自分の子を海外に連れ出した場合に 誘拐罪が成立することも

母親が養護施設入所の子を誘拐し、海外に連れ去ったことで国際指名手配

長崎県大村市で、同市内の養護施設に入所措置となっていた小学3年の女児が、日本人の母親によってオランダに連れ去られた。母親は実父(80)ら3人とともに、08年10月24日午後、大村市内の路上で女児を車に押し込め、連れ去った。女児は母親から虐待を受け、施設に入所していた。母の実父ら3人は翌日に逮捕されたが、女児と母親は既に福岡空港から出国後、オランダに入国していた跡だったという。母親は日本人だが、過去にオランダに住んでいたことがあるらしい。長崎県警は国外移送目的略取容疑で母親を国際手配し、オランダ当局に身柄確保を要請している。
(msn産経ニュース2008.12.16 12:33)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081216/crm0812161324012-n1.htm#

母親がなんで誘拐罪に問われたのか

 父親のことが触れられていないので、おそらく母子家庭なのだろう。児童虐待があったので、民法834条によって、母親が家裁の裁判で親権を喪失させられ、女児は養護施設に入れられたに違いない。平日の午後路上で連れ去ったということからすると、小学校からの通学路で女児を待ち構え、連れ去ったものと考えられる。
 母でも親権を喪失した以上、子を連れ去る権利はない。かえって略取罪、いわゆる誘拐罪が成立する。母親はともかく、80歳の実父は誘拐罪に問われるなど考えてもいなかったかもしれない。しかしこの国外移送目的略取罪というのは2年以上の懲役という重罪だ。5年以上の懲役の強盗罪よりは軽いが、10年以下の懲役の詐欺、窃盗罪より重い。おそらく実父は高齢もあり、また娘に頼まれてこともあり、執行猶予にはなるだろうが、80歳の年齢で留置所に入るのは辛かろう。

裁判で親権未確定のうちに子を海外から国内に連れ帰ると誘拐罪になる

日本人妻が米国で夫から度重なるDVにあい、将来離婚するつもりで、子を連れて日本に連れ帰ったとする。この場合大きな問題となる。「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)というものがあって、夫婦(未婚カップルでも)の一方が子の親権、面会権などを確定しないまま、子を国外に連れ出すと誘拐罪になってしまうのである。したがって締約国の間では、受け入れ国は連れ出された子どもを元の居住国に戻す義務がある(子どもが拒んでいる時など例外規定はある)。この条約に日本は加盟していないが、米欧など約80カ国が加盟している。
 実際、ある女性が夫との離婚がととのわないうちに、子を日本に連れ帰った後、しばらくして欧米のある国に入国したところ、誘拐罪で逮捕されてしまったということがある(三浦和義氏のサイパンでの逮捕を思い出しますね)。しかし逆に、離婚がととのわないうちに=子の親権が確定しないうちに、外国人妻(夫)が日本から子を連れ出しても日本は同条約を締結していないため、誘拐罪は成立しないのである。
 こうした条約は弁護士でも知らないことが多い。気をつけてほしい。
この点を議論したブログとして↓
http://blogs.yahoo.co.jp/haleshomahube/folder/1453546.html