暗増景気(クラサマスケイキ) ビッグ3支援法案廃案

民主党院内総務「とても悲しいクリスマスになるだろう」

ビッグ3法案は下院を無事通過したが、米時間11日上院で廃案となった。支援法案の内容は当面の運転資金として140億ドルを融資するというもの。GMに100億ドル、クライスラーに40億ドルを配分する予定だった。フォードは、今のところ資金繰りは間に合っているので、当面緊急支援は不要との立場だった。
GM、クライスラーは今年中に支援を得られなければ、会社は破綻すると危機感を訴えていた。
廃案を受けて、民主党のリード院内総務は「明日のウォール街が恐ろしい。とても悲しいクリスマスになるだろう。」と語っていた。実際その後開いたアジア市場は全面安。東証は500円近く暴落した。しかし、廃案後、ブッシュが金融安定化法で、手元に置いてあった金融機関向け支援用の資金をGM、クライスラー支援に使うことになったため、12日のNY証券市場は反発64円59銭高となった。

法案の内容

法案が可決されれば、政府により専門官が選任され、この専門官は、長期的なリストラ計画を監督することになっていた。この専門官の権限は絶大で、自動車メーカーが誠実な姿勢で臨まない場合は融資を取り消し、自動車メーカーと労組がリストラ計画で合意できない場合連邦破産法11条の適用申請の可能性も含めたリストラ計画を勧告する義務を負う。ブッシュはこの専門官を評して「ツアーリ(ロシア語でいう皇帝)」と呼んでいるほどである。
リストラ計画は来年3月末日までに策定しなければならない。3社は30日の延長が認められるが、その後、計画が提出されなければ、救済法に基づき大統領が融資の返済を求めることになる。自動車メーカーが1億ドル以上の取引をする際には専門官が精査できることになっていた。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCNT0158.html

廃案とされた理由

11月の公聴会で、経営陣は自家用ジェット機でワシントン入り。「生活困窮者が炊き出しの場にタキシードで現れたようなものだ」と批判された。3社経営陣は、今回、ハイブリッド車で10時間の時間をかけてワシントン入りした。しかし3社が今回支援を求めた額は、前回の公聴会で求めた250億円を90億ドル上回る340億ドルだった。「今後また増えるのではないか」との疑念を起こさせたことも今回廃案となった理由の一つだろう。
廃案となった最大の理由は全米最強労組と言われる全米自動車労組(UAW)が、賃金の大幅な値下げに応じなかったことだ。共和党議員はこの点にかなり反発したと思う。UAWは今後大統領がオバマに変わった時点で交渉したほうが、いい結論が得られると考えているのではなかろうか。
そもそも、ビッグ3はこれまで小型車や低燃費車の開発を後回しにしてきており、金融危機以前に破綻の危機を迎えていた。3社の経営破たんには、金融危機という外部的要因もあるにはあるが、もともと危険水位にあった経営が、金融危機という突然の大雨でいきなり水面下に陥ったのが現状だ。
ニューズウィークの08年10月3日号に面白い風刺漫画が載っていた。議会で参考人質問が行われ、ある議員が質問する「専門家として政府による自動車産業の救済はまちがいだとあなたは考えるのですね。」。次のコマで、参考人席に座っているのはあの「進化論」を書いたダーウィン。彼は「その通りです。」と答える。この漫画の言わんとするところは、すでに進化から落ちこぼれたビッグ3は滅びるより仕方がないと言っているのだ。
今回廃案に回った議員でも特に共和党議員は、いったん連邦破産法11条を申請させ、新会社を支援するほうが効果的との見方をしているのだろう。ビッグ3がリストラを行うとなると、リストラ費用もかかる。しかし破産させてしまえば、全米最強労組と言われる全米自動車労組とも優位に交渉でき、リストラ費用も安く上がるという発想があるのではと思う。

もしビッグ3が倒産したら

自動車産業のすそ野は広い。関連産業も含めれば就業人口は数百万人ほどもいる、これだけの就業人口の一部でも失業すれば、個人消費にも相当悪影響が出てくる。
ビッグ3のうちの1社でもつぶれれば、日本の自動車産業も打撃を受ける。日本の自動車産業は米国にも工場進出しており、米国内の部品メーカーから自動車部品を多量に購入している。ビッグ3の1社でも倒産すれば、一部の自動車部品メーカーが倒産し、日本の企業もそこから製品を受けられなくなり、生産ラインがストップすることも考えられる。先般の新潟地震で自動車部品工場一つが操業できなくなり、自動者メーカー全社がしばらくの間操業を停止することになった。こうしたことも起こりうるのである。
そして何より株が下がるだろう。

GM、クライスラーは、このまま倒産するのだろうか

この原稿を書き始めてから、さらに事態が推移した。ブッシュ大統領の手元にある7000億ドルの金融安定化法資金が使われることになったのである。GMは今年中に支援が得られないと、破綻するしかないと言っていたため、オバマに引き継ぐためのつなぎ融資といったところだろう。ところで、オバマはビッグ3のどれもつぶすべきではないと言っている。しかし選択肢としては、3社とも残すやり方もあれば、1社だけ残すやり方もある。この場合の1社はフォードになる。フォードも本当はすぐにでも支援が欲しいはずなのに、「うちへの支援は年明けでいい。緊急融資はGM、クライスラーに回してもらって結構。」と言っているが、それを狙ってのことだろう。フォードだけ残れば、政府の救済資金も独り占めできるし、市場も支配できる。結構おいしい話かもしれない。