闇サイト 自主規制より法規制で

闇サイト

「闇の・・」「裏・・」といった、いわくありげな名前が付いているサイトがあり、闇サイトと呼ばれている。
書込は自由。犯罪に勧誘する行為、殺人予告、違法薬物の譲渡といったものも書込みされることもあり、社会問題化している。
最近は、こういったサイトの管理人も、体面上、こういった内容の書き込みについて、禁止をうたい、違反した場合は削除することを警告しているが、実際は削除もされないことも多く、無法地帯となっている。

闇の職業安定所

「闇の職業安定所」という名前のサイトがあり、ここでは次のような広告が書き込まれている。
確実に現金を手にしながら話が進むので、現実的となります。
支払は週2回、つまり月8回あります。
金額は、厚みのある給料袋を思い浮かべてください。
用意して頂くものはやる気です!
作業は、誰でもできる簡単な内容ですし、ノルマもありません。
作業についての指示は、メール連絡だけで間に合います。
よく間違われますが、そちらに支払いだけさせて利益を得るアルバイトではありません。
そちらの名義で登録するような、怪しい内容もありません。
お金がほしい方、気軽に問い合わせてください。
採用条件は、下記となります。
●健全で、快適に外を歩ける方。
●お金の為なら、やる気に満ち溢れる方。
●身体に特徴のある方(肥満、目立つ箇所に刺青、障害など)は、無理です。
●毎日、時間にゆとりのある方。
●他の仕事と兼用では、採用不可となります。
●未成年に見える方(中、高校生)は無理です。

犯罪の匂いがプンプンする。とてもまともな仕事とは思えず、怪しいとは感じるが、どのような怪しい仕事なのかは分らない。
管理人としては、明らかに犯罪行為をうたっていない以上削除できない、ということなのであろう。

闇職

「闇職」という名前のサイトがある。「闇の職業安定所」の意味であろう。
このサイトに書き込みされた求人広告のひとつを紹介する。

「リスクのあることに手を出す前に。
日給5万以上、1ヵ月で150万から200万稼げます。違法性はなく継続して毎日できます。資格は20歳以上で都内までこれる方。携帯が全キャリアブラックでない方、一部ブラックは大丈夫です。40代、50代の方優遇させて頂きます。お住まい、年令、携帯の状況を書いてお問い合わせ下さい。」

私がかつて扱った事案で、こういった広告に応募し、警察に逮捕された人もいる。この人の場合、次のようなことになったという。
求人先に自分の携帯の電話番号を入れメールを打つと、携帯に求人側から電話がかかってくる。待ち合わせ場所を指定され、求人側の人間と会うことになる。
会うと、具体的な内容は聞かされず、ただいい仕事だからと言われ、まず個人名、電話番号、勤務先を聞かれる。
そうしてから、求人内容の説明を受けるのだが、要は携帯を購入させ、それを買い取る業者だ。こういう業者が携帯電話に渡そうものなら、その携帯は、ヤミ金に売られたり、料金滞納で使用停止になるまで海外にどんどん電話されたりして大変なことになる。
うっかりこうした募集に応じて、リクルーターと面会でもしようものなら、断ろうとしても「ここまで人に話させて、今更逃げられると思っているのか。お前の住所も、勤務先も知っているんだぞ」とスゴまれてしまい、結局断れなくなってしまう。

なかには、偽造の運転免許証を渡され、その人間になり済まして、携帯電話を購入させ、横流しするグループもある(上記広告では携帯料金を滞納して新しく携帯を作れない人=キャリアブラックを募集対象外としているので、こうしたバイトは募集していないようだが)。
こんなのに応じたら、それこそ詐欺罪で刑務所行きになりかねない。

強盗、殺人の依頼もある闇サイト

中には、殺人を依頼する書き込みがなされることがある。実際、そうしたサイトでの書き込みをきっかけに集まった男三人が、07年8月強盗殺人を計画、名古屋市在住の磯谷利恵さんを、拉致し、殺害。岐阜県内の山林にその遺体を遺棄した。彼らは互いに面識もなく、「闇の職安」と題するサイトでその中の一人がした強盗仲間の募集に、残りの二人が応じ、犯行に及んだという。
これに類似のサイトはほかにもあり、犯罪を誘発している。

闇サイトの管理人とはどんな人間か

こういった闇の職安的なサイトの管理人は、一般人だ。
しかし、こうした書き込みの場を無償で提供しているわけではない。こういったサイトは話題を呼び易く、こうしたサイトにバナー広告をはりつけたがる輩がおり、彼ら管理人はこうした広告収入を得ているのである。
こうした闇の職安で、犯罪が引き起こされても、ダメージにはならない。話題になることで、アクセスが増え、ますます広告収入が上がってくるからだ。

こういった管理人を取り締まる法律はあるのか

残念ながら、こういった人間を取り締まる方法はない。こういったサイトは書込が自由で、サイト側では書込みの内容をコントロールできない。だから、こうした管理人を刑事事件で立件するには「違法な書込」を削除しなかったという不作為的なところで処罰するしかない。
しかし、現行法上、こうした削除義務は認められていないため、処罰は難しい。
また「もうかる仕事です。一晩で終わります。報酬は出来高払いですが、100万円ほどを予定しています。」などという書き込みがあった場合、こういった書込を故意に削除しなかったとしても、そこからいかなる犯罪が生起するかも不明で、書き込みをした者との意思の連絡もない。
このように、こういったサイトを利用して強盗なり殺人が行われても、そのことに関して刑事責任を追及するのは、事実上不可能と言っていい。

