タンポート(旧ぷらっと)が、あのネオラインキャピタルの子会社に

タンポートが"あの"ネオラインキャピタルの子会社に

 債務系法律事務所を震撼させる事件が起こった。あのネオラインキャピタルが、3月31日付で、プロミスの完全子会社だったタンポート(旧クオークローン)を買収し、自社の完全子会社にしたのだ。
 問題は、プロミスが買収時、プロミスがタンポートの客に金を貸して、その金をタンポートに返済する形を作られていて、契約がタンポートからプロミスに切り替わっている場合だ。今まではプロミスの子会社ということで、タンポートの過払い金をプロミスが払っていた。今後はどうなるのか?
 プロミスの回答は次の通り。「プロミスがお客さんに貸し付けて、お客さんはその貸し付けた金をタンポートに支払ったわけだから、その時点でタンポートに過払い金発生している。タンポートの過払い金は今までプロミスで払っていたが、今後はプロミスとは関係ないから、タンポート自体に請求してほしい。プロミスはそれとは独立して貸金債権があるから、それはそれでうちに支払ってもらわないと困る。」
 ※タンポート債権は、上記のようにプロミスとの契約に切り替えられたものと、プロミスに債権譲渡されたものとがある。債権譲渡分についてもプロミスは「うちは債権を譲渡されただけで債務を引き受けた訳ではない。うちが債権譲渡を受けた後に発生した過払い金は払うが、譲渡時点で確定していた過払い金はタンポートの請求してくれ。」と主張する。
 しかし実際には、クオークローンからプロミスへの債権譲渡契約書によると、クオークローンの債務について、プロミスも同社と並んで責任を負う旨契約している(併存的債務引受)。ただ、両社はその後債務引受を撤回している旨合意しているため、上記の主張になる。問題は、併存的債務引受は第三者のためにする契約であり、過払債権者が権利を主張するには受益の意思表示をしなければならないことだ。過払金請求をした時点では確かに受益の意思表示を行っているが、その時点では既に受益の意思表示の対象たる債務引受がなくなっているので、かかる受益の意思表示は無効という解釈も成り立つからだ。
 ※タンポートからプロミスに譲渡された債権は、さらにネオラインキャピタルに譲渡されていることが多い(09.8.2追加)。
 ステーションファイナンスもネオラインの子会社になったとたん、回収方針が格段に厳しくなった。タンポートはプロミス子会社時代は過払い金を全額返還してくれていたが、ネオラインキャピタルの子会社となったことで、過払い金回収がそう簡単にはいかなくなる可能性がある。

タンポートという会社

 タンポートはリッチ株式会社として出発。リッチは00年5月にプロミス株式会社の子会社となり、02年4月、シンコウ、東和商事を吸収合併し、商号も株式会社ぷらっとに変更となった。当時プロミスは金利フルライン戦略をとっていた。顧客をハイリスク、ミドルリスク、ローリスクの3グループに分け、ぷらっとが29%程度の金利でハイリスク客を、プロミスが25%程度の利息でミドルリスク客を、アットローンが18%の利息でローリスク客を獲得するという作戦だった。
 その後05年、プロミスはクオークと提携、クオークが物販、旧ぷらっとが貸金を営むという戦略のもと、ぷらっとはクオークローンに商号を変更した。しかしクオークとの提携は結局解消され、貸金業関連法改正でグレーゾーン金利の廃止が確実になると、ハイリスク客向け金融というビジネスモデル自体成り立たなくなり、クオークローンはプロミスグループのお荷物でしかなくなった。
 結局全店舗が閉鎖され、07年12月、クオークローンからタンポートに会社名変更。新たな貸し出しはせず、既存債権の回収だけをする会社となった。そして、プロミスは旧タンポート顧客に借り換えを案内、プロミスが金を貸し、タンポートに金を返させるようにした。こうした借り換えが進み、タンポートの顧客の多くが、こういった実態がよく理解できず、単純に「タンポートがプロミスになった」という認識でいた。

タンポートは超黒字会社

 タンポートは「うちはもう廃業しているので過払い金は7割返還でお願いします」だなどと言っていたが、タンポートは大変な黒字会社である。タンポートのB/S(貸借対照表)の数字を拾ってみよう。
 現金預金が46.39億円、営業貸付金が77.94億円、短期貸付金が110億円、土地が5.36億円で、これだけで合計239.69億円になる。
 他方、短期借入金は0.2億円、未払い金3.14億円、長期借入金0.03億円、退職給付引当金3.13億円、その他負債らしい負債は1.5億円くらいしかない。その合計額はたったの7.8億円しかない。
 営業貸付金77.93億円に対し、貸倒引当金は39.84億円、利息損失引当金は95億円、積みすぎではないか。利息損失引当金の貸付金に対する比率はなんと121.9%。以下の大手4社の引当率に比べ、どれだけべらぼうかがよく分かる。

