金融緩和と景気回復

イングランド銀行自ら資本注入に懐疑

 イングランド銀行(英中央銀行)は6月12日、四半期報告で、同中銀による総額1250億ポンド(2051億ドル)規模の資産買い入れプログラムが、経済にどのような効果を及ぼしているか判断するのは依然として時期尚早だとの認識を示した。「追加資金を受け取った向きの反応が全般的な効果のカギを握っている」というのだ。(ロイター)
 最近公的資金(国民の血税)がどんどん金融機関に注ぎ込まれている。最近政府の景気対策については、「ワイズ・スペンディング=賢い支出=真に将来のためになる支出」かどうかが問われているが、中央銀行からの金融機関への資本注入もこの観点からみる必要があるだろう。

資本注入失敗例

 失敗の典型例がリーマンショック後のロシアだ。7月から銀行間金利が急上昇。流動化の不足に歯止めがかからなかった。ロシア政府は、9月以降、政府による銀行への預金、劣後ローン・無担保ローンの供与、預金準備率の引き下げ等、さまざまな金融政策を行った。しかし、7月から10月までの間に銀行間金利が4.2%から7.8%へ跳ね上がり、11月17日には、ルーブルの大幅切り下げ懸念から、モスクワでの銀行間金利が1日で9.83%から22.67%へ急上昇した。
結局、ロシア政府はズベルバンク等に総額9500億ルーブル公的資金を注入したのだが、銀行は市場に回さず、ドルを買い漁り、ルーブル安を加速させたのだ。政府からはルーブルを売らないように命令が来ていたがどの銀行もが外貨確保に走った。

中国の金融緩和

 07年、中国人民銀行は、インフレ懸念から同年に預金準備率を10回も引き上げ、12月には14.5%にもなった。また、政策金利も引き上げた。同年9月から、中国政府は、市中銀行に、融資の増加額を一定の範囲にとどめるよう、窓口指導(かつては日本もやっていた行政指導)を開始。こうした一連の金融引き締め策は、行き過ぎた不動産投機熱等のインフレ傾向を緩和するためだった。
 しかし、企業倒産が激増、中国人民銀行も08年末に金融緩和を開始し、政策金利と預金準備率を引き下げてきた。中国政府もリーマンショック以降は、企業への貸し出しを増やすようにとの窓口指導を熱心に行っている。中国でこのような窓口指導が盛んに行われているのは、中国では市中銀行といえども半官半民、銀行幹部は人民銀行への異動を目指しているため、上意下達が容易なためだ。そのため市中銀行は、上からの覚えをめでたくすべく企業への貸し出しを競っている。しかし、こうした企業向け融資は、中小企業には回らず、国営大企業に向かいがちで、なおかつ、融資を受けた企業は設備投資等の将来投資には使わず、かなりの部分が株式投資に向かっているという。上海市場の急騰もこういった理由がある。

産業界にもっとお金が回るには

 こういった様子を見ると、銀行を信用するよりは、直接産業や消費者の懐にお金が回るようにするのがいいのではないか、金融緩和より財政出動のほうがいいのではないかと思ったりする。
 全銀協のホームページを見ると、確かに銀行の貸付残高は増加を続けているが、緊急保証制度により保証協会付融資が増えただけで、銀行はあまりリスクをとっていないのではないかとも言われている。
 FRBは、四半期ごとに銀行上級貸出担当者を対象に、大・中規模企業向けの商工業融資の基準について、厳格化したか緩和化したかをインタビューし、これを集計している。これによれば、08年10月、09年1月、09年4月と厳格化の数値が減少していると言う。こういった視点の必要性を感じる。