米銀ストレステスト結果発表

米銀ストレステスト結果発表

FRBが、5月7日、大手19行に対して行ったストレステストの結果を発表した。結果は以下の通り。アメックス、ゴールドマンサックス、JPモルガンは資本不足なしと判断された。FRBはストレステストを総資産1000億ドル以上の主要金融機関を対象に09年2月末から実施してきた。

  1. バンカメ 339億ドル
  2. ウェルズファーゴ 137億ドル
  3. GMAC(GMの金融子会社) 115億ドル
  4. シティ 55ドル
  5. リージョンズ・フィナンシャル 25億ドル
  6. サントラスト・バンクス 22億ドル
  7. キーコープ 13億ドル
  8. モルガン・スタンレー 18億ドル
  9. フィフス・サード・バンコープ 11億ドル
  10. PNCファイナンシャル 6億ドル      合計 746億ドル
ストレステスト

 ストレステストは、運動等の肉体的負荷を与えて心機能を検査するときなどに使われる用語。FRBは、GDPの実質成長率を09年が▲3.3%、10年が0.5%と、失業率を09年が8.9%、10年が10.3%と、住宅価格指数が09年が▲22%、10年が▲7%とするなど、政府が設定した最悪シナリオのもとで、2010年末時点の自己資本比率をTier1(中核的自己資本)全体で最低6%、Tier1普通株式部分で最低4%とする資本余力を実現するよう指示し、その際の自己資本不足額が示されることになっていた。その結果が上記数字である。
 Tier1=基本的項目は、資本勘定(資本金、法定準備金、剰余金等)の額をいう。Tier2=補完的項目は、有価証券含み益の45%、不動産の再評価額の45%、一般貸倒引当金劣後債、劣後ローン等の合計額をいう。BIS基準の8%の分子にはTier1とTier2の両方が加えられ、その内訳は問われていないが、FRBのストレステストでは、Tier1だけで6%という、高い基準が科せられている。さらにTier1のうちの普通株も4%なければならないとしたのである。

資本不足金融機関に対する宿題

資本不足金融機関には次のような宿題が与えられている。

  • 資本の積み増しが必要になった金融機関は6月8日までに詳細な資本調達計画をまとめ、11月9日までに計画を実行する必要がある。 
  • 資本の積み増しが必要な金融機関は「現在の経済環境でリスクを管理する専門知識・能力がある」経営体制を整えるため、経営陣・取締役会メンバーを見直す必要がある。
  • 資本増強を義務付けられた金融機関は、連邦預金保険公社(FDIC)と協議のうえ、詳細な資本計画を作成し、主たる監督者の承認を得る必要がある。
746億ドルの算出根拠

中心的自己資本(08年末)   8367億ドル
予測損失額(09、08年)   5992億ドル
 内訳(融資        4550億ドル)
   (ディーリング、証券 1350億ドル) 
営業収益による損失吸収可能額  3629億ドル
損失吸収に必要な追加自己資本額  
  08年末時点        1850億ドル
  09年1−3月期時点    1104億ドル
  ↑この差額が746億ドル    

不足行のプロフィール

 1位のバンカメは投資銀行メリルリンチを買収したが、住宅ローン最大手カントリーワイド・フィナンシャルも買収しており、後者の買収により不良債権比率は2.65%と前年同期比で1.75ポイント上昇した。
 2位のウェルズファーゴは住宅ローンを多く抱える米銀大手ワコビアを吸収合併した銀行である。やはりワコビア負の遺産に泣いている。ウェルズ・ファーゴ商工ローン債権3550億ドル相当を証券化しているが、今後の不況の進行度合いによっては、これが大きく減損するかもしれない(http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=awdRrsmXdFW0)。なお、ウェルズファーゴは米国最大の投資家ウォーレン・バフェットが経営する投資会社ハサウェイが保有するバフェット銘柄でもある。
 シティが予想されていたより少額の不足で済んだのは、1月にスミスバーニーをモルガンスタンレーに売却し、2月に米政府や海外の政府系ファンドが持つ優先株普通株への転換を発表するなど、普通株ベースで自己資本の増強に動き始めいていたからだ。もしこうした効果がなければ500億ドル前後の自己資本不足を生じていた。
 GMACはGMの金融子会社で、自動車・住宅ローンが事業の中心となっている。
 リージョンズ・フィナンシャル、サントラスト・バンクス、キーコープ、フィフス・サード、PNCは大手地銀。ストレステスト結果発表前にも、フィフス・サード、リージョンズ・フィナンシャルは不動産・建設関連の融資比率が高すぎると指摘されていた。

