300人対3人 パレスチナ人死亡者とイスラエル死亡者

ガザ爆撃 イスラエルが停止合意前から周到な準備

 イスラエルのガザ爆撃は連日続いており、死者は既に300人に達している。ハマスが実権を握る警察学校の卒業式が行われた12月27日に、まさにその会場が爆撃されるなど、イスラエルが事前に周到に準備していたことがうかがわれる(東京新聞08年12月29日)。※ちなみにイスラエル側の死者は3名とのこと
 イスラエルが27日に始めたパレスチナ自治区ガザの大規模空爆は半年以上前から周到に準備され、ガザを支配する強硬派ハマスや自国民をも欺く電撃作戦だったことがイスラエルのハーレツ紙の報道で分かった。
 同紙によると、イスラエルのバラク防相が軍に作戦準備を指示したのは、08年6月の6ヶ月間の停戦合意前だった。国内治安機関シャバクの協力も得て、ハマスの治安施設や武器庫、訓練キャンプ、幹部宅の位置などについて詳細な情報収集が行われた。計画は今月24日の治安閣議で最終的に承認されたが、メディアを通じて「国際的なイスラム過激派」が主議題だったと虚偽の発表をした。(エルサレム 共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/081229/mds0812291802010-n1.htm

停戦合意後も続いた、イスラエルによる兵糧攻め

 今年08年6月、イスラエル政府とガザを実効支配するハマスとの間で、エジプトの仲介で停戦協定が結ばれた。当時ガザはイスラエルに境界線を封鎖され、国連の援助物資も止められ、まさに兵糧攻めをされていた。市民に食料を供給するためにも、停戦せざるをえない状態にあった。6か月以降も停戦を継続する条件として、ハマスはガザとエジプト境界のラファ検問所の通行の再開を、イスラエルハマスなどが2年前から拘束しているイスラエル軍兵士の解放を要求していた。停戦発効後、過激派イスラム聖戦など一部勢力は、ハマスを弱腰だと非難し、イスラエル攻撃を続けたが、ハマスは犯人を逮捕する等、停戦順守を図った。しかし、イスラエルは、検問所の通行をごくわずかな日に許すだけ、それも食糧等の基本生活物資しか持ち込みを許可しない等、全面開放をしなかった。停戦条件の履行度合いを見ながら、徐々に封鎖を緩和していくというのがイスラエルの姿勢であったが、それにしても緩和は余りに緩慢だった。このため、ハマスの下部組織等が暴発し、散発的にテロを起こしていた。ハマスも暴発した者を逮捕し、停戦に協力したが、イスラエルハマスの停戦義務違反と非難した。そして、そのことでイスラエルが武力で報復し、検問所の封鎖がまた厳しくなるという、繰り返しだったのである。このため、パレスチナ難民側の各派の間で「停戦は無意味」と不満が拡大していた。イスラエル軍が11月4日夜から5日にかけ、ガザ中部でハマスの活動家6人を殺害。以来、事態が悪化していく。ハマスはその報復として5日、ガザ地区からイスラエルに45発のロケット弾と数10発の迫撃砲を撃ち込んだ。その後もハマスイスラエルの間で武力の応酬となった。ハマスのロケット弾は、ボーリングのピンほどの大きさで、イスラエルの被害は少なく、イスラエルの反撃が確実正確なため、犠牲者数は常にパレスチナ側がイスラエル側を上回っていた。結局、ハマスは停戦延長を拒否。19日に停戦は失効した。
 イスラエルは。こうしてハマスの口から停戦延長を言わせ、その後のガサ爆撃を進める布石を打ったのだ。徳川家康が、豊臣方を挑発し、大阪冬の陣、夏の陣を起こさせたのと、同じ戦略だったのではなかろうか。

実際にはやられっぱなしのパレスチナ

 報道を見ると、6月の停戦以降、パレスチナ側の攻撃がやまず、イスラエルが堪忍袋の緒が切れて今回の事件が起きたようにみえる。また今回の件に限らず、たえずハマスの攻撃でイスラエル人が死んでいるようにも見える。しかし、国際連帯運動(ISM)、パレスチナ・メディア・ウォッチ の活動家パトリック・オコナーによると、ハマスは07年3月政権に参加した後、おおむね停戦を守っていると指摘。00年から06年11月3日までの、パレスチナ側とイスラエル側の犠牲者数の比率は39:10であるのに対し、06年は258:10で、3月のハマースの政権参加後に限ると、762:10にまで差が広がったという(Israel's Large-Scale Killing of Palestinians Passes Unreported)。
Wikipediaより)

