年金マネーの孤軍奮闘 企業年金一部で売り越し始まる

株価を年金マネーによる買い支え

 09年3月10日には7054.98円と今年最安値となった日経平均が、3月末決算を控え上昇傾向にある。3月19日には終値では7945.96円にとどまったが、一時は8000円を超える金額にまでなった。
 外国人の売り攻勢が続く中、株価を支えているのが、個人投資家と、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による買入れである。
 公的年金企業年金は株安局面になると全体の資産構成を維持するため、株を買い増す傾向が強まる。この結果、年金資金の運用を受託している信託銀行の買いが膨らんでいる。

東証・投資部門別株式売買状況を見る

 よく「外国人が●か月連続で売り越し」なんてニュースをやっているが、こういったニュースのネタ元が東証のHPにある投資部門別株式売買状況である。TOPページから、マーケット情報、統計資料と進んで行くと、「投資部門別売買状況」というページにたどりつく。
 直近の09年3月第2週取引(東京、大阪、名古屋三市場の一・二部等)を見てみよう。自己計とあるのは、証券会社の自己売買部門の取引=証券会社自身が行っている売買。これによると自己計は933億円の売り越し=933億円分売りが多い。証券会社が「今株は買いです。」なんて言っているかもしれないが、自身は売り越しているのだ。
 委託計を見ると、法人は4103億円、個人は2148億円の買い越し、外国人は5572億円の売り越しとなっている。さらに法人の内訳を見ると、投資信託が59億円、事業法人が246億円、その他法人等が11億円、信託銀行が3699億円の買い越し、生保・損保が25億円、銀行が21億円の売り越しになっている。ところで、ここに言う「事業法人」はトヨタ、キャノンといったような一般企業のことをいい、「その他法人」は政府、地方自治体、財団法人、特殊法人、従業員持株会、親睦会、労働組合などがこれにあたる。
 こうして見ると、売り越しで他を圧しているのは外国人。5571億円の売り越しで、外国人の月間売り越しは6カ月連続となっている。他方買い越しのトップを行くのが信託銀行の3699億円、個人の2148億円だ。日本の株式市場は、外国人が売りを浴びせるも、個人投資家、信託銀行が買い支えていると言える。

止まらない外国人売り

 国内の外銀の総資産が急減している。これには二つの要因がある。ひとつは金融危機で外銀が資産圧縮を迫られていること。もう一つが、円キャリートレードが死語になり、外銀にとって円を持つ意味がなくなったからだ。
 低金利の円を借り、その円を売って高金利の通貨を買うという「円キャリートレード」。超低金利を続けてきた円は、外国投資家にとって、資金調達の道具に過ぎなかった。しかし、米国がゼロ金利政策を採用した時点で、資金調達の道具としての円は不要になってしまった。それが円資産としての日本株の売却という流れになっている。

信託銀行の買い越し=公的年金の買い越し

 他方、この信託銀行の大幅な買い越しを支えているのが、公的年金だ。2月中旬以降、7000円割れを食い止めようと「1日計500億円のペース」という公的年金の買いが続いていると言われている。
 厚生年金、国民年金は、厚労省所管の年金積立金管理運用独立行政法人=GRIFが信託銀行などを通じて運用している。このGRIFは、改正厚生年金保険法及び改正国民年金法の規定に基づき、年金積立金の管理及び運用を行い、その収益を国庫に納付することで、公的年金運営の安定を目指す、とされている。「されている」と表現したのは、このGRIFの08年度第3四半期(10〜12月)に、5兆7398億円という運用損失を作っているからだ。07年度からの通算では約14兆5000億円の損失となり、06年度末に約149兆円あった積立金の1割近くが2年足らずで失われたことになる。
 http://kumanichi.com/news/kyodo/politics/200902/20090227012.shtml
 一般に、公的年金私的年金に限らず、運用比率があらかじめ決まっており、株安になると株の比率が下がるため、買い増しをして運用比率を回復することになっている。しかし、この買い越しの多さは、こうしたリバランスを超えて、株価対策に年金積立金が利用されているのではないかが疑われる。GRIFが今後も政府与党の指示で株式の買い支えをしていき、さらなる損失を与えることになりかねない。
 川瀬理事長は、07年6月13日、ブルームバーグのインタビューに答えて「どこかにヘッジファンドとかプライベートエクイティという宝の山があって、そこに行けば、ほとんどリスクなしに高い運用成績が得られるとは思わない。運用論からいえば、リスクとリターンは裏返しの関係だ。(高利回りの背後に)どういうリスクがあるのか、考えてみないといけない」と言っており(http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003017&sid=azYPf0wDcdqw)、当時企業年金が高配当につられて、高リスクの投資を行っていた時期に、このような発言をしていたわけだが、政府から「3月末対策で株をどんどん買って買い支えろ」と言われれば、逆らえないと言ったところなのだろうか。

企業年金は株から逃げ始める

 一方一部の企業年金は、日本株投資の比率を減らし始めているようだ。資生堂は4月以降、国内株、国外株の比率を各20%から各5%に落とす一方で国内債券を35%から60%に増やすという。また大丸の年金も株式の比率を4割から3割に下げ、その分原油穀物に振り向けるという。企業年金は運用益を悪化させており、企業も追加出資による穴埋めを迫られる心配から、こういった動きもあるようだ。3月末も過ぎると、個人投資家も去り、GRIF一人で買い支えることになりかねない。
♪私にとっては懐かしい曲です。最近リメイクして都内で上演されているようですが。Oliviaが若々しいですね。曲はELO。Xanadu
http://www.youtube.com/watch?v=7m1UWSD-FaA