貧乏人は病気になっても医者にはかかれない 老人・外国人にも特有の問題が

親の保険料滞納で、子どもが無保険に

2000年から国民健康保険料の滞納者に保険証の返還を義務付けたことにより、無保険の状態になる人が急増している。昨年は34万世帯と99年の4倍以上に。無保険が原因で、診療を受けずに死亡した人が昨年は30人に上ったという調査結果もある。成長過程の子どもが医療を受けられないという深刻な問題もあり、厚生労働省で実態調査を進めている。
東京新聞10月17日朝刊)

00年の法改正

国保保険料の収納率は、98年度には91%台に落ち込み、全国で1020億円の赤字を計上した。
政府は00年4月、法律を改正し、1年以上滞納しているか、市町村から相談の機会を与えても全く応じない場合で、なおかつ災害その他特別な事情もない場合、被保険者証を取り上げ、代わりに「被保険者資格証明書」なるものが交付することにした。
資格証明書を病院窓口で提示すると、診療費は、いったん全額自己負担となり、その後自己負担額を超える金額は払い戻される。「いったん病院に医療費を10割払いなさい、あとで7割もどします」ということだ。
納期限から1年6ヶ月を経過すると国保の給付が全部、または一部差し止められ、さらに滞納が続くと差し止められた保険給付額が滞納保険税に充てられることとなる。

どういった特別事情があれば保険証を取り上る。

特別事情としては、次のものが認められている。
①世帯主がその財産につき災害を受け、又は盗難にかかったこと。
②世帯主又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと。
③世帯主がその事業を廃止し、又は休止したこと。
④世帯主がその事業につき著しい損失を受けたこと。
⑤①から④までに類する事由があったこと。

資格証明書発行割合の高い自治

国保加入者の中で資格証明書発行世帯の割合が高い自治体は
千葉市9・1%
福岡市5・8%
前橋市5・7%
横浜市5・0%。
発行割合の多い自治体は、機械的に資格証明書を発行してしまっている傾向が高いからと考えられる。

子どもに対する取り扱いでも自治体ごとに差がある

親が保険料を払わなかったからと言って、子どもにも資格証明書を発行して、子どもが治療を受ける機会を妨げるのは非常と思うが、淑徳大の結城康博准教授のアンケート調査によると、子どもにも資格証明書を発行すると(子どもの治療費も10割負担させることになる)いう自治体が全体の34%もあることが分かった。
他の回答は次のとおりである。
子どもには交付しない 34%
子どものいる世帯全員に交付しない 30%
ケースごとに判断する 30%
同準教授は次のようにコメントしている
「大人への制裁は必要だが、子どもに罪はない。親には保険証の返還を求めても、高校生以下は無条件で返還から除外すべきだ」
東京新聞10月26日朝刊)

老人からも遠慮会釈なく保険証を取り上げ

75歳以上の高齢者は従来、障害者や被爆者などと同様に「保険料を滞納しても保険証を取り上げてはならない」とされてきた。しかし、1年以上滞納していると、75歳以上の高齢者からも被保険者証を取り上げられることになった。

後期高齢者制度で知らないうちに無保険に

後期高齢者医療制度では、75歳以上の高齢者全員を新制度に強制加入させる。「健保に加入する夫が75歳以上で、扶養家族の妻が74歳以下」という場合、夫は後期高齢者医療制度、妻は国民健康保険と、別々の医療保険に加入することになる。
その際、夫は手続きをしなくても自動的に新制度に組み込まれるが、妻は自ら健保組合などに資格喪失届を出さないと、国保には入れない。自分で手続きをしなければ、4月1日以降、どこの保険にも入っていない「無保険者」になってしまう。もしそのまま気がつかず、数年たって、病気になって初めてその事実を知ったという場合、数年分の保険料を払わないと保険診療は受けられないということになる。
しかし政府は、上記のような手続きが必要なことを、政府広報でも知らせていない。
あとあと大きな問題になりそうだ。

外国人特有の問題も

日本で働く外国人労働者の場合、勤務先が、日本人と区別して保険に加入させず、また本人も国民健康保険に入らないため、無保険になってしまう例がある。
外国人労働者もそれを望んでいるという事情がある。それは、健康保険と厚生年金とにセットで加入しなければならないからだ。年金は25年間払わないともらえず、将来帰国する外国人には「余分な出費」と映る。「年金だけ外してほしい」との声は根強いが、国は「厚生年金には障害や死亡給付もある。外国人だけ保護を外すわけにはいかない」と反論する。

堺市における取組

堺市では、資格証明書を発行されている各滞納者の事情を改めて確認して審査する第三者機関を来年1月に設置することを決めた。被保険者証がないために、病気になっても受診しない事態を防ぐ独自のセーフティーネット、と市は位置づけている。厚生労働省も「あまり聞いたことがない」という仕組みだ。
資格証明書をもつ市民を市の調査員が戸別訪問して滞納の事情を詳しく聴き、民生委員や学識経験者ら3〜5人でつくる第三者機関へ結果を提出。構成メンバーたちは滞納の理由や経緯を検証し、改めて被保険者証、資格証明書のどちらを交付すべきか、保険者である市に意見を出す。
市は、第三者機関が判断するための基準などをまとめたうえで、来年2月をめどに、資格証明書を持つ低所得の単身高齢者を対象に事情調査を始める。来年4月以降、調査対象を広げていく。市国保収納監理課は「対象者に治療や入院が必要なら被保険者証の交付を優先する方針」という。
それでも医療費の3割負担は必要なうえ、いずれは滞納していた保険料も納めてもらわなければならない。同課は、財産調査などで支払い能力があると分かった場合は保険料納付に向けて相談や説得を続け、支払い能力がない場合は生活保護を含めた福祉制度を紹介するなど対応を検討する考えだ。
ただ、中央官庁というのは、こうした突出した動きを嫌う。厚労省はこうした堺市の動きを妨害することなく、他の自治体に先駆けたモデルケースとして、かえってその発展をサポートしてほしい。