空自幹部「全員無事帰国できたのは奇跡的」 非戦闘地のなぜ

空自 イラク撤退開始

イラク人道復興支援特別措置法(イラク特措法)により、イラクに派遣されていた空自がようやく撤退を開始した。ご苦労さまと言いたい。空自機は04年3月以降、期待がミサイルに狙われてていることを示す警報が何度もなったという。空自幹部は「全員が無事帰国できるのは奇跡的だ」と話しているという。
東京新聞08年12月16日)

イラク特措法

イラク特措法の第2条は、同法に基づく自衛隊の活動地域を、現に戦闘行為が行われておらず、活動期間中も戦闘行為が行われることがないと認められる地域に限定している。
サマワの駐屯基地にはロケット砲が何度も打ち込まれ、空自も何度もミサイルにロックオンされた。常識的には「戦闘地域じゃないか」ということになるのだが、政府見解は「非戦闘地域ではない」だった。特措法の条文をよく見ると、巧妙に抜け穴があったのである。

戦闘地域の定義

特措法で、戦闘地域の「戦闘」は「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為」と定義されている。「国際的な武力紛争」というためには、「国または国に準じる者による、組織的、計画的なもの」である必要があるというのが政府見解なのだ。反政府グループは単なるテロリストで、「国に準ずるものではない」というのである。

サドル派は国に準ずる組織かどうか

サドル派は10万人に上るとされる民兵組織「マフディ軍」を持ち、「反米、反占領」を主張して、米軍が壊滅対象と位置付けている。同グループは、自衛隊派遣当時も米軍、イラク治安組織と戦闘を繰り返していた。サマワでも04年5月にも、サドル派グループがイラク警察と戦闘になり、警察関係者1人が死亡している。
08年4月6日にはイラク治安部隊は6日、駐留米軍と合同で首都バグダッド東部のイスラムシーア派強硬指導者ムクタダ・サドル師派の拠点「サドルシティー」を攻撃、同派の民兵マフディ軍」との間で激しい戦闘になった。5月10日に停戦合意ができたが、双方に多数の死傷者が発生している。
内閣法制局が、04年4月に福田康夫官房長官にサドル師支持派を「国に準じる者」との解釈を報告し、福田はこれを握りつぶしたという経緯がある。
東京新聞2004.5.16)
名古屋高裁は、08年4月17日、いわゆる自衛隊イラク派遣差止訴訟で、バグダッドイラク特措法にいう「戦闘地域」に該当し、この兵員輸送は、武力行使を禁じたイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同法同条3項に違反し、かつ憲法9条1項に違反するとの判断を示した。常識的な判断だろう。

本当に戦死者は出ていないのか

現地の自衛隊で戦死者が出ていれば、いくら「戦闘地域でない」と強弁したところで、撤退せざるを得なかっただろう。しかし、本当に戦死者が出ていないのか。戦死した隊員が事故死として処理されていないか。未帰国の隊員の消息を調べてみる必要がありそうだ。自衛隊の隠ぺい体質からしてありえない話ではない。