最高裁の平成20年1月18日付判決と平成21年1月22日判決

平成20年1月18日付最高裁判決の事案

 90年9月3日、50万円の借入限度額付、リボルビング払い方式の基本契約が締結され、借入返済が繰り返された。債務者は95年7月19日完済した後しばらく新たな借り入れをしていなかったが、約3年後の98年6月8日,再度基本契約書を取り交わし、取引を再開した。
 この件では次のような事情があった。

  1. 完済して以降、基本契約1を終了させる手続が執られた事実はない
  2. 2回目の契約時に,業者は、債務者の勤務先に電話して在籍の確認をしたほか、勤務形態、給与の支給形態、住居の種類、家族構成を聴取した。
  3. 金利が29.2%から29.95%に、遅延損害金が36.5%から39.5%に上がった。
  4. 毎月の返済期日が変わった。
原審の名古屋高裁判決

 原審の名古屋高裁判決は、次のように述べて、第一取引と第二取引を連続計算している。
 1回目の契約と2回目の契約とで,基本契約1の完済時から基本契約2の締結時まで取引中断期間が約3年間と長期間に渡ったものの,基本契約2締結の際の審査手続も基本契約1が従前どおり継続されることの確認手続にすぎなかったとみることができることを考慮すると,基本契約1と基本契約2とで利率と遅延損害金の率が若干異なっており,毎月の弁済期日が異なっているとしても,基本契約1及び基本契約2は,借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当。

平成20年1月18日付最高裁第2小法廷判決

 平成20年1月18日付最高裁第2小法廷判決は、第1の基本契約から生ずる債務が完済され、その後新たに第2の基本契約が締結され,貸付が再開された場合,「第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意」が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されない。とし、特段の事由があるかないかを、下記事由を総合的に検討するとしている。

  1. 第1の基本契約における取引期間、その完済後から次の貸付けまでの期間
  2. 第1の基本契約の契約書の返還の有無
  3. カードが発行されている場合にはその失効手続の有無
  4. 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯
  5. 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等

 こう述べた上で、最高裁判決は次のように判示している。
 原審は,基本契約1と基本契約2は,単に借増しと弁済が繰り返される一連の貸借取引を定めたものであり,実質上一体として1個のリボルビング方式の金銭消費貸借契約を成すと解するのが相当であることを根拠として,基本契約1に基づく取引により生じた過払金が基本契約2に基づく取引に係る債務に当然に充当されるとする。しかし,本件においては,基本契約1に基づく最終の弁済から約3年間が経過した後に改めて基本契約2が締結されたこと,基本契約1と基本契約2は利息,遅延損害金の利率を異にすることなど前記の事実関係を前提とすれば,原審の認定した事情のみからは,上記特段の事情が存在すると解することはできない。

平成20年1月18日付最高裁判決をどう見るべきか

 二回目取引のときに、契約書を書きかえると、そもそも新たな基本契約が成立するのであろうか。サラ金は一度返済しても、解約手続をとらずカードを持ち続けていると、営業電話をかけてくることが多い。特に月末になると「ノルマが厳しいから借りてくれないか」と言ってくることもある。中には金利を下げるからとか、枠を増やすからとか言ってくる場合がある。そうした場合に客が店舗に行き、契約を書き直す場合、新たな基本契約というべきだろうか。基本契約はそのまま存続し、限度額、利率変更があっただけと解すべきではないか。そうすると一個の基本契約のもと、1回目の取引で生じた過払い金を、2回目の取引で生じた貸付金にも充当できるのではないか。もし原審が基本契約が終了していなかったと判示していれば、上告審で覆されることもなかったのではないか。
 上記最高裁判決を、文面通り受け取ると、契約書が返却されていないか、カードが失効していない場合にも、基本契約が終了していることがありうることになる。少なくともカードが失効していなければ、そのままカードを使って借りることが可能だったはずであり、基本契約は継続しているというべきではないか。その後利率を下げ、限度額をあげてもらっても、それはあらたな基本契約とは言えないのではなかろうか。上記最高裁判決を文言通りに解してしまうと、基本契約の終了を簡単に認め過ぎてしまうのではないかという危惧がある。
 平成20年1月18日付判決は、3年のブランクがあったこと、利息、損害金の利率が異なることから、特段の事由なしとして、個別計算を是とした。このことから、その後の下級審判決では、年数が重視され、1年以上ブランクがあれば個別計算という基準を設けた裁判所もあった。平成21年1月22日判決は1226日間、232日間、758日間、156日間というブランクがあるにも関わらず、その間1個の基本契約によって貸付がなされていたとして、その間の時効を認めなかった。この判決の事案がどういうものか、詳しくは分からないが、少なくともブランクが3年あろうと、解約手続きがあったか、カードは失効したか、が論じられなければならないだろう。再度借入時に利率が下がったか、限度額が上がっていれば、業者側からの営業電話の存在が推測される。かかる電話があったということは、業者には取引を終了させる意思がもともとなかったからだという、間接証拠になってくるだろうか。