  • 武富士  貸金残9959億円   引当金4638億円(55.7%)
  • アコム  貸金残1兆3532億円 引当金3016億円(22.3%)
  • プロミス 貸金残1兆6101億円 引当金2459億円(15.3%)
  • アイフル 貸金残1兆4062億円 引当金1319億円 (9.3%)
タンポートの短期貸付金110億円

 タンポートのB/Sにある110億円の短期貸付金。この中身をご存じだろうか。これは全額プロミスに対する貸付金なのである。プロミスは「お金のないタンポートに変わって責任感からタンポートの過払い金を払っている」のではない。タンポートに対する借金の返済のために、過払い金を立て替え払いしているのである。 

タンポート債権をプロミスはネオラインにいくらで売ったか

 Wikipediaによると「(プロミスは、タンポート=クオークローン及びサンライフの)株式と、(タンポート、サインライフから)プロミスやパル債権回収に譲渡された債権をネオラインキャピタルに売却し、株式の売却額は、それぞれわずか1円で実質無償譲渡に近い。債権207億円の売却額は約94億円)した。」とある。
 なお上記サンライフとは、四国の地場金融業者で、プロミスの子会社だった会社。
※09年7月13日追加

業務提携契約

 プロミスは、その完全子会社たるサンライフ株式会社、クラヴィスとの間で、平成19年6月18日付で、「プロミスグループ国内金融会社再編における合意書」なる業務提携契約を締結している。
 プロミスは、クラヴィスサンライフの顧客に、プロミスとの契約切替を促し、応じなかった客の債権は債権譲渡によりプロミスに移転させるという方法をとった。契約切替に関して、プロミスは同契約でクラヴィスに次の業務を委託している。

  1. 切替契約を希望する顧客から、その申込を取り次ぐ業務
  2. そうして申込んできた顧客に、申込書、パンフ等を送付する業務
  3. 上記に付随する業務

 また同契約で、こうしてプロミスの顧客となった者が過払金返還を求めてきた場合、クラヴィスが負担する過払金についても、被告プロミスとクラヴィスが連帯して責任を負い、その他顧客との全ての紛争に関する窓口を被告プロミスとすることとなっていた。

借換ではなく、契約切替

 クオークローンサンライフ、プロミスが連名で借り換えを要請した。借り換えの際に、借主は「残高確認書兼振込代行申込書」という書類への署名捺印を求められている。この書類は、次のような文面だ。
プロミス株式会社/株式会社クオークローン御中
私は、プロミスグループ再編により、株式会社クオークローンに対して負担する債務を新たにプロミス株式会社からの借入により完済する契約の切替について、以下の1から4の内容を確認・依頼・同意のうえ署名します。
ご署名欄

  1. 株式会クオークローンのおける、私の債務の本日付の元本合計は次の通りです。
  2. 株式会社クオークローンにおける私の債務を完済するため、次の口座への振込代行を依頼します。ジャパネット銀行・本店営業部・普通預金口座・3518261
  3. 株式会社クオークローンとの契約に係る書類、及び交付される領収証の取扱いを次のとおりとします。※破棄、郵送、その他を選択し、郵送先を特定
  4. 契約切替後のお問合せ窓口、および株式会社クオークローンにおける本日までの取引に係る紛争の窓口は、従前の契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。

この書面では「契約の切替」と言う言葉が使われている。同グループ内での債務の付け替えと言って良いだろう。

ラヴィスに対する過払金をプロミスから回収できるか

 形式的に見れば、プロミスから借りて、クオークローン(その後タンポート、現クラヴィス)に返済したのだから、クオークローンに対する過払金債権が発生し、プロミスに対する貸付金が発生することになる。しかし、何とかして、プロミスに対して過払金の返金を請求できないか。過払金債権者側の弁護士は頭を悩ませている。
 以下は当事務所で使用しているひな型である。
請求の趣旨
1 被告プロミス株式会社は原告に対し,金●円及びこれに対する平成●年●月●日から支払済に至るまで,年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社クラヴィスは原告に対し,金●万●円及び内金●万●円に対する平成●年●月●日から支払済に至るまで,年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は各被告の負担とする。
 との判決ならびに仮執行宣言を求める。

