ソマリア沖 海自派遣へ

麻生首相 ソマリア沖に海自派遣を検討か

08年10月17日麻生首相は17日の衆院テロ対策特別委員会で、東アフリカのソマリア沖で横行している海賊対策のための新法を検討する意向を明らかにした。
11月18日、首相は、ソマリア沖での海自の国際貢献を求めている長島昭久衆院議員(民主党)、中谷元衆議院議員(元防衛長官)と官邸で会い、ソマリア沖海賊について「早急に対策を検討しなければならない」と述べた、という。
衆議院議員は、11月14日、日本財団主催の会議に出席、海自の出動の必要性を訴えていた。

ソマリア沖は海賊天国

ソマリアは、その国土の形から「アフリカの角」と呼ばれる。同国は紅海の入り口で、対岸のアラビア半島を南から北に突き上げるような形をしている。ソマリアと対岸の間の海がアデン海。アデン湾から紅海、スエズ運河、地中海というこの交通の要衝には、年間約1万8000隻が往来する。そのうち2000隻が日本企業関連の船である。
05年3月頃から海賊事件の発生が急増し、07年は年間20件ほどだったが、08年に入ってから11月19日現在すでに70件を超えている。08年9月25日にはT─72型戦車33両を積んだウクライナ船籍の輸送船が乗っ取られ、11月16日には日本企業管理のケミカルタンカーが乗っ取られ、11月17日にはサウジアラビアの大型タンカー(サウジの1日の輸出量の4分の1以上に当たる原油200万バレルを運搬)が乗っ取られた。
かつてはソマリア沖50海里までが危険海域だったが、大型母船と高速艇を組み合わせることで今では200海里先まで危険海域が広がっている。また携帯式ロケット弾などの重火器も装備しており、軍艦でないと対処できない存在になっている。

海賊はソマリアの外貨獲得源、ソマリア政府も見て見ぬふり

ソマリアでは、91年以来、内戦状態が続いている。ソマリアは元々氏族社会であり、氏族が軍閥を作り、互いに争ってきた。ソマリアは国内にはソマリランド共和国プントランド共和国・南西ソマリアなどの「国家」や多数の軍閥が乱立している。
このような状況のため経済は破綻。海賊のほとんどは元漁民で、漁業で食えなくなったため海賊になった。漁業会社がそのまま漁船を使って「海賊会社」に衣替えしている。複数の武装集団に全体で300人ほどが属しているという(朝日2008年11月15日2時27分)。海賊の根拠地の一つエイルも漁業の町だったが、今では海賊の根拠地だ。BBCによると、現地では小型パソコンにスーツ姿の海賊用会計士や交渉人が闊歩(かつぽ)し、街には人質用の特別レストランもあるという。英シンクタンク、王立国際問題研究所は08年だけで海賊が3000万ドル(約29億円)近い身代金を得たと報告している。ソマリアでは貴重な外貨獲得源となっている(これに対し、現在のソマリア全体の水産業は約150万ドルの規模と見積もられている)。
こうした根拠地を警察が制圧すればいいのだから、ソマリアには政府と呼べるものが存在しないので、それもできない。

二つの国連決議

国連安全保障理事会は08年6月、ソマリア領海内での海賊取り締まりを認める決議を採択。11月7日には、関係国に無期限の海賊制圧を求める決議も採択した。日本は両方の決議の共同提案国に加わっている。
ソマリア沖を通過する輸送船の護衛のため、NATO加盟国から合計で7隻の艦船が参加。イタリアの駆逐艦などが食料輸送船の警護にあたり、米国やドイツの計4隻が周辺海域で海賊の動きを監視している。11月11日英海軍が停戦説得を無視し自動小銃で撃ってきた海賊に応戦、3人を射殺した。11月18日にはインド海軍の軍艦が海賊船と交戦の末、これを撃沈した。
しかし一番の問題は、ソマリア国内の漁港に逃げ切った海賊をどうするかである。ソマリアの警察はあてにならないし、なかなかソマリア本土を他国が攻撃するのはむずかしい。

海自のソマリア沖での活動の根拠

海賊行為の取締は、警察行為であって、戦争行為ではない。本来海上での警察権限は海上保安庁の管轄である。海上警備行動は「海の治安出動」とも呼ばれ、、海上保安庁が対処しきれない場合に防衛相が自衛隊部隊に命じる。99年の北朝鮮工作船事件、04年の中国原子力潜水艦領海侵犯事件で発令された。領海外の問題への対処も法的には可能だが、前例はない。
ただ、日本財団の提言は次のように述べている。
自衛隊法第82条の「海上における警備行動」発令の要件が満たされていることを確認した上で、同行動の発令を決定して適切に対処すべきである。
 この場合、海上保安庁法第16条を準用して、海難救助や犯人逮捕その他非常事態に際し付近の船舶に協力を求めることができ、また、海上保安庁法第17条1項を準用して、停船させ立入検査し質問することができ、更には、海上保安庁法第18条を準用して、出発を差し止め、あるいは航路を変更させ、指定する場所に移動させることができる。このことは、国際法上も、『海洋法に関する国際連合条約』第105条および107条によって認められている。
 武器の使用については、警察官職務執行法第7条を準用して、犯人の逮捕、逃走の防止、自己もしくは他人に対する防護または職務執行に対する抵抗の抑止のために必要と認められる相当の理由のある場合、その事態に応じて合理的に必要と判断される限度において認められる。

具体的には、海自艦船が対象海域を航行する日本商船を護衛、哨戒機による海賊の動向を監視、外国護衛船への給油活動などが考えられそうである。民主党は国連決議が2件も出ているため、反対しにくいのではないか(小沢は国連決議を重視するという)。

かつてのシーレーン防衛論議

ソマリア沖の議論を聞いている、かつて中曽根元首相が提言したシーレーン防衛構想を思い出す。日本の国是は専守防衛だが、日本にとって、マラッカ海峡から日本までの海上交通路の防衛は、日本国土の防衛と同程度に重要であり、シーレーンの防衛は国土の妨害と同じという理屈だ。
ソマリア派遣を安易に認めると、シーレーン全体の防衛も認めなければならないことになりかねない。特別法で対処し、時限立法にすべきではないだろうか。

同様の問題はマラッカ海峡にもある。

近年、マラッカ海峡でも商船に対する海賊行為が横行している。日本の船も海賊に襲われている。高速船を用いる海賊対策として、日本政府はインドネシアに対し海上保安庁の退役巡視船を政府開発援助(ODA)にて供与した。武装を解除しての供与であった。(共同通信08.10.3)