上げ潮派という名の 小泉改革主義者たち

小泉改革復権の動き

渡辺喜美の脱党アクセル全開で、永田町が騒がしい。マスコミは渡辺喜美をヒーロー視しているが、それでいいのか。渡辺喜美を押し立てているのは、中川秀直小池百合子山本一太といった上げ潮派だが、実質は小泉改革の残党だ。渡辺喜美を祭り上げた結果、小泉改革がもどってきていいのか真剣に考える必要がある。

上げ潮派とは何か

自民党内には「財政均衡派」と「上げ潮派」の2派がある。財政均衡派は、800兆円の財政赤字は異常だから増税が不可欠と主張する。上げ潮派は、負債から資産を引けば純負債は300兆円程度に過ぎず、構造改革を推進し、埋蔵金を利用することが先決で、増税は最後の手段だと主張する。
こうした上げ潮派の中心が中川秀直であり、財政均衡派の中心が与謝野馨である。しかし上げ潮政策は、中川秀直の発案というより、竹中平蔵、そして竹中が送り込んだ指南役高橋洋一の発案なのである。

高橋洋一という人

高橋洋一はかつて財務省の官僚だったが、財務省でくすぶっていたところを、竹中平蔵が拾い上げた。竹中は総務相時代に、高橋洋一総務省大臣官房参事官に任命し、自民党金融改革合同部会の事務局に送り込んだ。竹中は中川秀直政調会長に高橋を紹介、金融政策をレクチャーさせた。これで理論武装をした中川政調会長は、発言力を増し、上げ潮派のリーダーとなった。高橋は竹中の分身と言ってもいい存在だ。
高橋洋一は、その著書で、官僚、財務省を一刀両断。読んでいて実に小気味いい。彼の本を読んだ人は、大概がファンになるだろう。時代の救世主に思う人も多いに違いない。竹中が学者というより既に政治家であるように、彼も政治家と考えたほうがいい。彼の著書「日本は財政危機ではない」も、よく読むと、都合の悪い事実はうまくごまかしている。

中川秀直の上げ潮政策は小泉政治の焼き直し

中川は、「埋蔵金を使えば、増税する必要はない。デフレスパイラルを止め、景気を良くし、経済が成長すれば、財政赤字は自然に減っていく。」と主張する。中川打順論というのがある。財政再建の一番バッターは「デフレ抑制(要はインフレターゲット)」、二番は「政府資産の圧縮(埋蔵金の取り崩しもこの一つ)」、三番は「歳出削減」、四番は「制度改革」、五番は「増税」というものだ。一番から四番バッターが頑張って点をとれば、五番の「増税」は出番がなくなるという。このネタ元も高橋洋一である(日本は財政危機ではない51頁)。
こう聞くと、増税なしで財政再建という、耳触りのいい言葉だけが残ってしまう。しかし、三番、四番の主力打者が歳出削減、制度改革であることに注意する必要がある。このあたり中川は小泉改革をしっかり引き継いでいる。中川は自分のホームページで2200億円の社会保障費用の自然増抑制方針の安易な見直しに反対を唱えている。高齢化社会なのだから社会保障費が増えるのは自然な流れである。それを減らせというのだから、どうしても無理がある。この無理を通すためにできたのが後期高齢者制度である。

デフレ下で緊縮財政をするのは愚行

こういうと、中川は、三番、四番の前に一番のインフレターゲット、二番の埋蔵金があるではないですか、というかもしれない。しかし、このデフレ経済の中でインフレターゲットが実現しなければ、埋蔵金の取り崩しでは足りなくなり、財政削減、制度改革の出番だ。制度改革といっても、要は小さな政府の実現が目的だ。小さな政府を作るということは、別の言葉でいえば緊縮財政である。中川、高橋は、デフレ経済下で金融引き締めをやる愚を非難するが、デフレ経済下で緊縮財政をやる愚についてはどう言い訳をするのであろうか。