請求の原因
第1 当事者
被告らは貸金業の登録業者であり,原告は,被告らから継続的に金銭を借入れ,返済していたところ,被告株式会社クラヴィス(以下「被告クラヴィス」という。)からの借入につき,後述のとおり,被告プロミス株式会社(以下「被告プロミス」という。)からの借入に切り替えたものである。

第2 総論
<主位的主張>
被告プロミスは,被告クラヴィスから金銭消費貸借契約上の貸主としての地位を承継した。よって,原告と被告両名間の取引は一連一体の貸付行為ということができる。上記主張が認められた場合,被告クラヴィスは,過払金債務は負わないことになる。

<予備的主張>
 1 被告プロミスは契約切替の際,被告クラヴィスが原告に対して負っている過払金債務を併存的に引受けた。原告は,後述の「残高確認書兼振込代行申込書」に署名押印することにより,受益の意思表示を行った。よって,被告プロミスは,原告に対して,被告クラヴィスが負っていた過払金債務を負担している。
2 仮に原告は,後述の「残高確認書兼振込代行申込書」に署名押印することが,受益の意思表示と評価され得ないとしても、既に原告は被告プロミスに対して、平成●年●月●日付で過払金返還請求を行っており、遅くとも同通知は受益の意思表示と言えるものである。被告プロミスは,この主張に対し,平成20年12月15日付で、被告クラヴィスとの間で、債務引受を撤回する旨合意したと主張するかもしれない。しかし,上記撤回は信義則(禁反言)に反するもので許されない。

第3 各論
一 被告プロミスとの取引(被告クラヴィスからの借換えではないもの。以下「被告プロミスプロパー分」という。)
1 原告は,平成●年●月●日,被告プロミスとの間で,貸付限度額内での自由な借入を許し,リボルビング払い方式を定める継続的金銭消費貸借契約を締結した。
2 上記金銭消費貸借契約においては,期限の利益喪失約款が定められていた。
3 原告は,上記同日,被告プロミスから金●円を借入れたのを始めとして,平成●年●月●日まで,別紙計算書1記載のとおり,借入及び返済を繰り返してきた。
4 原告と被告プロミスとの間の上記金銭消費貸借契約に基づく利率は,利息制限法の制限利率を超えるものであるから,これを同法の制限利率に引き直して計算すると,原告の被告プロミスに対する上記金銭消費貸借契約にかかる過払金は,金●円になる(本過払金は,以下で述べるように,被告プロミスが悪意の受益者であるため,民法第704条により,利得金発生日の翌日から最終取引日に至るまで民法所定年5分の割合による利息を含んだ金額である。)。
5 被告プロミスは,貸金業の登録業者であり,利息制限法の法定金利を越える金利で貸付をしていることを知りながら,原告から利息の返済を受けていたのであるから,悪意の受益者となる。

二 被告クラヴィスとの取引
1 原告は,平成●年●月●日,被告クラヴィスとの間で,貸付限度額内での自由な借入を許し,リボルビング払い方式を定める継続的金銭消費貸借契約を締結した。
2 上記金銭消費貸借契約においては,期限の利益喪失約款が定められていた。
3 原告は,上記同日に,被告クラヴィスから金●円を借入れたのを始めとして,平成●年●月●日まで,別紙計算書2記載のとおり,借入及び返済を繰り返してきた。

