世界は、ソマリア沖の海賊を退治できるのか

ソマリア沖に海自派遣のための特別措置法案提出へ

11月22日付ブログでも書いたが、麻生首相ソマリア沖への海自派遣のムード作りをここのところしてきたが、特別措置法の素案がまとまった。
①海賊船への停船命令や立入検査
②海賊船から攻撃を受けた場合、正当防衛に必要な武力を行使
③P3C哨戒機による洋上監視も検討
④日本関係以外の外国船も護衛対象

正当防衛しかできない軍隊が交戦地帯に行っても却って邪魔

自衛隊法3条では、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、国連の国際平和活動に協力することができることになっている。
国連安全保障理事会は、08年6月にソマリア領海内での海賊取り締まりを認める決議を採択し、11月7日に関係国に無期限の海賊制圧を求める決議も採択しているから、武力の行使に当たらない行為ならば海自もソマリア沖で活動しうる。

武力行使のできない海自にできること

しかし、正当防衛の場合以外では、武力行使ができないとなると、P3Cによる洋上監視、給油活動くらいにとどめておいたほうがいいのではなかろうか。船が略奪にあっても、外国船が海賊船を追尾していても、それを横で見ているだけといったのでは、「何もために来たんだ」と、却って反感を買うように思う。
日本関係の船舶の護衛をするにしても、この海域には日本関係の船が年間2000隻も往来するのであるから、とても護衛しきれない。

通常の軍艦で海賊退治は困難か

海賊退治は他国海軍に委ねざるをえないが、軍艦が海賊の使う高速ボートに追いつけるか、対大型艦、対航空機を想定した武装でこういった小艦船に対して効果的な攻撃ができるのかも気になるところだ。
99年3月、能登半島沖に北朝鮮工作船と疑われる不審船を、海上保安庁の巡視艇、海上自衛隊護衛艦が追跡したが、工作船が35ノットに増速して逃走。結局引き離されたということがあった。軍事の世界では、ハイテク技術がかならずしもローテク技術に勝てるとは限らない。
海上保安庁は、この事件を教訓に、3基のウォータージェットを搭載し、最高時速40ノット(74キロ)超を出す高速艇を新造した。また、この新造船には、荒波にもまれる外洋でも効果的な射撃ができるよう、対象船に照準を合わせればあとはジャイロとコンピューターが機関砲を自動制御して弾道をコントロールする設備が備わっているという。
ソマリアの海賊は、高速ボートで海賊行為を行い、一仕事済むと、その高速性を利用しソマリア国内の漁港に逃げ帰ってしまう。こうした海保の新造船のような艦船がないと効果的な攻撃行動はとれないかもしれない。

海賊の根拠地を攻撃できないという限界

国連安保理決議も、ソマリア領海での制圧行為は認めても、陸に上がった海賊を逮捕、攻撃することまでは認めていない。あくまで海上にいるうちに逮捕しなければならないのである。さらにやっかいなのは、ソマリアの漁民がそのまま海賊になっているため、海賊の基地は同時に漁港でもあるし、海賊は日常的には一般市民として行動していることだ。米軍などは、国際法なんかクソくらえで陸上攻撃をするかもしれないが、周りの一般住民を犠牲にしなければ陸上にいる海賊を攻撃することはできない。

ソマリア内政が安定しない限り海賊はなくならない

かつて海賊被害と言えば、ソマリア沖よりもマレーシア、インドネシアシンガポール等の三国間にあるマラッカ海峡シンガポール海峡のほうが有名だった。しかし、沿岸国が一致して海賊を取り締まる態勢を作り、国際社会がそれを支える形が実効をあげている。日本も海上保安庁の退役警備艇を無償提供する等している。今年1〜9月のマラッカ・シンガポール両海峡での海賊事件(未遂を含む)は4件で、2004年同期(32件)の8分の1に激減した。
(MSN産経ニュース2008.11.20 22:41)
いったん国連安保理決議に基づく今回の警戒強化で、いったんは海賊被害も少なくなるが、ソマリア国内の混乱、貧困が続く限り、海賊はモグラたたきのモグラのようにまた現われるに違いない。