泰葉の呉服店社長らへの暴言 果たして損害賠償の対象となるのだろうか

泰葉 名誉棄損(?)で訴えられる

泰葉が着物を買った、贈られたと争ってかねてから訴訟中の京都の呉服店社長、その息子ら3人が、泰葉を名誉棄損で訴えたという。
 双方が世話になった有名脚本家の夫が余命わずかなことを泰葉が伝えようと10月7、8日の2日にわたって3人に電話したが、一向に電話に出ないことにブチ切れ、留守番電話で「くそ野郎だな」「人間のくずだ、お前ら」などと何度も罵倒したという。
 同月9日、3人は泰葉に警告文を送付。同月16日、泰葉は警告が来たことを自分のブログに掲載。その後泰葉は弁護士を通じて3人に謝罪文を送ったが、12月8日、3人は泰葉を名誉棄損で提訴したという。
http://news.goo.ne.jp/article/sanspo/entertainment/120081217004.html?C=S

民事か刑事か

 訴訟には民事と刑事とがある。民事は個人が個人に対し、損害賠償や貸金の返済を求めたり、物の引き渡しを求めたり、といった訴訟である。刑事とは、犯罪の容疑者を有罪か無罪かを裁き、有罪であれば刑務所に入れたり、最悪死刑を宣告する訴訟である。
 刑法上、確かに名誉棄損罪という犯罪はあるが、上の3人が個人の立場で起こした訴訟だから民事訴訟だろう。おそらく、名誉棄損を理由に損害賠償を求められたものと考えられる。

留守録への暴言 名誉棄損ではなく侮辱

ただ、留守電に暴言を残しただけでは、名誉棄損にはならない。名誉棄損とは、人の社会的評価を低下させるような事実を、公衆の面前で告げたり、多数の人に言いふらしたりすることをいう。この場合「くそ野郎だな」という表現は、侮辱として、相手の感情を傷つけるものではあるが、仮にその暴言が社会に公表されたとしても、それを言われた人間の社会的評価が落ちることはない。しかも本人に言っている。名誉棄損は、それをすることによって、他人からの社会的評価が落ちるからこそ、損害賠償の対象となっている。本人に言っただけでは名誉棄損にはあたらない。
むしろ名誉棄損というより、侮辱だろう。刑法上の侮辱罪が成立するには、公衆の面前で行われることが必要だが、民事で損害賠償を請求するときは公衆の面前で行われることを要しない。しかし侮辱が常に損害賠償の対象になる訳ではない。

侮辱が損害賠償の対象となる場合

 社会生活の中では、個人間で罵声を浴びせることは時としてある。会社内でいえば、上司が部下に対してであったり、同僚間であったりもする。家族間、友人間でもそれはある。しかし、そういったすべての場合で、損害賠償訴訟を起こされたらたまったものではないだろう。
 民法上侮辱行為が損害賠償の対象となるのは、不法行為が成立する場合である。不法行為とは専門用語で、不法行為が成立するには、故意過失により、違法な行為を行い、行為の相手方に損害が発生し、違法行為と損害の間に因果関係が存在することが必要である。ここでは違法性、損害が問題になる。
 しかし社会生活を営んでいれば、感情の対立もあり、罵り合いもある。自分が他人を罵倒することもあれば、他人が自分を罵倒することもある。日常生活の中では、自分が加害者になったり、被害者になったりする。一度も声を荒げたことはないという聖人君主も中にはいようが、多くの人間は凡人である。凡人同士、口げんかもし、怒りもし、怒鳴りもする。それは社会の中に個人が置かれれば、コップの中に複数の氷が入っているのと同じで、コップを振れば氷が互いにぶつかり合って、音も立つ。それは不可避と言ってもよい。専門用語で言うと、ある程度の言い合い、罵声は「受忍限度」の範囲内に納まるのではないか。受忍限度の範囲内の行為となれば違法性はない。
 また損害の点からも慰謝料ありと言えるだろうか。慰謝料とは精神的損害を金銭で慰謝=慰めようというものである。金は万物の尺度だから、精神的苦痛を金で埋め合わせようというのが慰謝料である。金銭で慰謝すべきほどのものがあるだろうか。
 さらに条理からいっても問題がある。世の中の対立がすべて司法の場で争われるというのは、社会をきわめてぎくしゃくさせる。社会で行動する中で、日常生活を委縮させかねない。法律は最低限度の道徳と言われる。法は道徳に反する行為全てを取り上げるわけではない。その中で特に悪質なものを取り上げるのである。
 いじめも不法行為として損害賠償の対象となる。暴力があれば、たった一回のことでも、不法行為となる。しかし口での言い合い、集団無視等もいじめになりうるが、そういった場合は反復、継続性が必要になる。パワハラも同様だ。一回怒鳴られたらからといって、それでは不法行為にならない。もっとも、一回のパワハラでも、長時間にわたって執拗に行われ、人格を著しく損ねるような言動が行われれば不法行為となるかもしれないが、余程のことが必要だろう。
 本件では、泰葉がどの程度の暴言を、何回ほど、時間にしてどのくらい吐いたのかは分からない。しかし留守電である。気に触れば聞くことなく消去してもいい。だから不法行為になるかといえば、私は疑問だ。

ブログの問題点

 ブログに、その3人の名誉を棄損する事実が書かれていれば、それは名誉棄損の対象となりうる。そのブログも今は削除されてみることができないので何とも言えないが。