三 被告クラヴィスから被告プロミスへの契約切替
1 被告クラヴィスと被告プロミスとの業務提携契約
⑴ 被告クラヴィスは,元はリッチ株式会社である。リッチ株式会社は平成12年5月に被告プロミスの完全子会社となり,平成14年4月,同じく被告プロミスの完全子会社であった株式会社シンコウ,東和商事株式会社を吸収合併し,商号も株式会社ぷらっとに変更となった。その後,同社は株式会社クオークローンと商号を変更した。
⑵ 被告プロミスは,被告クラヴィス(当時の商号は株式会社クオークローン)が平成19年6月1日をもって新規の貸付業務を停止するのに伴い,被告クラヴィスの顧客を被告プロミスに集約することを企図した。具体的には,被告プロミスが被告クラヴィスの顧客との間で,新たに極度方式基本契約を締結し,これに基づき当該顧客に対し,当時,同顧客が被告クラヴィスに負担していた借入金総額(利息含む)を貸付け,顧客をしてこれを被告クラヴィスに返済させ,被告クラヴィスに対する債務を完済させる。そして,被告クラヴィスはこれに応じない顧客に対する債権を被告プロミスに債権譲渡するというものであった。
⑶ そうして,被告プロミスは,被告クラヴィス及び同じく完全子会社たる訴外サンライフ株式会社との間で,平成19年6月18日付で,「プロミスグループ国内金融会社再編における合意書」なる業務提携契約(甲4)(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した。同契約によれば,被告クラヴィスの顧客の中で,被告プロミスとの極度方式基本契約への契約切替を案内する対象(以下「対象顧客」という。)を選定した上で,①切替契約の締結を希望する顧客(以下「申込顧客」という。)からの切替契約の申込を取り次ぐ業務,②申込顧客に対する切替契約にかかる申込書,パンフレットその他の案内文書の配布及び送付業務,③その他の業務を被告プロミスが被告クラヴィスに委託するものとされている。
また被告プロミスと被告クラヴィスは,申込顧客の中で切替契約を締結した者(以下「契約顧客」という。)が過払金返還を求めた場合には,被告クラヴィスが契約顧客に対して負担する一切の債務につき,被告プロミスと被告クラヴィスが連帯して責任を負うこと,切替契約後の契約顧客との全ての紛争に関する窓口を被告プロミスとする旨告知することなどを合意した。
2 被告クラヴィスから被告プロミスへの契約切替
⑴ 被告プロミスは,平成19年7月2日から同年9月30日までの間,自らまたは被告クラヴィスを通じて,被告クラヴィスの顧客に対し,プロミスグループ再編により,被告クラヴィスからの負債を,新たに被告プロミスからの借入により完済する契約に切り替えるように勧誘した。
⑵ 原告は,平成●年●月●日,被告プロミス,被告クラヴィスらの連名による「残高確認書兼振込代行申込書」(甲6)という,以下の内容の書面を示され,署名するよう勧められた。

プロミス株式会社/株式会社クオークローンサンライフ株式会社御中
私は,プロミスグループ再編により,株式会社クオークローンに対して負担する債務を新たにプロミス株式会社からの借入により完済する契約の切替について,以下の1から4の内容を確認・依頼・同意のうえ署名します。
1 株式会社クオークローンにおける,私の債務の本日付の元本,利息および元本合計は次の通りです。
(中略)
2 株式会社クオークローンにおける私の債務を完済するため,次の口座への振込代行を依頼します。
ジャパンネット銀行・本店営業部・普通預金口座・3518261
3 株式会社クオークローンとの契約に係る書類,及び交付される領収証の取扱いを次のとおりとします。
※破棄,郵送,その他を選択し,郵送先を特定
4 契約切替後のお問合せ窓口,および株式会社クオークローンにおける本日までの取引に係る紛争の窓口は,従前の契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。

⑶ 原告は,被告プロミスから,被告クラヴィスから被告プロミスに契約を切り替えることにより,被告クラヴィスより低利の金利の借入に切り替わる旨を聞かされ,明らかに有利になるものと誤解してしまった。
(4)この結果,原告は前記書面に署名してしまった。この結果,原告は被告クラヴィスに対する借入金元金が●円であることを確認し(同書面第1項),被告クラヴィス名義の預金口座へ同金額の送金を被告プロミスに依頼すること(同書面第2項),「契約切替後のお問い合わせ窓口」及び被告クラヴィスにおける「同日までの取引に係る紛争等の窓口」が被告プロミスになること(同書面第4項)を承諾した。
これは,被告プロミスが,本件業務提携契約に基づいて,原告をして契約切替に誘導したものである。
(5) しかし,実際には,当時,原告の被告クラヴィスに対する借入金は,利息制限法所定の制限利率による引直し後の金額で,●円しか存在しなかったのである。

