イスラム金融

イスラム金融とは

 イスラム金融金融危機以降脚光を浴びている。なかなか耳慣れない言葉であるが、原油価格も上昇に転じることが予想され、また金融危機の中でオイルマネーが行き場を求めているので、今後国際金融の中でも大きな影響力を持ち始めている。
 多くのイスラム金融機関は、株主が指名するメンバーで構成されるシャリーア監視委員会(SSB)を内部に設置しており(メンバーはシャリーアの知識が豊富なイスラム法学者から選出される)、実際の融資に当たってはSSBの審査を経る必要がある。イスラム金融は、シャーリア(イスラム法)に従い、次のような禁止事項を伴っており、SSBは個々の案件がこうした禁止事項に反しないかを審査するのである。

  1. 利子のやり取り(取引に現物の裏付けを求める)
  2. 不確実な取引への融資
  3. 投機的取引への融資
  4. 現物、実業への投資であっても、イスラム的倫理に反する商品や事業に対する投資(アルコール、煙草、豚肉、賭博、ポルノ、兵器、映画、従来型金融商品
イスラム金融のラインナップ

 イスラム金融には次のような金融商品がある。

  1. ムラーバハ:金融機関が顧客の要望する商品を購入し、利益をのせて転売する取引。イスラム金融の75%を占める。モダーラバ:顧客の事業に投資して、利益を折半する取引。
  2. ムシャーラカ:顧客との共同出資により、事業を一部所有するが、後に顧客に持分を売却する。
  3. イジャーラ・ムンタヒア・ビッタムリークまたはイジャーラ・ワ・イクテナ:いわゆるリース取引。リース物件の所有権者が金融機関の場合は前者、顧客(借受者)の場合は後者となる。イジャーラ・ワ・イクテナでは、顧客が頭金を支払う。イスラム金融の15%を占める。ムシャーラカ同様、最終的には顧客に売却するのが一般的である。
  4. 商品ムラーバハ(Commodity Murabaha):商品先物市場への投資を介し、従来型商業銀行との資金移動に使用される手法。
  5. サラーム:商品の前払い取引。
  6. イスティスナ:基本的に、サラームと同様。対象分野が建設、貿易等となる。
  7. スクーク:土地等現物の裏づけを持つ債券。
イスラム金融の量的拡大

 全世界の金融取引額は120兆ドルに達するが、イスラム金融の取引額は現在3、4000億ドルにすぎない。しかし、イスラム圏を中心にイスラム金融への需要は急激に増加している。CBB(バーレーン中央銀行)の高官は、1兆ドルに達するのもそう遠い将来のことではないと語っている。また、イスラム金融機関も、2006年時点で75ヶ国に及び、その数は300を越えたとされる(IMF推計)。
 湾岸協力会議加盟の資源国が08年までの5年間に備蓄した経常収支黒字は1兆ドル。現在収支黒字は鈍化しているが、中長期的に原油価格の上昇は必至であり、今後収支黒字は拡大していくはずである。今回の欧米の金融危機イスラム金融に追い風になる。

中近東外に広がるイスラム金融

 マレーシアはオイルマネーの取り込みを図り、イスラム金融の国際的拠点を目指しており、中東地域外では先行的存在だ。同国は他に先駆けてスクークを発行しており、04年以来07年まで、社債の発行額のおよそ半分をイスラム債が占めている。同国は17のイスラム専門銀行を持ち、金融取引の14%がイスラム金融で賄われているとされる。

欧米で進むイスラム金融の導入

 スタンダード・アンド・プアーズ社は、イスラム教徒投資家向けにシャリーア適合企業インデックスを公表した。それによれば、適合企業は米国で500社、欧州で350社、日本で500社ある。日系企業としては、イオンクレジットサービスが2007年に初めてスクークを発行した。同社はマレーシアで現地法人を通じてイスラム金融方式を含む債券を発行した。
 しかし日本はイスラム金融の導入という点では遅れている。欧米ではかなり積極的な動きがある。ドイツ系の銀行がスクークを発行し、シティ銀行やBNPパリバ銀行がイスラム金融専用デスクを設置している。イギリスではイスラム金融との抵触を避けるため、銀行法の改正が検討されている。ロンドン五輪の資金調達を、一部イスラム金融で賄うためとの説もあるほどだ。また英国内に150万〜200万人近くいるとされるイスラム教徒向けに、イスラム専門銀行2行を認可するなど、イスラム金融に対し国として積極的な取り組み姿勢を示している。

インドネシアシンガポールもアジアでのイスラム金融センターを指向

 インドネシア財務省はドル建てスクーク6億5000万ドルを発行、シンガポールも1月邦貨で130億円相当の発行枠を設定した。両国ともマレーシアを追って、アジアでのイスラム金融センターを狙ってのことだ。中東も成長センターとしてのアジアに資金を振り向けようとしており、そうした双方の利益が一致した結果だ。

イスラム金融の有益性

 イスラム国のトルコでも、イスラム金融の利用が多い。あるテレビ番組で、イスラム金融を利用したトルコの服飾工場主がインタビューされて、「ほかは銀行への支払が大変かもしれないけど、うちの場合はイスラム金融だから利益が出ないときは支払をしなくていいから楽だよ」と語っていたのが興味深い。
参照:在バーレーン大使館経済班工藤章二の2007年1月付報告
http://www.dubai.uae.emb-japan.go.jp/pdf/bahrain_business_report01.pdf
09.5.4日経

イスラム債

 世界のイスラム債発行額は07年は400億ドルほどに達したが、リーマンショックのあった08年は200億ドルにとどまった。国別発行額でみると、アラブ首長国連邦が36.2%でトップ、これにマレーシア32.1%、サウジアラビア15.7%、バーレーン5.3%が続いている。

追記 タカフル

 最近タカフルと呼ばれるイスラム式保険が台頭してきている。かつては「神が定めた運命に保険をかけるのは不謹慎」という宗教的反発があったが、酒類を扱う会社を運用先に選定しないとか、「相互扶助」の仕組で運営するため運用事業者勘定と加入者勘定を厳密に区分し、運用益の一部を加入者勘定に剰余金とし戻す等、戒律に配慮したタカフルの登場や政府の普及政策も追い風になり、普及が進んでいる。世界のタカフル市場は急伸しており、主要な市場はサウジ、イラン、マレーシアだが、07年には約30億ドルにまで拡大している。
 スクークでは欧米の後塵を拝している日本企業だが、タカフル市場では東京海上が頑張っている。東京海上日動は、マレーシアの現地大手銀行グループのホンリョングループと共同で(東京海上の出資割合は35%)、元受タカフル事業会社である「ホンリョン東京海上タカフル社(HLTMT)」を設立。06年11月30日に営業を開始。マレーシア市場初の生損融合タカフルを発売した。弊社は、06年3月2日、タカフル事業免許をマレーシア中央銀行から取得し、開業準備を進めていた。同社を営業基盤として、アジア、中東地域への進出を狙っている。
 07年には、東京海上日動は、エジプトにおいても、生命保険に相当する「ファミリータカフル」と、損害保険に相当する「ゼネラルタカフル」のそれぞれの会社を1社ずつ設立した。