豚インフルエンザから分かったこと

豚インフルエンザが問題化してから時間がたつごとに、この豚インフルエンザから発生した新型インフルエンザの実態が次第に明らかになってきた。

二次感染はどの程度あるのか

 米疾病対策センターCDC)は5月2日、新型インフルエンザの米国感染者のうち、メキシコ渡航歴がある人は3分の1にすぎないことを明らかにした。すなわち残りの3分の1は米国内で2次感染しているのである。

メキシコでだけ死亡率が高いのはなぜか

 現在の公式発表ではメキシコで「最初の感染者」とされる5歳の男児が症状を訴えたのが3月下旬とされている。しかし元米感染症学会会長のマーティン・ブレイザーニューヨーク大学教授は、メキシコで新型インフルエンザと似た症状が2月半ばから増えていたとして、「新型が2月半ばに表れていたとすれば、メキシコ国内での感染者は既に数万人の可能性もある」とし、もしそうならメキシコの致死率はもっと低くなり、他国の致死率と変わらないとする。

今回の新型インフルエンザはいつどのように生まれたのか

 米コロンビア大学の研究チームは、今回の新型インフルエンザウィルスの遺伝子構造を調べた結果として、次のことを発表した。遺伝子中に8本あるRNA(リボ核酸)のうち、6本は北米の豚、2本は欧州・アジアの豚に由来するものだったという。そして新型は少なくとも、豚ウィルス2種、人ウィルス、鳥ウィルスの4種が混ざり合った可能性があるという。
 とすると、人間が気がつかなかっただけで、豚の世界ではかなりインフルエンザの流行、進化が進んでいたということなのだろうか。

なぜ鳥ではなく豚だったのか

 人と豚とは肉体構造が似ているほか、体温も豚と人はあまり変わらない。それに引き換え鳥と人とでは、肉体構造が違う上、鳥の体温は42度と人よりかなり高い。そのため鳥から人へのうつりにくいのである。
 インフルエンザウィルスが他の種に感染することはまれだ。しかし豚は、人と鳥の両方のインフルエンザウィルスに感染する細胞を持っている。そのため、インフルエンザが鳥から豚に移り、豚から人に移る可能性が前から指摘されていたのだ。スペイン風邪等過去パンデミックを起こした新型インフルエンザも、豚の体内で豚型と人型が混合したことが原因であることが分かっている。
 今回の新型の元になった豚インフルエンザウィルスは、鳥からも来ていることが分かった。この鳥インフルエンザウィルスが弱毒性のH1N1型だったから良かった。これが強毒性のH5N1型であったらそれこそ今の騒ぎで済んでいない。

カナダでの人から豚への感染が意味するもの

 カナダ保健局は、5月2日、同国アルバータ州の農場で、メキシコ旅行から帰ってきた従業員から、新型インフルエンザが豚に感染した事実を発表した。こうして、豚から人、人から豚へと、インフルエンザウィルスが繰り返されるうちに、ウィルスが変異し、豚から豚、人から人への感染力を強める可能性もあるのだ。

東南アジア、中国での新型インフルエンザ発生が心配

 今回の新型ウィルスはメキシコで発生したが、実際は中国、東南アジアが怖い。これらの農村では、鳥と豚とを家禽として一緒に飼っているからである。こうした環境の中で鳥と豚との間でインフルエンザウィルスがキャッチボールされる中で、人への強い感染力を持った新型ウィルスに変化するのではと恐れられているのである。
 この危険を予感させる報道も最近されている。理化学研究所感染症研究ネットワーク支援センターは、アジアの豚から病原性の強い鳥インフルエンザや人インフルエンザが相次いで検出されたことを発表している。研究ネットに参加する神戸大学のチームもインドネシアの豚402頭のうち52頭から鳥インフルエンザウィルスH5N1型を発見。神戸大が見つけたウィルスの1株は人に感染する能力を獲得しつつあるといい、「豚の体内で鳥型ウィルスが単独で人型ウィルスに変異しつつある可能性を示唆している」とする。
参考:日本経済新聞09年5月4日