四 被告クラヴィスの債務に対する被告プロミスの責任
1 大辞林第2版によると,「切替」という語は,「今までのものをやめて,別のものに替える。」という意味のほか,「証文を書き替えて更新する。」という意味を有している。契約の切替と言った場合,通常は後者の意味,すなわち,同一性を保ったまま,新たに契約に移し替える,更新する,と意味にとるのが通常であろう。
前述の残高確認書兼振込代行申込書は,「プロミスグループ再編により,株式会社クオークローンに対して負担する債務を新たにプロミス株式会社からの借入により完済する契約の切替」に顧客が同意する形をとっている。顧客が「契約の切替」という文言を見れば,「被告クラヴィスとの取引が被告プロミスとの取引に切り替わる」,すなわち,被告クラヴィスとの取引が同一性を保ったまま,被告プロミスとの取引に移し替えられる,という意味に考えることとなる。これが全くの別企業ならともかく,「プロミスグループ」の中で,再編の結果,切り替えが行われるのであるから,そう解したとしても不自然ではない。被告プロミスは,知名度,コマーシャルの頻度からして,業界トップグループの一角というイメージが強く,客の目から見れば「子会社を清算するので,子会社の取引を親会社が引き取るのだな」と考えるのは当然のことである。法律の専門家の目からすればともかく,一般人からすれば,同じ企業グループ同士,契約はそのまま移行するのが自然であると解しうる。
このことは,前述の残高確認書兼振込代行申込書第4項の「契約切替後のお問合せ窓口,及び株式会社クオークローンにおける本日までの紛争等の窓口は,従前の契約先に係わらずプロミス株式会社となる」という文章によって裏付けられる。実際,被告クラヴィス貸金業しか行っていなかったのであるから,その唯一の資産たる営業貸付金を被告プロミスに移し替え,自らが貸金業を廃業するとなると,その後は清算の道をたどるしかない。被告プロミスも,当時は100%親会社としての社会的責任から,被告クラヴィスの顧客に迷惑をかけずして,被告クラヴィス清算しようとの考えのもと,かかる切替を行い,被告クラヴィスの継続的金銭消費貸借の契約上の貸主としての地位を承継している。
2 そして,本件業務提携契約の締結,借換手続などは,被告プロミス内におけるコスト削減のために,被告プロミスの100パーセント子会社であり,かつ,連結子会社である被告クラヴィスの貸金事業を縮小し,最終的にはこれを廃業することを目的の一つとしたものであること,被告プロミスと被告クラヴィスとの間で,対象顧客を選定しており,また,被告クラヴィスから被告プロミスに対して,一定の顧客情報が承継され,対象顧客については継続的な取引がなされることを当然の前提として,被告プロミスが原告に金銭を貸し付ける際に,原告に関する実質的な与信審査をした形跡がないこと,原告との借換手続の際,原告は被告プロミスから金銭を現実に受領しておらず,被告プロミスから被告クラヴィスへ直接,振込送金がなされていること,前述したように,切替契約に応じた原告としても,被告クラヴィスとの間でなされていた取引と同様の継続的な金銭消費貸借関係が,被告プロミスとの間で維持されるとの認識を有していたことなどからすると,被告クラヴィスから被告プロミスへの借換手続は,被告プロミスが原告に対して,被告クラヴィスからの借入金返済資金を貸し付けたというものではなく,被告クラヴィスから被告プロミスに対して,契約内容の一部変更を伴う契約上の地位の移転がなされたと考えるべきである。
さらに,被告プロミスは,前述のとおり,契約顧客が過払金返還を求めた場合には,被告クラヴィスが契約顧客に対して負担する一切の債務につき,被告プロミスと被告クラヴィスが連帯して責任を負う旨を約しているが,単なる借換えであるならば,被告クラヴィスが負う過払金債務を被告プロミスが引き受ける必要はない。とすると,被告プロミスは,切替後も引き続いて契約顧客に貸付をしたり,弁済を受領したりすることを意図して,被告クラヴィスが契約顧客に対して負っている(可能性がある)過払金債務も含め,継続的金銭消費貸借契約上の貸主としての地位そのものを引き受けたものといえる。
3 そうなると,原告の被告プロミスに対する過払金は,原告被告両名間の一連の取引については,別紙計算書3記載のとおり,その最終取引日である平成●年●月●日時点において●円となり,これと原被告プロミスプロパー分の取引についての別紙計算書1記載の最終取引日である平成●年●月●日時点で金●円となり,合計で金●となる(本過払金は,被告両名が悪意の受益者であるため,民法第704条により,利得金発生日の翌日から原告被告プロミス間の最終取引日に至るまで民法所定年5分の割合による利息を含んだ金額である。)。

