日銀 政府の国債増発を下支え

日銀、銀行から劣後ローン引受、国債買入額月1.8兆円に増額

 日銀は17日、政策委員会で、銀行の資本増強を支援するため、総額1兆円規模を上限にした劣後ローンの引き受けを検討することを決めた。国際業務を展開する大手銀行や一部地方銀行が対象。株価の下落で銀行の自己資本が目減りし、貸し渋りに走るのを防ぐため資本増強を支援する。
 さらに、日銀は18日、金融政策決定会合で、金融機関から長期国債を買い入れるについて、その毎月の買入枠を1兆4000億円から1兆8000億円に増額する方針を決めた。国債買い入れ増額は約3カ月ぶりで、4000億円の増額は過去最大となる。

劣後ローンとは

 劣後ローンとは、他の債務よりも債務弁済の順位が劣る借入金で、その見返りとして利息が高く設定される。
 通常の融資では他人資本ということで自己資本比率が下がってしまうが、劣後ローンなら会計上自己資本の取り扱いにでき、同比率を引き上げることができる。ここに劣後ローンの最大のメリットがある。劣後ローンを資本とみなしうるには一定の要件を満たす必要があるが、その要件は3月1日付のブログで説明しているので、それをご参照いただきた。
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090301/1235895204
 劣後ローンは、他の返済が終わった後に返済の順番が回ってくるため(だから資産勘定となるのだが)、対象銀行が破たんすれば、日銀の損失に直結する。中央銀行の伝統的な政策から一歩足を踏みだした形だ。少し前までは、日銀は伝統的手法から外れることに、ずいぶん慎重で、政府から尻を叩かれ通しだったが、最近はかなり思い切った選択肢をとりつつある。
 バーナンキFRB長官の資金供給策に比べれば、小粒だが、基軸通貨として安定度が格段に違う米ドルを管理しているFRBに比べて、政策手法が保守的になるのは致し方ない。資金供給を乱発すると円が暴落しかねない。

国債買入額

 政府は大型景気対策を行うため、今後国債を増発せざるをえない。そうなると心配なのは長期金利の上昇だ。例えば、市場に商品が過剰な場合を考えてみよう。この場合、商品を売ろうと思ったら、商品を値下げしないと買ってもらえない。国債を過剰に発行した場合はどうか。過剰な国債を引き受けてもらおうと思ったら金利を上げざるしかないのだ。これが長期金利の上昇である。
 長期金利が上昇すると経済には次のような悪影響が現われる。

  1. 国債の利払い費用が増加し、国庫歳出の増大をもたらす。
  2. 長期プライムレートを始めとして銀行の貸出金利が高くなるので、企業が資金を借りにくくなる。
  3. 住宅ローンをはじめ、借り入れしにくくなる。
  4. 株式より債券に人気がシフトし、株価が下落する。
  5. 他方既に発行済みの債権は価格が下落する。ことに債券を大量に購入している地銀に影響を与える。

 1は、国債を発行すればするほど利払いが加速度的に増えることを意味する。水を入れても、入れても、国庫というバケツの穴が大きくなって、結局バケツの中身は満たされず、却って財政赤字を増やすだけの結果に終わってしまうということだ。国債を発行して景気拡大しようと思っても、2〜4の事態が発生すれば、景気回復の効果も相殺されてしまうのである。
 しかし、日銀が国債をどんどん市場から吸い上げてくれれば、政府が国債を増発しても市場に国債が余ることになるため、長期金利の上昇も抑えられる。日銀の国債買入枠の拡大は、政府の国債増発を後押しすることになる。

財政ファイナンスではとの疑問

 国債を銀行が引き受け、日銀が国債を買うという資金の流れだけを見れば、日銀が政府に資金供給するのと変わりはない。しかしこのことは、財政法5条が「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、、てはならない。」として、日銀に国債の引受を禁じている趣旨を潜脱しかねないことになる。
 白川日銀総裁は18日の政策決定会合後の記者会見で「国債増発への対応を念頭に置いたものではない」と述べ、買い切りオペが財政ファイナンスになると危険だ、との認識をあらためて示したが、一方で政府との対話の重要性を述べている。この日銀の積極的姿勢、政府への妥協は、政府紙幣の議論とも関連するのではないか。与党の一部で根強くある政府紙幣待望論に対して牽制球を投げたということはないだろうか。

与謝野財務相も評価

 与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は19日の閣議後の記者会見で、日銀による長期国債の買い入れ増額や、米連邦準備制度理事会FRB)による長期国債の買い入れ方針決定について「(いずれも)長期資本市場にいい影響を与える」と歓迎した。
 この与謝野発言は、一つには日銀への謝辞でもあるし、もう一つには政府と日銀とが一体感を持って景気対策をしていると発信することで、株価押し上げへのチャンスと見たのではないか。与謝野さんに座布団十枚と言ったところか。
♪JESSE MCCARTNEY "LEAVIN"まったくこのテーマに関係なしですが
http://www.youtube.com/watch?v=XfOVNNRVeq4&feature=related