終結のめどがつかず

 いくらイスラエルの諜報活動が優秀でも、爆撃開始後時間がたてばたつほど、ハマス幹部への攻撃は功を奏さなくなってくる。最初はハマスも、イスラエルからの爆撃はないと考えて、いつもいる場所から逃れなかったとしても、今後は場所を変えて潜伏する。とすると今後さらなる戦果を上げるとすれば地上からの進攻しか残されていない。そうすれば泥沼に陥る可能性もあるだろう。
 イスラエルが地上戦に移らなかったとしても、ハマスも黙ってはいられない。ここで報復しないと、難民からの世論を敵に回すことになる。

パレスチナ内部の問題

 パレスチナ自治政府内では、アラファトが率いるファタハアラファトの死後はアッバース)が与党、ハマスが野党という関係にあった。しかし、ハマスは、貧困層に教育や医療を供給する等して次第に民衆の人気を集め、ついに06年1月のパレスチナ評議会選挙(日本の国会に相当)で過半数議席を占め、3月29日、ハマスのイスマイル・ハニーヤが首相となった。
 しかしアッバース自治政府議長が率いる穏健派ファタハは治安権限の移譲を拒否した。ハマスは、元々自派勢力が強いガザ地区で武力を増強、ファタハ系治安部隊とたびたび衝突。07年6月にガザ全域を制圧し、パレスチナ自治区はファハタが統治するヨルダン川西岸とハマスが統治するガザに分裂した。
ウィキペディア
 今回のガザ爆撃について、ファタハを率いるアッバースは、イスラエルを非難するより、ハマスを非難している。アッバースのこうした言動は、ヨルダン川西岸地域の住民の一部からも批判され、イスラエルの手先呼ばわりされている(東京新聞08年12月29日朝刊)。仮にアッバース議長、さらにはファタハが国民の支持を失いヨルダン川西岸地域もハマスに支配されれば、どうなるか。それを喜ぶのはイスラエルだろう。ハマスはテロリスト集団というレッテルが貼られているため、そうなれば、イスラエルは欧米の世論は自分の味方とばかり、ヨルダン川西岸も支配下におこうとするのではないか。

イスラエルが検問により行っている兵糧攻め

 イスラエルが行っているのは武力行使だけではない。パレスチナ自治区に検問所を置き、外部からの物資のチェックをしているばかりでなく、難民いじめを繰り返している。ガザは、イスラエルが特に敵視するハマスが支配しているため、国連の援助物資さえ十分に入ってこない。
停戦前の08年4月24日のニュース
 国連パレスチナ難民救済事業機関UNRWA)は24日、ガザ地区(Gaza Strip)に燃料を供給するためのイスラエルの燃料貯蔵施設の閉鎖が続く中、燃料を使い切ってしまったためガザでの食糧配給を停止した。UNRWAガザ本部の広報担当者は、「ガザ地区に貯蔵していた燃料を使い切ってしまったため、同地区のパレスチナ難民65万人に対する食糧配給をすべて停止した」と発表した。また、AFPに対し、学生や当局者の輸送を停止したことも明らかにし、「イスラエルからは1リットルの燃料も来ない」と訴えた(2008年04月25日AFP)。
http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2382735/2863129
停戦中の08年11月13日のニュース
 UNRWAは13日、パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)への緊急物資搬入をイスラエル政府が許可しなかったとして、同地区の人口の半数に当たる75万人への食糧支援を一時中止すると発表した。イスラエル政府は当初、13日に今月5日から封鎖されているガザ地区へ支援物資を積載したトラック30台の通行を許可すると述べていたが、後にガザ地区内の武装勢力迫撃砲により不可能になったとした。UNRWAの広報Chris Gunness氏は、「今日は検問所は封鎖されていると告げられた。今日中に食糧配給を一時中止する。倉庫は事実上空だ」と述べた。
 一方、赤十字国際委員会は、Kerem Shalomからガザ入りしようとしていたICRCのトラック1台が通行を拒否されたと発表した。イスラエルは通常、ガザ地区への人道支援物資の輸送を一部許可しているが、およそ1週間にわたりそれも禁止している。そのため、人道支援機関関係者は、イスラエルを強く非難している。
 また、イスラエルは同日、ガザ地区で唯一の発電所向けのEUが支援する燃料支給も禁止した。パレスチナのエネルギー当局は、ディーゼル燃料不足のため13日中にも発電所を閉鎖すると警告している。(08年11月14日 AFP)