五 被告プロミスに対する予備的請求(併存的債務引受)
1 被告プロミスの被告クラヴィスの過払金債務の併存的債務引受
(1)  被告は,被告クラヴィス及び同じく完全子会社たる訴外サンライフ株式会社との間の業務提携契約において,被告らは,申込顧客の中で切替契約を締結した契約顧客が過払金返還を求めた場合には,被告クラヴィスが契約顧客に対して負担する一切の債務につき,被告プロミスと被告クラヴィスが連帯して責任を負うこと,切替契約後の契約顧客との全ての紛争に関する窓口を被告プロミスとする旨告知することを合意した。すなわち,被告プロミスは被告クラヴィス債務が完済されたことにより生じるであろう過払金債務を,被告クラヴィスと並んで併存的に引受けることを予め合意したのである。
(2)  実際に,同契約にしたがい,原告と被告クラヴィス間の極度方式基本契約は,原告と被告プロミスとの間のそれに切り替えられ,被告プロミスは被告クラヴィスが負担する過払金債務も併存的に引き受けた。
2 原告の受益の意思表示は不要
(1)  第三者のためにする契約で,受益者の利益に何らの不利益が生じない場合に,そもそも受益の意思表示を効果発生の要件とする必要性はない,というのが学説における多数説的見解である。そもそも受益の意思表示が,第三者に対して効力を生ずるための要件とされているのは,第三者が自らの認識しないところで,財産上の不利益を負わされることを避けんがためであるところ,併存的債務引受においては,新たな債務者が加わることで,債権の担保力が却って増すからである。
(2)  平井宜雄著債権総論第2版156〜157頁も,「併存的債務引受では,従来の債務者は,そのまま従前通りの責任を負い,その責任の内容・程度に何ら変更はなく,新たに債務者が加わることによって却って債権の担保力は却って増している。債権者の利益を損ねない以上,債権者の意思の介在を必要とすることもなく,旧債務者(諾約者)と新債務者(要約者)の併存的債務引受契約のみで,効果が発生するというべきである。」とする。
(3)  さらに,大審院大正15年3月25日判決(民集5巻219頁)は,併存的債務引受は,債務者の意思に反してでも,要約者(債権者)と諾約者(新債務者)との間の合意で行うことができるとする。
3 仮に受益の意思表示が必要だとしても,原告が「残高確認書兼振込代行申込書」に署名押印して被告宛て送付したことにより,受益の意思表示を行ったものといえる。
3−1 契約文言にある以上合意は成立
 そもそも現在のような契約社会において、契約の文言を100%理解して、その上で承諾の意思表示をしないと、認識していない事項について法的効力が及ばないと解しえない。それは被告のような貸金業者にあっては当然の理として理解されているであろう。利息・損害金の利率、サイクル制を取った場合の期限の定め、利息及び損害金の計算方法、期限の利益喪失条項等、実際に借り手はその内容を一つ一つ確かめることも、理解することもなく、署名押印するが、「契約書に署名押印した」という一事をもって、借り手は、実際には認識も理解もしていない契約の細部の条項に拘束されるのである。それは擬制或いはフィクションと言えるかもしれないが、かかる擬制がなければ契約社会は存立できないのである。
 だとするならば、「残高確認書兼振込代行申込書」の内容についても、原告がその細部についても、内容を認識し、理解することを要求される言われはなく、当該文書から通常読み取れるであろう内容については、原告と被告らの合意があったと解すべきである。ことに本件書面は被告が作成したものであるから、被告がその内容が抽象的であることを理由に責任を免れることを許すべきでないことは、契約原理ないし禁反言の原理上も当然である。
 さて、同書面4項にある「契約切替後のお問合せ窓口、および株式会社被告クラヴィスサンライフ株式会社における本日までの取引に係る紛争等の窓口は、従前契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」という文言であるが、確かに「紛争」とあるだけで、その具体的内容は明らかではない。過払金請求権とも具体的には述べていない。しかし、同書面が作成された当時は、既にみなし弁済の成立範囲を大きく狭めた最高裁判所平成18年1月13日判決が出た後であり、過払金請求が激増していた時期である。そこにおける「紛争」とは、過払金返還請求権が想定されていたと考えるのが自然である。過払金返還請求権の存在が明示されていないのは、被告らとしては、かかる債権の存在を被告クラヴィス顧客に知らしめ「寝ている子を起こしては困る」という、被告側の都合から曖昧な形にされたからに過ぎない。実際、被告プロミスは被告クラヴィスの過払金返還債務を併存的に引き受けたのであり、それを直接書くべきところ、被告らは、被告プロミスが「紛争等の窓口」となる旨、顧客宛て、敢えて曖昧な表現で表示したのである。しかも、その事情はプロミスの「極力過払金返還債務の履行を免れたい」との意図に基づくものに過ぎない。意思表示に譬えて言えば、債務を引き受ける旨の内心の意思表示は有り、過払金請求が激増している中、貸金業者の認識を基準に考えれば、債務を引き受ける旨の表示上の効果意思もある。したがって、同書面を原告宛提示することは、被告プロミスが被告クラヴィスの過払金返還債務を引き受けた旨を表示したことになると言って良い。
 被告プロミスは被告クラヴィスから過払金返還債務を、併存的に引き受けたからこそ、敢えて曖昧な表現を用いながら、併存的に債務を引き受けた旨を原告に通知したものである。そうでないならば,被告プロミスがわざわざ自ら紛争等の窓口となる必要はない。
 原告らは、係る内容の書面を受け取って、署名押印した以上、被告クラヴィスの過払金返還請求権を被告プロミスに請求しうることについての、受益の意思表示を行ったものということができる。
3-2 受益の意思表示は概括的かつ黙示的なもので足りる
(1)仮に,併存的債務引受が第三者のためにする契約の一つである以上受益の意思表示が必要だったとしても,そこで要求される意思の程度としては,概括的かつ黙示的なもので足りる。
三者のためにする契約で,受益の意思表示が権利の発生要件とされた根拠は,「利益といえども,その意思に反してこれを強いることは妥当でない」ことにある。
よって,受益の意思表示にあたり,受益者において旧債務者と新債務者との債務引受契約の存否およびその具体的な内容についての認識が必要であると狭く解することは妥当でなく,旧債務者の債務を新債務者が負担することについて受益者の意思に反していないことを認め得るだけの意思表示があれば十分である。
(2)「残高確認書兼振込代行申込書」には,
「4 契約切替後のお問合せ窓口,および株式会社被告クラヴィスサンライフ株式会社における本日までの取引に係る紛争等の窓口は,従前契約先に係わらずプロミス株式会社となることに異議はありません。」
とある。
(3)仮に,被告プロミスが被告クラヴィスの債務を引き受けないのであれば,被告プロミスがわざわざ自ら紛争等の窓口となる必要はない。実際,したがって,被告プロミスは被告クラヴィスの債務を引き受けたからこそ,かかる記載をしたのである。原告としても,被告らから,紛争の窓口のプロミスが被告クラヴィスに代わって支払うことを告げられることで,被告クラヴィスの債務も引き受けたものと理解するのが自然である。そのうえで,原告は平成●年●月●日,被告プロミス,被告クラヴィス,訴外サンライフの連名による「残高確認書兼振込代行申込書」に署名押印した。よって受益の意思表示があったと理解してよい。
(4)或いは次のようにも言えよう。同申込書には,「プロミスグループ再編により,株式会社クオークローンに対して負担する債務を新たにプロミス株式会社からの借入により完済する契約の切替」とも書かれている。に顧客が同意する形をとっている。原告としては「契約の切替」という文言を見て,以後,被告クラヴィスの貸主の地位が被告プロミスに移転したものと解するのはごく自然なことである(理由は上述)。同記載は,被告クラヴィスの金銭消費貸借契約上の貸主の地位が,被告プロミスに移転したように読み取れる。仮に契約上の地位の移転がなかったとしても,そのような外観ある取引があり,原告はかかる地位の移転あるものと認識した。当該貸主の地位には過払金債務が法律上当然に含まれているのであるから,上記申込書に署名押印した原告は,過払金債務の移転すなわち被告プロミスの引受を認識したものと言え,右署名押印行為は上記債務引受について受益の意思表示をしたものと言える。
3−4 結語
 上記のとおり,契約上の地位の承継が否定された場合,被告クラヴィスが,別紙計算書2記載のとおり,確定利息計算日である●日時点で原告に対する過払い債務金●円を負担するのと同時に,被告プロミスも原告に対し,同債務を負担することになる。
 また,被告プロミスは,被告クラヴィスからの切替後の別紙計算書4記載のとおり,平成●年●月●日時点で,過払債務●を原告に対し,負担している。
 これら過払金と,被告プロミスプロパー分である別紙計算書1の金●円とを合計し,被告プロミスの原告に対する過払債務は,最終取引日である平成●年●月●日時点で金●円となる。
3−4 原告代理人を通じての受益の意思表示
(1)「残高確認書兼振込代行申込書」に署名押印し,被告クラヴィスないし被告プロミスに交付したことが,受益の意思表示にならないとしても,原告ら代理人が,原告を代理して過払金請求権を行うことで,受益の意思表示を行い,被告プロミスに対する被告クラヴィス分の過払金請求権を取得した。各原告の受益の意思表示日は以下の通りである。
(2)確かに,被告プロミスはいったん併存的債務引受を行ったものの,平成21年12月,被告クラヴィスとの間において,合意の上,併存的債務引受を撤回した。
(3)前述したように,被告プロミスは,被告クラヴィス清算するに際して,被告クラヴィスの顧客との取引を引き取り,過払金請求があれば,その窓口となり賠償の責に任じ,その後は,被告クラヴィスに対する求償権を行使するという形で内部的に処理をすることによって,被告クラヴィスの顧客に迷惑をかけないようにしていた。原告も前述の残高確認書兼振込代行申込書を見て,被告プロミスを信頼して契約を切り替えたのである。しかし,その後,過払金返還請求の高止まりといった事情から,親会社たる被告プロミス自身の経営の存続が危ぶまれるに至り,一転前言を翻し,平成●年●月●日,原告ら顧客から見えない形で,契約書上,併存的債務引受を撤回し,訴外ネオラインキャピタル株式会社に被告クラヴィスの株式全てを売却し,無関係を装うに至った。
(4)しかし,被告プロミスとしては通常人なら「被告プロミスが債務を引き受けるであろう」と解する文言を示していた(前述の残高確認書兼振込代行申込書)。原告は,被告プロミスからの借入金を被告クラヴィスに対し完済しなければ,少なくとも約定債務額●/●約定債務額と実際の債務額との差額を支払わずに済んだのに支払わずに済んだのに,これを返済したことにより新たに回収の必要性を生じていること,その後被告プロミスは他の被告クラヴィスに対する過払金債権者に対しては返済に応じていたこと等からして,撤回合意は信義則上許されないものというべきであり,原告はその後もなお受益の意思表示をなし得たものというべきである。

