東証1万円越え 休むも相場

休むも相場

 6月12日のテレ東のモーニングサテライトに、松井証券松井道夫社長が出演。佐々木明子アナに東証1万円超えについてコメントを求められ、「根拠なき暴騰」と回答した。
 なおかつ、証券会社の社長がいう言葉じゃないんですが、と前置きして「ここは休むも相場」とさらにコメント。休むも相場とは、相場環境の悪い時、相場の見通しが不透明な時、ツキに見放されている時などには、株式投資を休んで、様子を見ることを勧める言葉だ。

牡丹灯籠に注意

 白川日銀総裁は、4月だったかに、景気の底入れをうたう論調を戒めて「偽りの夜明け」と言っていた。日本のバブル崩壊後の失われた10年間にも、何度か回復の兆しのようなものが現れたが、結局景気は回復しなかった。それは「偽りの夜明け」であったというのだ。
 牡丹灯籠という怪談をご存じだろうか。旗本の娘が浪人に恋をするが、父の猛反対で恋は成就せず、焦がれ死にする。この娘が怨霊になって、浪人の家に牡丹灯籠を持って、毎晩訪れるが、浪人が魔除けの札を戸や窓に張っているため中に入れない。浪人はいつも朝を待って戸を開けていたのだが、ある晩思いのほか早く鳥の声がし始めた。浪人が、朝が来たと思い戸を開けるが、外は真っ暗闇。鳥の声は怨霊の作ったまやかしだったことに気づくがもう遅い。浪人は怨霊に取り殺されしまう。
 1万円超えも偽りの夜明けかもしれない。もし、そうだとしたら、本当の夜明けと信じて、今さら株を買いに走ると、痛い目を見る。

東証株価はNY市場のコピー相場

 NY市場が上がれば東証も上がり、NY市場が下がれば東証も下がる。両市場の株価のチャートはきれいに重なっている。となるとNY市場の今後の動きが、東証株価を左右する。米国で、不動産価格のさらなる下落、長期金利の継続的上昇、失業率の増大(10%越え)が起これば、NY市場も下がり、東証も下がることになる。

不動産価格のさらなる低下

 米国不動産価格が下がれば、銀行の含み損が増えてくる。また個人消費も低下する。米国では地価が上昇し、自宅不動産に担保の余剰が出れば、それを担保に借入ができ、それが米国の大量消費を抱えてきた。このため不動産価格の下落が消費の落ち込みを招いている。また不動産がまだ下がるとみれば、不動産という究極の耐久消費は売れないのだ。自宅が売れれば、そこには様々な消費が派生する。不動産価格の低下が続けば、こういった消費は生まれない。
 サブプライムが問題化した理由の一つに、こうしたローンの多くでIO(インタレスト・オンリー・ローン)、ARM(アジャスタブルレイト・モーゲージ)、ネガティブ・アモチ・ローンの形式がとられていることにある。「IO」は、最初の数年間は利息だけ払えばよく、さらには利息もプライム並みの低利で借りられる、というもの、「ARM」は据え置き期間が過ぎれば、利息がアップするというもの、ネガティブ・アモチ・ローンとは「最初の数年は金利以下の定額を支払い、利息不足分は据え置き期間後元金に組み入れられるというものだ(アモチはamortizationの略で、元本の分割償還を意味、ゆえにネガティブ・アモチとは元本を分割返済しないという意味)。プライムローンとサブプライムローンの間にオルトAという中間的存在のローンがあるが、これもかなり破たんが進んでいる。このオルトAでも、その多くにインタレスト・オンリー・ローンの形式がとられているからだ。ちなみに米国の住宅ローン残高は約10兆ドルで、うちプライムが7.5兆ドル、サブプライムが1.4兆ドル、オルトAが1.1兆ドルある(http://www.jri.co.jp/thinktank/research/eye/2007/0910.pdf)。
 米国不動産にはさらに爆弾が隠されている。商業用不動産である。米不動産調査会社のリアル・エステート・エコノメトリックス社が6月9日発表した調査結果によると、商業用不動産融資のデフォルト率が、09年第1・四半期が2.25%と、昨年第4・四半期の1.62%から急上昇し、94年以来の高水準となった。特に世帯数が5世帯以上の集合住宅に対する不動産融資のデフォルト率は第1・四半期は2.45%と、前期から0.68%ポイント上昇した。日本の不動産バブル時代、アパート経営のためのローンが大流行したが、これと全く同じことが米国でも起きていたのだ。しかも怖いことに、こうしたローンの多くがIO=インタレスト・オンリーなのだという。リ社の予測によれば、デフォルト率は09年末までに4.1%、2010年末には5.2%に上昇し、11年に5.3%に上昇しピークを迎えるという。
 近時、米国も日本も不動産価格が下げ止まったように言われることがあるが、不動産が動いていないだけである。ことに商業用不動産は価格が大きいだけに塩漬けになりやすい。これも日本のバブル崩壊のときと同じである。
 また、FRBがTALFを通じ、商業用不動産の所有者に5年間の緊急融資を行い延命しているということもある。しかし、ムーディーズ、S&PがCMBS(商業不動産担保証券)の格付を格下げを進めるという。FRBのTALFF対象のCMBSはトリプルAに限られるため、格付けが下がれば、TALFの対象となるCMBSは半減し、デフォルト率が上がってくる。