 停戦終了の現在は、これよりさらにひどい状況になっていることは疑いない。

医療現場でも同様の被害が

 土井敏邦氏のブログを紹介する。『この文章は、2008年3月15日に開催された「JVJA・パレスチナ緊急報告:なぜガザ住民は封鎖・大量殺害されるのか」で上映したドキュメンタリー映像「ガザはどうなっているのか」の内容を文章化したものです』と始まる文章中、「医療現場への影響」とある部分の引用である。
 ガザ地区最大のシェファ公立病院の職員がガスボンベの保存倉庫へ私を案内した。中に保存されている18本の窒素ガス・シリンダーを示しながら、職員は「手術用の麻酔ガスに使われるものですが、これだけしかありません。これらは3つの病院に分配します。あと2日分しかありません」という。「イスラエルが十分なガス・シリンダーの搬入を許さないからです。10本の空のシリンダーをガスを補填するためにイスラエルへ送ったのですが、返ってきません」。
 麻酔ガスが切れてしまえば、一切の手術はできなくなる。
 この病院は人工透析を必要とする患者240人を抱えている。その治療のための人工透析器械は35台、しかし11台の器械は使用不能となっている。封鎖によって部品が手に入らず、修理ができないからだ。現在、機能している器械のうち3台は、使用限度の12000時間を3000時間も超えて使用し続けている。医薬品不足も深刻だ。シェファ病院の化学療法の病棟では、輸血に必要な特殊なフィルターが不足して十分な輸血を受けられない患者、また化学療法によって減少した白血球を増やす薬が不足しているため、感染の危険にさらされている患者もいる。とりわけ抗ガン剤の不足がガン患者の治療に重大な支障を及ぼしている。
 ガン治療など高度な医療技術や施設を必要とするガザ地区の患者は、これまで隣国のエジプトやイスラエルで治療を受けてきた。封鎖は彼ら重病患者たちの治療の道を閉ざしている。ハマス政府保健省の統計によれば、11月中旬現在で外部での治療が必要な患者は600人から700人、そのうちガン患者は約450人だった。しかし封鎖によって外での治療が受けられず、死亡した患者は5ヵ月間で37人に達した。
 シェファ病院のガン病棟に21歳の青年が入院していた。ナエル・エルクルディは右睾丸にガンが発見され、2006年3月にこの病院で手術を受けた。しかし2ヵ月後、病状は悪化し、当時まだ渡航が可能だったエジプトの病院で放射線治療を受けた。その後、病状はまた悪化したため、今度は化学療法の治療に切り替えた。その後、ガザへ戻り、シェファ病院で4回の化学療法の治療を受けた。それでも回復に向かわず、家族はイスラエルでの治療を決断した。6月にイスラエル側の病院に申請し、10月10日にやっと病院の受け入れが決まった。当日、ナエルは車椅子でイスラエルとの境界、エレズ検問所へ向かった。そこでナエルはまだ暑い日差しの下で午前8時から午後1時までじっと待たされた。しかし結局、検問所の通過は許可されなかった。「治安」の理由だという説明だった。
 病室に付き添っている母親はその後のナエルの症状をこう語った。
 「息子は外で5時間も待たされてとても疲れ果てていました。家に戻ってから、嘔吐を繰り返し、症状は急激に悪化していきました。息子はもう食べることができず、水を飲むと吐いてしまう。食べてと哀願しても、食べられないと答えるばかりです。もう口の中が感染してしまっています」
 母親が納得いかないのは、息子のような重病患者になぜ『治安』の問題があるのかということだ。ナエルだけではない。封鎖強化の後、イスラエルは『治安』の名目で多くの患者を拒絶していると母親は言う。
 苦しそうな表情で目を閉じ、母親の言葉を聞いていたナエルが、突然、ベッドの上で声を振り絞るようにして言った。
 「ここガザでは私の治療はできないんです。イスラエルアラブ諸国でしか治療できないんです・・・」
 それだけ言うと、ナエルはまた苦しそうに眉間をしわを寄せて目を閉じた。
 10月10日に検問所を追い返された後も、ナエルの家族は3度、通過許可を申請したが、全てイスラエル側に拒絶された。ナエルのガンはすでに他に転移し、シェファ病院では治療の施しがなかった。
 11月17日、ナエルと母親に話を聞いてから、6日後、ナエルは息を引き取った。
http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20080315-gaza.html