株価への影響

 今回の発表結果から、GMACを除いて、大手金融機関の国有化や破たんの懸念は多かれ少なかれ消えた。市場はもっとひどい数字を予想していたため、8日の米国株式市場は反発。ことに金融株が上昇を主導。フィラデルフィアKBW銀行株指数は12.1%高。資金不足なしとされたJPモルガン・チェースは10.5%上昇したが、不足ありとされたウェルズ・ファーゴ株が13.8%、バンク・オブ・アメリカ株が4.9%、シティーグループ株は5.5%と、それぞれ上昇した。

GMACは資本注入へ

 ガイトナー米財務長官は5月8日、ロイターテレビとのインタビューで「GMACに大幅な支援を提供する。GMACは政府からの追加資本注入が必要となる公算が大きく、われわれはそれを提供する用意を整える」と語った。ガイトナー長官は同社への支援について、自動車メーカー事業再建の過程では資金の手当てが重要と指摘し、「自動車購入のための融資を行う能力をGMACが持つ必要がある」と説明した。

他の金融機関は政府金融支援を求めず

 バンカメは普通株の新規発行と優先株からの転換を組み合わせて170億ドルの普通株を増強するほか、傘下のプライベートバンク、資産運用会社や資産を売却して100億ドル、税効果で70億ドル資本増強する。
 モルガン・スタンレー普通株の公募増資で20億ドルを調達すると発表。
 ウェルズ・ファーゴも60億ドルの普通株を発行するが、増資先としてバフェット経営のハザウェイが候補に挙がっている。残りの不足分はコスト削減や配当金制限等で収益の上積みで解消するという。
 シティグループ普通株ベースの資本を増やす方針だ。2月に発表した優先株や出資証券を普通株に転換する計画を、当初予定から55億ドル増額して政府の要請に応える。
 逆にゴールドマン・サックス・グループのロイド・ブランクフェインCEOは5月8日開催した年次株主総会で、米政府の金融支援策で受け入れた100億ドルの公的資金を近く返済する見通しだと述べた。勝ち組と負け組の差がここに出ている。

懐疑論も存在

 ストレステストの結果を得て、多くの専門家は「危機は去った」と評している。しかしこうした専門家は金融界の住人。楽観論を言った方が自社の利益にかなう。そこの辺りを割り引いて考える必要があるだろう。ロイターには以下のような懐疑論を述べる専門家もいた。
 アンドレス・キャピタル・マネジメントのロバート・アンドレス社長は「大統領、財務長官、FRB議長は、銀行への信頼を醸成しようと躍起になっており、本当の意味での監査とは言えないとみている。もう1つの問題は、融資の需要が減少していることだ。消費者信用は落ち込んでいる。誰もが明るいニュースを聞きたがっている。それはよいことだが、市場はストレステストの結果を精査する必要がある。」と否定的なコメント。
 みずほコーポレート銀行の国際為替部シニアマーケットエコノミスト福井真樹氏は「ストレステストの前提となっている成長率や失業率見通しなどは足元水準と同程度に設定されており、これで金融システムが磐石になったとは言いがたい。」と、FRBの設定を下回る経済指標が出た場合の市場の影響を心配している。
 大和証券SMBC金融市場調査部のアナリスト中川隆氏も「ストレステストの前提条件となる成長率・失業率見通しなどは足もとですでに悪化しており、もはやストレステストの意味をなさない」と福井氏と同意見を述べるとともに、「今回の結果は各行が自己申告した予想損失額をたたき台にFRBが最終的に算定したものであり、当初から統一した審査基準による立ち入り検査によって算出されたものではない。」とその信用性を疑問視する。

IMF推計との落差

 IMFは4月の報告で、米銀全体で2750億ドルから5000億ドルの資本が新たに必要と推計していた。しかし、今回発表の746億ドルの不足は、残り1300億ドルとなった公的資金枠の範囲内。予定調和的なものを感じる。
 もっともバーナンキは、5日の上下両院合同経済委員会で、この推計に対して「損失を相殺する方法はたくさんある」と反論し、見積もりは過大との見方を示していた。