AIG巨額ボーナスへの90%課税 法的問題点と政治的影響

AIG社員からボーナスを取り戻せ

 オバマ大統領は16日、税金による救済を受けたAIGが幹部社員らに計1億6500万ドル(約160億円)のボーナスを支給したことについて、「納税者を侮辱する行為だ」と激しく批判。合法的手段で「支払いを阻止するようガイトナー財務長官に指示した」と述べた。しかし、時既に遅しで、この時点でボーナスは既に支払われた後だったのである。
 AIGのリディCEOは、18日の下院の金融サービス委員会小委員会の公聴会で、議員たちから「公的資金を取り戻せ」「納税者にお金を返すまで、ボーナスはなし」「AIGは破産手続きを経て、ちゃんと整理されるべきだ」などと、批判を浴びせられた。
 米下院本会議は19日、支給されたボーナスに90%という異例の高い税率で課税する法案を賛成328対反対93で可決。上院も同様の法案を準備中で、来週にも上下両院で法案が一本化される勢いだ。下院が可決した法案は、ボーナスを受け取った年収25万ドル(約2400万円)以上の同社従業員が対象。50億ドル(約4800億円)超の公的資本注入を受けた金融機関のほか、ファニーメイフレディマックにも適用する。オバマ大統領は「国民の怒りを正しく反映した採決だ」と法案を支持する声明を発表した。

法案は法的に問題

 米政府は、AIGに、4回合計約1735億ドル(約17兆円)もの税金をつぎ込んでいる。しかもボーナスをもらった連中は、世界を信用危機に陥れたCDS部門の社員だった。米国メディアは「公的資金」などというお役人用語を使わず、正しく“Taxpayer's money”と呼ぶ。だからこういったニュースが報じられると「俺たちの税金がなんであんな連中のボーナスに使われなきゃならないんだ」と国民が憤慨するのである。議会も当然怒らざるをえない。これが中世だったら、全員縛り首、ギロチン、あるいは逆さ磔だ。
 AIGの株式の8割は政府が保有しており、実質国有企業になっている。そのAIGが、巨額ボーナスを支払ったとなれば、それは政府、ひいてはオバマが払ったのと同じになる。オバマとしては面子をつぶされた形で、オバマとしても、黙っていられない。
 しかし、税金は遡及して課されないことが憲法上の原則である。新税は、その制定後に発生した所得にだけ課税され、その制定前の所得には課されつことはない。 
 むしろ、政府が株主として代表訴訟を提起、これらのトレーダーおよび役員に対し、損害賠償を請求するということが考えられる。陪審制を採用すれば政府側の勝つ確率はかなり高いのではないか。しかしそうなるとAIGがあちこちから訴訟を起こされ、AIGの財務状況がさらに悪化しかねず、政権の思惑とは反対方向に向かいかねない。

法案は政治的に問題

 米政府はこれからバッドバンクを作って、不良資産を銀行から買い取り、銀行がその分マイナスを生じたら公的資金(税金)を注入し自己資本比率を引き上げるという作業を行っていかなければならない。議会が銀行への公的資金注入に消極的なため、ガイトナー財務長官は官民協調してこうした不良資産を買い取るファンドを設立しようということになっているが、こうした問題が起こると、民も資金を出しづらくなるということにもなろう。
 現在ガイトナーAIG問題にかかりきりだ。本来ガイトナーはいくら時間があっても足りないはずだ。それが、このような下らないことに時間を取られてしまい、本来の職分が果たせなくなってしまう。経済、財政、金融の各政策を確立、実行しないと、いつ危機が勃発するか分からない。またさには刻一刻を争う事態だ。