自主規制か法規制か

プロバイダー(ISP)各社は、それぞれ利用規約を定め、その中で公序良俗に反する内容のサイトは強制的に削除することができるとし、実際その努力を行っている。
そのため、まずは業界の自浄作用にまずまかせるべきだ、という議論がある。
しかし、
①闇サイトを運営している人間の殆どが、プロバイダーを通さず、サーバーを借りて、自分で情報を発信しているから、プロバイダーの自主規制では対処できない。
総務省に登録しているプロバイダー業者は1万5000件、ブログを開設している個人は1000万人もいる。
③サーバを海外に置いているところもある。
④闇サイトを運営するしているのはアウトサイダーで、総務省に届出もしていないし、そもそもする気がない。はじめから自主規制などは無視している人達に自主規制を言っても意味がない。

そのため、法規制をせよという意見に対しては、IT業界、コンテンツ業界から、猛然と反論がなされている。
すなわち、法規制をしてしまうと、健全な事業者、サイト運営者が法律に縛られて、自由な運営、表現ができなくなる一方で、闇サイト運営者は最初から法律を守る気もなく、好き勝手なことをするであろうから、結局正直者がバカをみることになる、というのである。
表現の自由が侵害されるという批判もある。

しかし、そもそも、各プロバイダーもこれまで自主規制をしてきたはずで、にもかかわらず、ここまで横行していること自体、自主規制の限界を示している。上記の闇の職業安定所も、ライブドアの「したらば掲示板」内のサイトである。
自主規制に任せるというのは、現状維持論でしかない。
しかし、現状を維持したのでは、今後上記のようなサイトにより、詐欺商法にあったり、犯罪者にされたりという、被害者が毎日のように発生していることをそのまま放置していいという法はないであろう。
表現の自由についても、禁止対象、処罰対象になる行為とならない行為を明確に線引きでき、かつ禁止、処罰も害悪の大きいものに限るとすれば、憲法には反しないと考える。

法規制は誰を対象にすべきか

法規制するとした場合、誰の行為を規制するのか。
プロバイダー、サイトの管理人、書き込みをした人間、このうち、どこまでを規制の対象とすべきなのであろうか。
プロバイダー事業者に対する規制は可能であろうか。
プロバイダー自体は、直接サイトを管理しているわけではないので、罰則規定を設けることまではできないだろう。とすると行政処分が可能かということになるが、そもそも行政がプロバイダー事業者に許可、認可権限、登録取消権限を持っていおらず、かと言って、プロバイダー事業を許認可制、届出制にすることにもやはり疑問がある。
となると、規制するにしても努力義務ということになるのではないか。

こうした書込みがなされているサイトの管理人にも、善意の管理人と悪意の管理人の2種類がある。「闇の・・・」とか、「携帯電話で大儲け・」「裏・・」など、犯罪的な書込みのあることを当初から狙った悪意の管理人が管理する裏サイトが規制を受けるのは当然だ。しかし善意の管理人が管理する真っ当なサイトにも、こうした悪質な書き込みがなされることがあり、そういった被害者的立場にあるサイトについても規制が及ぶことには、躊躇もある。

さらに、書込行為自体を、法規制するとしても、罰則規定を設けるとなると、罪刑法定主義の観点から、規制対象をどのように表現するかというところで、あいまいさを排除した表現にする必要が出てくる。そうでないと、自分がこの行為をした場合に罰せられるかどうかの判断がつかず、場合によっては適法と思ってした行為が罰せられないからである。

規制行為をあいまいに定めるか、細かく規定するか

規制行為を細かく規定するとなるとどうなるか。例えば「書込みをすることにより、読み手を犯罪に誘引した」といった表現にしたとする。
しかしこの場合、「一晩で、一か月分の収入が入ることも。やる気のある方大歓迎。」などと広告されてしまうと、その内容自体怪しくはあるが、明確には犯罪行為に誘っているわけではないので、罰しようがない。内容を細かく決めれば、それを潜り抜けるような表現が出てくる。そのため果てしないイタチごっこが続く可能性がある。

逆に「ネットを通じ、仕事を紹介し、過大な利益が得られるかのごとき表現をした」者を罰するというような規定にすれば、イタチごっこはなくなるかもしれないが、犯罪の範囲が明確でなく、本来その意図なく書き込みをした場合までが禁止範囲に含まれかねない。
要するに、禁止行為の範囲を厳格にすれば、脱法的行為を許すことになり、範囲を緩やかにすれば罪刑法定主義に反するというジレンマがある。

管理人に氏名、住所を省庁宛に届出ることを義務化させることはどうか。

サイトで管理人名が秘匿されていることから、このような無責任な闇サイトが増殖する元となる。そこで、こういった書込みサイト、あるいはその中の特定部分を開設しようとする者は、総務省に住所、氏名を届け出ることを義務付けてることも一部関係者から提案されているが、こういった規制はどうだろうか。
書込サイトすべてについて届出義務を定めるのは、行きすぎだし、特定部分に限るとすると、また前に言った問題が生じる。
名義を借りて届け出る人間もいるだろうから、実効性も問題ある。

出会い系サイト規制法にヒントが

申し訳ないが、私自身どのような法規制をしたらいいか、結論が出ていない。
出会い系サイト規制法が既に実施されている。この法律どの程度実効性があったかを検証し、実効性が上がらなかったとしたらどうした点が問題になったか。そうした実態調査をもとに議論が重ねられるべきではないかと考えている。