欧州対米国 経済的覇権をめぐる争いが勃発か

欧州が米国とが大喧嘩 経済戦争の勃発か

10月26日ASEM(アジア欧州会議)首脳会議が閉幕した。
以下は東京新聞の記事からの引用である。
「非常に簡単なことだ。われわれは一緒に泳ぐか、一緒に沈没するかだ。」欧州委員会バローゾ委員長は、アジア諸国に欧州との協力体制構築の必要性を強く訴えた。
金融サミット開催について渋る米国の重い腰を上げさせた欧州連合(EU)は、金融危機の原因として、ドルを基軸通貨とした米国中心の経済体制が背景にあることを主張。金融機関への規制・監督の強化とともに、米国の影響力が強い現行の国際金融の見直しまでを視野に入れた改革を打ち出している。米国型の市場万能主義から金融の新秩序づくりを目指す欧州に対し、米国の反発は必至。欧州側は「中国と協力して国際金融改革を進めていきたい」(バローゾ委員長)、「欧州はアジアの成長と想像力を必要としている」(サルコジ仏大統領)など、アジアに秋波を送った。

元は英ポンドが基軸通貨WWⅡ末期、米国は、戦後復興資金を条件にドルに変えさせた

基軸通貨はかつては英国ポンドだった。それがドルに変わったのは、ノルマンディー上陸、イタリア上陸も成功、東部戦線もロシアが開戦前の領土をほとんど回復する等、連合国勝利がほぼ確実になった1944年7月に行われた、ブレトン・ウッズ会議においてである。
このとき、国際通貨基金IMF)とともに国際復興開発銀行(その後の世界銀行)の設立が決定され、それと同時にドルを基軸通貨とすることが決まった。
国際通貨基金は国際収支の危機に際しての短期資金供給、世界銀行第二次世界大戦後の先進国の復興と発展途上国の開発を目的として、主に社会インフラ建設など開発プロジェクトごとに長期資金の供給を行う機関とされ、両者は相互に補完しあうよう設立された。

こういうふうに書くと、面白くもなんともないが、要は「米国は英国を含めた欧州の戦後復興について十分な金を出そう。その代り、援助はIMF、世銀を通じて行い、この実権は米国が握るし、ドルを基軸通貨にし、資金援助はすべて米ドルで行う。」ということが決まったのだ。英国は当時世界最高の経済学者ケインズを派遣し、ポンド基軸通貨体制を守ろうとしたが、戦後の経済を握り、戦争中も経済的支援を英国に行ってきた米国にはどうしても勝てなたかったのである。それでも、ケインズは母国英国を守るべく3週間の会議中、1000件の文書に目を通し、100通の長文電報を英国に送ったという。

IMFは米国の経済侵略の道具

戦後、経済破綻した国は、IMFに経済支援を求めることとなったが、IMFから援助を受けた国は、IMFが定める構造調整プログラムに従った財政運営をするよう強制される。具体的には①通貨の引き下げによる輸出力の強化と輸入の制限、②政府の公的支出の削減、③価格統制の撤廃、④輸出入や為替の管理の撤廃、⑤国営企業の民営化などの一連の政策の採用、といった米国流自由経済政策を強制されるのである。

このため、国内の農家保護のためかけていた関税は撤廃され国内農家の一部は大打撃をこうむるし、価格統制がなくなることで一部食料品は高騰することが考えられる。政府の公的支出の削減はすなわち社会福祉の大幅後退となるし、国営企業の民有化名目で外国資本による買収が行われる、公務員の人員削減、給与カットも進み、国内のインテリ層の海外流出も進む。

ユニセフは、構造調整プログラムが対象国の貧困層の生活、教育、保健サービスに深刻なダメージを与えていることを指摘し、IMFは被援助国に対し、「人間の顔をした調整」を行うことが必要であると主張している。ユニセフが米国から嫌われるわけである。

欧州がドル基軸通貨制=IMF体制を覆そうとする理由

IMFの援助を受けることは、米国の経済的植民地に置かれることを意味するのである。現在欧州連合加盟国のうち、アイスランドハンガリーが、欧州連合加盟を目指しているウクライナが、IMFの援助を受けることになっているが、欧州連合としては自分のテリトリーの中に米国植民地ができることに拒絶感が相当強いのではないか。
基軸通貨の地位が米ドルに奪われたのは、米国が欧州に復興資金を援助するのと交換条件に求めてのことであった。金融危機がいつ再発するか分からない米国から基軸通貨の地位を奪うとしたら今を置いてないという打算があるに違いない。
江戸の敵は長崎で、ということなのではないか。
また米国の財政赤字は、今後ますます拡大していくに違いなく、それとともに米ドル暴落の危機が忍び寄っている。
90年代IMFの融資の9割は南米向けに行われていたが、2000年代に入って、IMF管理下から逃れるため、繰り上げ償還する国が相次いだ。IMF体制が世界からの信頼を失ってきている。IMF体制の崩壊は即ドル基軸通貨の崩壊でもある。

中国はすでにEUサイドに

中国は、人民日報の海外版に上海の同済大学教授の論文を掲載。同論文は「米国が主導的立場となっている世界経済システムを変革しなくてはならない」「アジア、欧州間の貿易では「米ドルではなく、ユーロ、人民元、日本円などで決済すべきだ」と主張している。アドバルーンというより、中国の準公式見解とも言えるのではないか。というのも、98年10月に訪中したサンテールEU委員長に対して、当時の中国首相朱鎔基は、外貨準備のドルを半分、ユーロに切替えると意志があると表明しているのである。
中国は、中国元を基軸通貨にしたいという野望を持っている。
中国も、中国元が世界的な基軸通貨になるとは、さすがに思っていないだろう。しかし中国が、米国、欧州、中国という世界三分の計を考えているとすれば、米ドルの力を削ぐため、ユーロの基軸通貨化に協力することも十分考えられる。さしあたり、アジアでの基軸通貨を目指しているのではないか。
中国はアフリカに対する経済援助にも力を入れており、上海協力機構を足掛かりにロシア、中央アジアとの協調関係を築いている。そちらにも触手を伸ばしてくるかもしれない。

戦場は11月15日ニューヨーク

11月15日ニューヨークで、欧州勢の意見が通って、金融サミットが開かれる。これがブレトンウッズ体制を覆す歴史的会合になる可能性もある。
もしドルが基軸通貨の地位を降りるとなったらどうなるか。そうなると米ドルは暴落し、米国債を大量に抱えている、日本は大変な危機に見舞われること間違いない。