さらばブッシュ さらばネオコン

さらばブッシュ 来たかオバマ

 20日正午、オバマが200万人の観衆の前で、大統領就任の宣誓を行い、ついにオバマ大統領が誕生した。ついにブッシュがホワイトハウスを去ったのだ。ブッシュからオバマヘ、これは新自由主義から福祉国家に、ネオコンからリベラルに、マネタリストからケインジアンに政治が移ったことを意味する。

クルーグマンの「格差は作られた」

 クルーグマンアメリカの経済学者だが、彼の新著「格差は作られた―保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略」は、経済学書というより、共和党がよって立つ保守派ムーブメントに対する強烈な批判である。彼はことあるごとにブッシュの悪口を言いまくっていた。こういったクルーグマンが2008年、ノーベル経済学賞を受賞した。このことは、ブッシュが欧州からNOを突きつけられたことを意味した。ブッシュも、さぞ不愉快な思いをしたことだろう。
 クルーグマンが批判していたのは、ブッシュというより、レーガン政権以降アメリカに巣食ったネオコンだ(new conservative=新保守主義者)。そして米国を格差社会にしたのは、まさにこのネオコンたちだったのである。

金ぴか時代

 ニューディール以前は、大富豪が闊歩した時代。マーク・トウェインの同名小説に因み、金ぴか時代と言われる。金ぴか時代は、南北戦争の終了とともに始まった。この時期アメリカ資本主義が急成長し、19世紀末には工業生産高が世界一となった。大富豪に富が集中し、他方労働者は悲惨な生活を送っていた。この格差社会=自由市場主義全盛の時代はフーバー政権が終わるまで続き、大恐慌とともに終了する。

大圧縮時代

 格差社会をなくし、中流階級を生みだしたのは1933年に第32代大統領となったフランクリン・ルーズベルトだ。ルーズベルトニューディール政策を行ったが、これは有効需要の創出を旨とするケインズ流の福祉国家的政策であった。ルーズベルト時代には、法人税相続税等の税率が上昇し、所得の再分配が推し進められた。この所得格差の解消を指して「大圧縮時代」と呼ばれる。このため、ルーズベルトは「はじめて本格的な貧困層対策に取り組んだ」大統領として評価されている。それまで南部の地域政党だった民主党は、「リベラル」という新たな旗印を獲得し、北部の工場労働者にも支持されるようになった。ルーズベルトは、ニューディール政策を通じて民主党に「貧困層の救済」という新たな政策的主柱を与えた。この結果労働者、南部の白人、イタリア系・ユダヤ系等の白人マイノリティーズ、カトリック、黒人等のさまざまな集団が、ニューディール政策の下にまとまり、彼らは「ニューディール連合」と呼ばれ、民主党の強固な地盤となったのである。

レーガン時代

 その後、アイゼンハワーニクソンという共和党出身大統領も生まれたが、アイザンハワーは穏健派だった。ニクソン福祉国家的な施策に批判的だったが、国民が福祉国家的施策を支持していたため、心ならずもその経済政策は穏健なものになった。これは「ニューディール連合」の成果だった。
 民主党リンドン・ジョンソン政権時代に「ニューディール連合」の一角が崩れた。まず南部の白人層からの支持が失われた。ジョンソンが公民権法を成立させたからである。彼らは64年の大統領選挙で共和党右派のゴールドウォーターを支持。以来南部は民主党の地盤から共和党の地盤に移っていく。もっともゴールウォーターは落選。ネオコンの夢は破れた。
 これを大きく変えたのが、レーガン政権だった。彼は黒人が俺たちの払っている税金を利用し、福祉のタダ取り(フリーライド)をしている、という白人の反発を巧みに利用した。彼は福祉の行きすぎを批判し、小さな政府を主張し、黒人を批判することは決してなかった。しかし、福祉で利益を受けるのは貧困層にある黒人が圧倒的に多かった。だからレーガンが、「小さい政府を!」とさえ言えば、「黒人どもが私たち白人が労働によって得た財産を福祉という形でかすめ取っている」とわざわざ言わなくても、白人有権者はその内容を正しく理解したのである。レーガンは白人の黒人に対する差別意識を刺激するという戦略を通じて、レーガノミクスと呼ばれるレーガンの経済政策=大型減税と規制緩和により消費の活性化を図る政策を実現した。大幅減税と軍事予算拡大を同時に進めれば、当然福祉にしわ寄せが行くし、規制は弱者保護のためにあるから規制緩和は社会的弱者の保護を後退させる。そしてこれは保守派ムーブメントという、富裕層による政治支配の流れに基づくものでもあったのだ。

