国税審議官)は、この国際的二重課税の排除を目的として協議(相互協議)を行う。当局間で相互協議が合意されると、課税国及び相手国は、合意内容に基づいてそれぞれの国外関連取引当事者に対して減額更正などの処分を行い二重課税の排除を行うが、これを「対応的調整」という。
 前記相互協議は、租税条約の規定に基づき行われる。したがって、租税条約を締結していない国に所在する国外関連者との取引に対して、移転価格税制による課税を受けた場合の国際的二重課税の排除は、通常課税国の国内法に基づく手続(日本の場合であれば、異議申立、審査請求、訴訟)によるほかなく、また、これら国内法に基づく手続では、課税の全部取り消しの判決等ではない限り、二重課税は完全に排除されない。

追記

 米内国歳入庁(IRS)は、移転価格税制について、課税逃れがないか厳しくチェックする方針だ。そのため、担当調査官を従来の65人から100人超に増やす予定だ。専門家は「一番影響を受けるのは日本企業」とコメントしている。クリントン政権時代の90年代前半にも移転価格税制の適用が強化され、自動車メーカなどの日本企業が追徴課税を受けている。(日経09.7.31)