アフガンへの協力は非軍事分野で

オバマがアフガン新戦略を発表

 オバマ米大統領は27日、アフガニスタンについて新たな包括的戦略を発表した。オバマ政権は既に今年夏までに、1万7000人の兵士を送ることを決めていたが、さらに4000人増派する。政権内では、1万7000人の増派では不足とする軍と、これ以上の増派に反対する政権中枢との駆け引きがあったそうで、今回の決定は、4000人増派するが、その任務は直接掃討に加わることなく、アフガン軍、警察の育成訓練とすることで、いわば両者の顔を立てたというのが実際らしい。アフガン軍、警察を11年までに21万人以上の規模に拡大させることが目標だ。
 またオバマはアフガン政府の統治能力の向上のため数百人規模の外交官らの文民も派遣すると述べた。アフガン政府内には汚職がはびこっており、これがタリバンに有利な状況を作っている。
 また、タリバーンアルカイダ系勢力が活動の温床にしている部族地域などを抱えるパキスタンの安定化を狙い、今後5年間にわたって、年間15億ドル(約1470億円)の非軍事援助を提供するとも言明した。

日本初め他国には非軍事援助を期待

 ゲーツ国防長官も同日、「欧州各国には部隊増派より、文民専門家や警察官の訓練担当者の派遣の方が政治的にも頼みやすいと思う」と発言。政権高官らの発言の背景には、各国で軍事支援への世論の反発が強いことに加え、アフガン・パキスタンの国力強化が、結局は米軍の撤退につながるとの判断がある。
 日本は首相特使に任命された緒方貞子JICA理事長が、3月9日、米国務省でアフガン・パキスタン担当のホルブルック特使と会談し、治安維持、経済復興、政治的な和解の3本柱でのアフガン支援を表明。具体的には警察官8万人の半年の給与分として1億2400万ドルの拠出を表明した。また、隣国パキスタン中央アジア諸国を含めた対応が必要だとして、4月中旬に日本でパキスタン支援国会合を主催する方針を確認した。
 ホルブルック特使は、警察官の半年の給与分の拠出を高く評価し、パキスタン支援国会合には自らが出席する意向を示した。
 緒方貞子氏は、国連人権委員会日本政府代表、国連難民高等弁務官という、国際人権支援の第一人者で、アフガン支援に精力的に活動してきた。緒方氏を特使とした人選、そして派遣のタイミング、日本外交久々のヒットではないか。

緒方さんが見た米アフガン外交

 緒方氏は記者会見で、軍事行動中心に話が進みがちだったブッシュ前政権と違い、オバマ政権の対アフガン政策は「アフガン、パキスタンに安定した政権をつくり、人々の生活を改善することが最大の目標になっている。そのために関係国とも協議して、かなり綿密な準備をしている」との印象を明らかにした。(2009年3月10日10時36分Asahi.com
 だが、多民族国家で国民融和が難しいアフガンの複雑な社会状況の中で、どこまで成果があがるのかは不透明だ。8月には大統領選挙が予定されている。まずはこれを円滑に実施する必要がある。

出口戦略は

 オバマは、アフガン旧支配勢力タリバンには「脅迫や金のために武器を取っている者もいる」として、一部と融和を進める方針も強調する。この着眼にも賛成だ。タリバンは、女子を学校に通わせるのに反対し、通学する女生徒に酸をかけ、女子高を破壊するといったこともしてきたし、ビデオ店を打ち壊す、といった蛮行を繰り返してきた。したがって民衆の支持を必ずしも受けているわけではない。恐怖政治で住民を支配している。彼らはシャリアと呼ばれるイスラム裁判所を設け、反イスラム的住民を死刑にしている。しかし、それに対してアフガン政府はといえば、昔の軍閥のボス連中がそのまま政権に就き、私腹を肥やしていて、これまた人気がない。北部同盟マスードという高潔な指導者がかつてはいたのだが、9.11テロと同時期にアルカイダによって暗殺されている(wikipedeia参照)。
 タリバーンの背後にはパキスタンがある。タリバーンの多くがパシュトーン人、パキスタンの北西部山岳地帯のはパシュトゥーン人によって占められ、双方の精神的紐帯は強い。彼らにとってはアフガニスタンとの国境など、西洋の文明が押し付けたものであり、本来は一体だったアフガンの同族との障害物でしかない。この北西部山岳地帯にはタリバーンを支持するものが多い。
 パキスタンの現大統領は、Mr10%と言われるザルダリ。公共事業費用の10%を賄賂としてもらうことからついたニックネームだ。アルカイダが勢力を貯えたのも、汚職まみれのパキスタン政府がf学校教育に熱心でないため、マドラサと呼ばれるイスラム神学校がタリバーンによって設立され、イスラム原理主義による教育が行われ、テロリストの養成所の役割も果たしている。
 パキスタン、アフガンの問題は、内政問題と言ってもいいかもしれない。要は政府の統治能力の不足がタリバーンの跋扈をもたらしている。だからアフガン、パキスタンの統治能力を向上させることが、タリバーンの脅威を減らす一番の薬なのである。 

今後の外交スケジュール

 米国は、31日にオランダで開かれるアフガン安定化国際会議や、4月17日の東京でのパキスタン支援国会合で、日本や欧州各国に応分の負担を求める方針だ。
※ かつてアフガン、パキスタン問題について書いたブログです。↓
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090206/1233873922