六 被告クラヴィスの責任
1 仮に,これまで原告が主張してきたように,被告プロミスが被告クラヴィスの貸主としての地位を承継しておらず,「被告プロミスが被告クラヴィスの過払金債務を併存的に債務引受した」ないし「信義則上,被告プロミスが被告クラヴィスの債務を引き受けなかったと主張できない」となるに過ぎない場合,被告クラヴィスに対する債務が完済された時点で,被告クラヴィスは,被告プロミスと並んで,当該完済行為により生じた過払金を払うべき義務を負っている。
被告プロミスが被告クラヴィスの過払金債務について何らの責任を負わない場合は,被告クラヴィスに対する債務が完済された時点で,被告クラヴィスは,単独で,当該完済行為により生じた過払金を払うべき義務を負っている。
2 すなわち,前に述べたように,原告は,被告クラヴィスとの間で,借入と返済を繰り返していたが,原告と被告クラヴィスとの間の金銭消費貸借契約に基づく利率は,利息制限法の制限利率を超えるものであるから,これを同法の制限利率に引き直して計算すると,確定利息計算日である平成●年●月●日時点で,原告の被告クラヴィスに対する過払金は,金●円になる(本過払金は,以下で述べるように,被告プロミスが悪意の受益者であるため,民法第704条により,利得金発生日の翌日から確定利息計算日である平成●年●月●日に至るまで民法所定年5分の割合による利息を含んだ金額である。)。
3 被告クラヴィスは,貸金業の登録業者であり,利息制限法の法定金利を越える金利で貸付をしていることを知りながら,原告から利息の返済を受けていたのであるから,悪意の受益者となる。