長期金利の上昇

 最近、マネタイゼーションという経済用語が注目されている。マネタイゼーションとは「現金化」という意味だが、ここでは中央銀行国債を購入する行為を特に指してマネタイゼーションと呼んでいる。米国では、政府が景気対策資金を得るため国債を大量発行し、市場にあふれた国債FRBが大量に買い上げている。こういったマネタリゼーションはプリンティング・マネーに近いものがある。ガイトナー米財務長官は先週、中国に、米国の巨額な財政赤字は一時的で、景気後退が収束すれば減少すると確約、中国が保有する巨額の米国債は「非常に安全」と頭を下げに行ったが、果たしてどうなるだろう。米議会予算局の推計によると、政府債務の対GDP比率は、オバマ政権の予算案を前提にすると、08年末に40.8%(5.8兆ドル)、10年末に64.7%(9.3兆ドル)、19年末に82.4%(17.3兆ドル)になる。この試算は11年以降、一部の増税などで財政再建策を講じた上での数字で、これが十分機能しなければ、政府債務はGDP比100%を超えるとみられる。景気が予想より後退して税収が減っても同じ結果になる。5月下旬、S&Pは英国債の長期信用格付けの中期的見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたが、米国債のトリプルAがいつまでもつかも分からない。米長期金利の上昇もこうした見方を織り込んでのものかもしれないし、もしそういう見方が強くなれば、金利上昇は歯止めが利かなくなる可能性もなくはない。
 金利上昇は、国債償還費用を増加させ、財政が硬直化するし、企業向け個人向け融資の金利上昇も招くから、景気の下降要因になる。米国債政府債務の貨幣化米10年国債利回りが、6月10日、一時4%を超えた。4月下旬の2.9%台から1%以上のアップだ。長期金利は、百分率でいうと「糸(し)」=10万分の1の利率の上がり下がりが問題になる世界であり、2ヵ月半で1割以上上昇するというのは急上昇のレベルである。
 長期金利の急上昇はドルの暴落も生みかねない。しかし、米国がマネタイゼーションをいくらやっても、ドル暴落を防ぐ方法がある。ほかの国もどんどんマネタイゼーションを行えばいいのだ。「赤信号みんなで渡れば怖くない」である。実は米政府は去年の金融サミットでそれをやろうとした。しかし欧州が乗ってこなかったので、空振りに終わってしまった。EUは財政規律と物価安定に非常に厳しいため(それがなくなったらEUの存在価値は半減する)、当然の反応だった。しかし欧州の銀行も巨額の金融派生商品を抱えており、また東欧向け融資の貸倒リスクもあるため、欧州もマネタイゼーションを行うかもしれない。そうすると米ドルの単独安はなくなる。

失業率の増大

 米サンフランシスコ地区連銀のエコノミストチームは6月8日、米国の失業率は景気の悪化から11%近くに達する可能性があり、その後も「雇用なき景気回復」になる、とのリポートをまとめた、という(http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-38451820090608)。失業率が増えれば、当然に消費は伸びず、個人向けローンの貸倒れも出てくる。米金融機関はなんでも証券化してしまうので、個人向け無担保ローンも証券化している。

東証一部上場企業のPBR回復

東証1部のPBRが1倍(株価が清算価値とイコールになった状態)を超え、バリュー面での水準修正は一巡した。特に買いの材料が出てこなければ、市場は様子見といった感じになるかもしれない。