悪玉にされる改築建築士法 本当の悪玉は誰だ

一級建築士には構造屋と意匠屋がいる

 一級建築士は建物の設計と工事監理が仕事である。工事監理とは、建物が設計通り作られているかどうかを監督する仕事である。そして、一級建築士には構造屋と意匠屋がいる。
 設計図は、構造図面、意匠図面、設備図面の三つに分かれる。構造図面とは、基礎の鉄筋、コンクリート、梁等の構造材の仕様を定め、それらをどのように配し、接合するか、継ぎ手の方法、施工手順、柱や梁の配置図などが詳細に書き記された図面である。これに対し、建築図とは、建物の平面図、立面図、断面図、仕上表などがこれにあたる。施工者は構造図に従って建物を建築する。建築図はどちらかと言えば、完成見本のようなものにすぎない。そして、構造図面を作るのが構造屋であり、建築図面を作るのが意匠屋なのである。
 建物はどちらかと言えば、見た目に関心が行きやすい。それは意匠屋の仕事である。しかし、建物が地震や台風に耐えられるのは、構造屋が構造計算をし、柱、梁、土台の仕様、数、大きさなどを、適正に決定、配置しているからである。しかし構造屋は、ふつう意匠屋の下請けで働いている。そのため、構造屋がしっかりした人じゃないと、意匠屋のいいように操られ、耐震構造が不足するビルを建ててしまうことになる。あの姉歯は構造屋だが、職業倫理が欠けていたため、早く安く建てたいデベロッパー側の意向に沿って、姉歯物件と呼ばれる耐震性を欠いた物件を次々に設計してしまったのである。
 もうひとつの設備図は、電気設備、給排水設備の配置が書き記された図面だ。これなんかは、電気工事業者や給排水工事業者に図面を作らせ、意匠屋がさも自分が作ったように見せかけているだけだ。

改正建築士法で誕生した構造設計一級建築士、設備設計一級建築士

 09年5月27日から改正建築士法が全面施行される。既に一部施行され、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士という資格が生まれている。一級建築士中、構造設計に5年以上従事し、講習を経た者がなることのできる資格が構造設計一級建築士で、設備設計にに5年以上従事し、講習を経た者がなることのできる資格が設備設計一級建築士である。
 これまで建築確認申請書には、責任者の1級建築士1人が判を押せばよかった。しかし法改正により5月27日以降は、一定規模以上の建物の設計は、構造設計1級建築士、設備設計1級建築士が設計か、あるいは法適合確認を行ない、それぞれについて責任を負うことが義務づけられる。
 http://www.icba.or.jp/kenchikushiho/pdf/panf2.pdf 

建設業界の恨み節

 しかし、十分な数の構造設計1級建築士、設備設計1級建築士が確保出来るか危ぶまれている。ことに一番不足が心配されるのは、設備設計一級建築士だ。一級建築士の中でまともに設備図面が書ける人は少ない。大概が設備工事業者の書いた図面を自分が書いたと称しているだけだからだ。3月25日の日経朝刊によると、島根県には設備1級の資格保持者が一人しかいないという。実務経験を偽装する1級建築士も出てくるのではないか。こういったこともあって、建設業界は有資格者の不足で着工件数が落ちると不平たらたらだ。日経やビジネス誌からは既に官製不況の再来の声が出始める。
 確かに設備設計一級建築士は勇み足だったが、建物の安全のためには構造設計一級建築士の新設、地位向上は必要不可欠だ。これまで建設業界で構造設計が冷遇されすぎていた結果が、構造屋の不足をもたらしているのではないか。
 私が構造屋、意匠屋で思い出すのが、かつて扱った建築瑕疵の事件だ。東京地裁は建築事件だとまず建築調停に回されるが、そこでは業界の利益しか考えない1級建築士が、調停委員としてのさばっている。ある一級建築士の調停委員があまりに業者側の肩ばかり持つものだから、構造の欠陥について意見を言い続けていたら、この委員突然切れて言った言葉が「俺はな!構造屋じゃないんだ。意匠屋なんだよ!」だった。裁判所もこの調停員のメチャクチャ意見を盲信。業者側のたった100万円の解決金の提案に「こんな有利な案をのまないなんて」と不機嫌だった。そのあと構造屋も出てきたがこれもインチキ委員。こいつにかかると耐震構造など無きが如しだった。
 調停は不調にし、裁判手続に。そして鑑定人に木造建築界の権威、坂本功東大教授が選任された。鑑定の結果、耐震構造の欠陥が指摘され、耐震工事費用500万円が認められた。