七 同時審判の申出
被告プロミスが被告クラヴィスの契約上の地位を承継したとの原告の主張が認められた場合,被告プロミスに対する請求の趣旨第1項記載の請求全部が認容され,被告クラヴィスに対する請求の趣旨第2項記載の請求全部が棄却される。
逆に,被告プロミスが被告クラヴィスの契約上の地位を引き受けていないとなると,被告プロミスに対する請求の趣旨第1項記載の請求の一部が棄却され,その代わり被告クラヴィスに対する請求の趣旨第2項記載の請求全部が認容される。
 このように,請求の趣旨第1項記載の請求の一部と,請求の趣旨第2項記載の請求とは,民事訴訟法第41条の「法律上併存し得ない関係」にあるといえるため,同条に基づき同時審判されるよう申し出る(なお,本各請求は最高裁判例が否定する主観的予備的併合ではなく,単純併合である。)。

第4 結語
よって,原告は,被告プロミスに対し,不当利得返還請求権に基づき,金●円(別紙計算書1記載の被告プロミス単独の取引に基づき過払金●円と同計算書3記載の被告クラヴィス被告プロミス一連の取引に基づく過払金●円の合計額)及びこれに対する原告被告プロミス間の最終取引日の翌日である平成●年●月●日から支払済に至るまで年5分の割合による利息の支払いを求めるとともに,
被告クラヴィスに対し,同じく不当利得返還請求権に基づき,●円及び内金●円に対する確定利息計算日の翌日である平成●年●月●日から支払済みに至るまで年5分の割合による利息の支払いを求める。

敗訴リスクにも注意

 この問題について、反対の判例もあり、プロミスの責任が確定したという訳ではない。もし敗訴した場合、最悪訴訟中に26.28%(最高貸付額が10〜100万円の場合)の損害金が加わる可能性もある。そこが悩むところだろうが、争う価値はある。

ラヴィスがさらなる減額を主張

 クラヴィスはちょっと前まで、1割での和解(1割カットではなく、9割カット)を求めていたが、最近5%というようになり、最近は3%をいうようになった。(10.2.10)