保守派ムーブメント

 保守派ムーブメントは、非常に裕福な一握りの個人が資金を出し、エリート層に都合が悪い政策を変えてきた。しかし、彼らの主張は大衆受けしない。しかし、白人の黒人に対する差別感情を利用することで、レーガンは保守派ムーブメントの政策を大衆に浸透させたのである。以来保守派ムーブメント=ネオコン共和党と一身一体となって格差社会政策を進めていくのである。金持ちがもっと金持ちになれば、貧乏人もそのおこぼれで多少豊かになる、というのが彼らの自己正当化の理屈であった。
 彼ら保守派ムーブメント保守派シンクタンクを設立。保守派ムーブメントに加われば、収入が保証される。そういった仕組を作った。甘い蜜の匂いに寄せられた、学者、ジャーナリストが、それぞれの場面で保守派ムーブメントの伝道師となった。
 彼らの意にかなったのが、ミルトン・フリードマンを代表とするシカゴ学派マネタリストである。彼らは、ケインジアンケインズ主義者)を徹底的に批判した。ケインジアン景気対策として有効需要創出を主張する。これは乗数効果という考え方に基いた政策理論だ。投資が増える→所得が増える→消費が増える→増えた消費を賄うため投資が増える→所得が増えるため、景気対策のためには投資を増やせばいいことになる。彼らの考えによれば、不景気になり民間が投資をしないのであれば、政府が投資して、消費を牽引すれば良いということになる。ニューディール政策はまさにケインジアンの主張する政策だった。
 マネタリスト通貨供給量=マネーサプライが増えれば消費は増す、乗数効果はインチキで、有効需要創出より、減税を行って通貨供給量を増やしたほうが景気は回復すると主張した。
 まさに、これは、保守派ムーブメントの意に合致した経済学だった。シカゴ学派を応援した。保守派ムーブメントはマスコミも支配した。レーガン政権はシカゴ学派の経済学者を採用し、減税策を推し進めていったのである。そして共和党政治家や支持者からすると、ケインジアン社会主義者であり、唾棄すべき存在として扱った。
 それに対して、マイノリティーはなぜ対抗できなかったのか。マイノリティーは政治に対して希望を持っておらず選挙権があっても投票権を行使しない。またマイノリティーは移民が多く彼らは選挙権自体がなかった。

レーガン時代以降

 レーガン以降、ブッシュパパ、クリントン、ブッシュJrと政権は、共和党民主党共和党と変わったが、規制は悪者とされ、自由市場経済は放任され、格差は拡大した。
 マイノリティーズの地位から中産階級化したかつての民主党支持者も、増税によって高福祉を維持するよりも、福祉予算の削減を求めるようになった。
 しかし格差の拡大は、共和党の支持層になった中産階級も飲み呑み込んだ。やがてブッシュに対する支持が落ちてくると、ブッシュはイラク大量破壊兵器保有疑惑をでっち上げ、戦争を起こすことで、ゴアをくだし、大統領の職にとどまった。しかし、ブッシュ政権下では金融バブル、不動産バブルが進んだ。そして、07年のサブプライムショック、商品先物取引の過熱による食糧・工業原料価格の騰貴、08年のベアスターンズ破綻、リーマンショックから来た金融危機により、自由市場経済万能主義の限界を人々に気付かせた。

なぜオバマは勝ったのか

 オバマがマケインに勝った理由は何か。理由はいくつもあるが、クルーグマンの前著書は、民主党が次期大統領選挙に勝つだろうとして、その理由に「人種差別意識の後退」を一番に挙げている。その点でアフリカ系のオバマが大統領になったのは象徴的である。

オバマケインジアンに近い

 オバマは自分の景気回復策を、グリーンディール政策と呼んでいるように、自らをルーズベルトに重ね合わせている。財政政策をどんどんやり、雇用を創出すると言っているから、米国経済は心自由主義から福祉国家に移っていくことになる。米国民はやっとブッシュ、ネオコンとさよならできることになった。