検問所はヨルダン川西岸地区にも存在

 西岸地区の至る所にも検問所が設置されている。町と町のあいだに、あるいは町の出入り口には常設の検問所があり、また突然、ジープや装甲車を止めて車線を塞ぎ臨時の検問所が出現するが、だれも予測がつかない。そして、あるときはチェックを経て通れるけれども、あるときは理由もなく追い返されたり、長時間待たされる。
 通院だけでなく、通勤・通学などすべての移動が制限され、そして、商品の仕入れ・出荷もままならない。経済活動も著しく妨害され、そのことでもたらされる失業・貧困状態は極限状態にある。
 http://palestine-heiwa.org/news/200604120227.htm
 自治政府の保健省の発表の数字だが、2000年からの第二次インティファーダ以降、搬送される患者が通行を妨害され長時間にわたって検問所で待たされるなどして、129人もの患者が死亡している。また、67人もの妊婦が検問所で出産を余儀なくされ、もちろん設備不足などのために、うち39人の新生児が直後に亡くなっている。文字どおり「殺された」と言っていいだろう。
 また、医療関係者への暴行も頻繁で、447人が負傷し、36人が殺害されている。他に、救急車への攻撃が383件報告され、うち破壊され使用不能になった救急車が38台に及ぶ。医療機関への襲撃も375件が確認されている。
http://www.counterpunch.org/nettinin04112006.html

アメリカはハマスを非難

 アメリカはイスラエルの利益の代弁者のため、当然悪者はハマスということになる。
 ライス米国務長官は27日、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への空爆について、「ガザにおける停戦違反と暴力の再燃は、(ガザ地区を実効支配しているイスラム原理主義組織)ハマスに責任がある」とし、ハマスを強く非難する声明を出した。そのうえで、速やかな停戦の復活を求めた。
 AP通信によると、国家安全保障会議(NSC)のジョンドロー報道官も、ハマスに対し、イスラエルへのロケット弾攻撃を中止するよう要求し、イスラエルの攻撃についてはハマスのようなテロリストから自国民を守っている」として理解を示した。ただ、パレスチナの一般市民への被害を防ぐよう求めた。
 (2008.12.28 10:26 msn)
 http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/081228/mds0812281027003-n1.htm

アメリカを除く国際的非難に対しイスラエル政府は

 12月28日、イスラエルのリブニ外相は、双方の戦闘の停止を求めた国連安保理の緊急声明を退け、次のように声明した。
「我々は双方に対する暴力停止は受け入れられない。双方は存在しない。ガザをテロリストが支配しているのだ」
 イスラエルの地元紙は、実に81%のイスラエル国民が今回の作戦を支持しているという世論調査の結果を伝えている。
http://news.tbs.co.jp/20081229/newseye/tbs_newseye4028317.html
 イスラエルは09年2月に選挙がある。リブニ率いる最大与党カディマ(現議席29)の最大のライバルは、ネタニヤフ率いる右派リクード(現議席26)だ。イランの核開発疑惑を機に、世論は右傾化しており、リクードの支持率を伸ばしている。リブニとしては選挙に勝つためには、強硬な態度を崩すことはできない。

追加 国連人権理調査団報告 ガザ進行を戦争犯罪と認定

 国連人権理事会の調査団(団長は南アフリカの裁判官)が、イスラエル軍によるガザ侵攻について「戦争犯罪に相当する行為」と厳しく批判する内容の報告書をまとめ、9月29日の国連人権理事会の会合で報告した。
 報告書では、イスラエル軍が「民間人の犠牲を避けるために国際法で定められた安全措置を取らなかった」と認定。住民や国連職員に対して事前の警告を行わないまま民間区域で病院などを意図的に狙って化学兵器白リン弾を撃ったほか(撒き尽くされた白リンが呼吸を通じ肺の中に入り体の中から人間を焼き尽くす無差別殺人兵器)、パレスチナの民間人を「人間の盾」として使い、ガザの食糧供給源を意図的に攻撃したとしている。
 パレスチナ側についても、民兵による戦争犯罪があったと指摘したが、報告書の大部分はイスラエル批判に割いている。
 報告書は国連安全保障理事会からイスラエル政府に対し、3カ月以内に報告書の内容について適切な調査を要求するよう勧告。さらに、イスラエル戦争犯罪について国際刑事裁判所で検討することも求めた。
 また、パレスチナ側に対しても、民兵による戦争犯罪についての調査、人道法の遵守、イスラエル兵の釈放を求めている。

米国連人権理でイスラエル批判の特別決議

 09年10月16日国連人権理事会特別会合でイスラエル批判決議を賛成多数で可決した。
 同決議は、ガザ進行を戦争犯罪とした報告書を支持したほか、パレスチナの東エルサレムへの立ち入り制限を強く非難する文言を盛り込んだ。
 報告書を指示する決議案は、それ以前にも議論されたが、米国が中心になって反対で、採決が延期され、今回の特別会合で可決となった。