インフレターゲット

うまく高橋洋一インフレターゲット論者である。彼は天才だから、実にうまく説明する。「中央銀行の担当する金融政策は、まさに自動温度調節そのものだ。GDPデフレーターで1〜2%の上昇ぐらいであれば、まだ温度を冷やさず放っておく。2%を超えたら金融引き締めをして金利を下げる。GDPデフレーターで1〜2%の上昇というインフレ目標を決めて、デフレならマネーを増やし、インフレならマネーを減らすだけ。平時なら冷暖房と同じように自動運転できる。」(前著173頁)

インフレターゲット論は世界の常識か

高橋洋一は、先進国の中でインフレターゲット政策をとっていないのは、日本とアメリカだけだという。しかし、これには大きな欺瞞が含まれている。つい最近まで、デフレになっているのは日本だけで、他の先進国はインフレ下にある。彼の国でのインフレターゲットは、デフレをインフレに持っていくための政策ではなく、インフレを抑制するための政策なのである。
ゼロ金利に近い日本では、金融政策は公開市場操作で行うしかない。典型的な手法は買いオペ、売りオペである。日銀が市中銀行から国債を買えば、市中のマネーが増える。日銀が国債を売れば、市中のマネーが減る。デフレをインフレに変えるためには、日銀が国債を買って市中のマネーを増やす。そうすれば投資が盛んになり、GDPが拡大するというのがその筋書きである。
疑問なのだが、今の不況下で市中のマネーを増やせば、投資は増えるのだろうか。投資が増えず、デフレが治らなければ、緊縮財政となるのではないか。

高橋洋一は、与謝野の反論をすり替えている

高橋洋一は、与謝野のインフレターゲット批判について次のように語っている。
「与謝野さんも言っているように『ハイパーインフレに誘導するのか。バブル作りをしようとしているのか』との非難である。与謝野さんたち財政タカ派には、われわれの政策はミャンマーのようなひどいインフレに導くと映っているのだろう。…もし本気でそう思っているのならインフレターゲットへの理解が足りない。インフレ目標の設定で許されているのはインフレ率3%までの上昇である。」
ちょっと待ってくれ。これでは与謝野がインフレターゲット論も知らない全くのバカ扱いだ。与謝野は高橋がいうようなことを言っていない。
そもそもそのようなインフレ政策を意図的に行なってよいのだろうか。国や企業にとってインフレは都合がよいが、一般の国民にとっては迷惑極まりない。デフレ状況に慣れきっている国民にとって、2%のインフレは生活に劇的な変化をもたらすだろう。
そして、2%のインフレが5年続けば、物価は10%上がる。インフレ政策による増税回避を主張する人は、実質的にはインフレ率を通じた増税を唱えているにすぎない。真面目にコツコツ働いて貯蓄をしている人たちの富を目減りさせ、収奪しようとしているのだ。
さらにいえば「上げ潮派」の人たちは、どうやって名目成長率を上げるのか、という回答を示していない。本質的にいえば、彼らの議論は「いずれ神風が吹く」というレベルにすぎないのである。
そもそも2%の経済成長ですら、日本のように経済が成熟している社会でこれを達成するのは容易ではない。技術革新は必須だし、日本人1人ひとりの人間力の向上も重要だ。通商政策にも手を抜けない。そうやってトータルの絵が描けたうえで、ようやく2%というラインが見えてくる。
愚直だが、なるべく物価上昇をもたらさないかたちで、全力を挙げて実質成長2%を実現する。
http://www.yosano.gr.jp/article/0805voice.html
私は、政策的にはともかく、与謝野氏の誠実さを信頼している。与謝野氏の主張を捻じ曲げての与謝野氏批判には我慢がならない。

財政政策は時代遅れか

上げ潮派は、ケインズのいう総需要創出政策はもう時代遅れ、財政政策より金融政策だという。これについても言いたいことがあるのだが、別に譲りたい。
政府紙幣震源地は高橋洋一です。
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090202/1233587654
※びっくりしました。高橋洋一氏が置引で逮捕されました↓
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20090330/1238381152