代議士元秘書のフィリピン女性派遣事件について思う

新聞記事から

総務副大臣倉田雅年氏の元公設秘書が、約2年間に、短期滞在ビザで、フィリピン女性を延べ300人を来日させ、自ら事務局を勤める「未来チャリティー実行委員会」、特定非営利活動法人「MIRAI」を通じて、フィリピンパブに派遣していた、という。
店内では「災害復興目的のチャリティーショー」と称し、フィリピン女性がダンスショーをし、その合間に客席について客と談笑し、店から食事代一日1500円と客からチップをもらっていたという。
東京新聞08年10月20日朝刊)

フィリピンホステスはどうやって来日するか

フィリピンパブに勤めているフィリピン人ホステスは、家族ビザ(夫が日本人)か、興行ビザのどちらかで、滞在している。
彼女らは興行ビザで来日している場合、歌手やダンサーとしての活動はできるが、接客できないことにはなっている。しかし、実際には接客しているのが実態だ。
日本に来るフィリピン女性は、まずフィリピン国内の芸能プロダクションに所属する。そこでボイストレーニング、ダンストレーニングを受け、訪日をめざし待機している。他方国内にもフィリピン女性を国内で呼び、歌手ないしダンサーとしての興行を手配するプロダクションが存在する。日本国内のプロダクションは、興行スケジュールを決めて、それを元にフィリピンの芸能プロダクションにタレントの派遣を依頼し、フィリピン女性は興行ビザをフィリピンにある日本大使館に申請する。ビザが下りると来日。興行ビザの場合滞在期間は6ヶ月である。
しかし来日しても興行スケジュールにある芸能活動は行わない。それはあくまで、興行ビザをとるための方便にすぎず、来日と同時に日本の芸能プロダクションの紹介する店舗に紹介され、そこで接客の仕事をする。フィリピンパブが、彼女らをタレントと呼び、ホステスと呼ばないのにはそうした理由がある。そして、彼女らは、最初の給料の2か月分くらいは、天引きされ、残りの4ヶ月分の給与をためてフィリピンに帰る。

元公設秘書に言い訳はありうるのか

こうした日本国内の芸能プロダクション会社は、立ち上げたからと言って、すぐにフィリピン人タレントを国内に招聘できるわけではない。社内に経験者(同じ業態のプロダクション会社に3年以上勤務していた経歴)がいること、従業員数も一定人数いなければならない等の制約がある。
元公設秘書は、こういった手続もとらずに、チャリティーコンサートとしてフィリピン女性を呼び、客席に着かせていたのだから(元秘書から言わせると、チャリティーコンサートの合間の時間に、客と話をして時間をつぶしていたということになるのだろうが)、ひどい。
新聞記事からは、店舗から報酬を受けていたかどうかは不明であるが、報酬を受けていたら特定非営利活動法人の活動としては問題があろう。さらには脱税の可能性も検討対象に入ってくる。

フィリピンパブより、研修生制度のほうが問題が大きい

日本はしばしば、建前と現実の違いが大手を振ってまかり通ることが多い。
パチンコで勝てば特殊景品という金の延べ板がもらえ、これを景品交換所で現金化するというシステムも、合法でまかり通っている。
フィリピンパブもその類だ。ただ、建前があるから、時々、警察が入管法違反で経営者を逮捕し、お茶を濁している。
しかしフィリピンパブがあって、困っている人間はどこにもいない。経営者も、客も、ホステスもそれぞれ満足をしている。むしろ、行政に取り締まってほしいのは、技能研修なる制度だ。建前は、発展途上国からきた研修生に技能訓練をして、本国でその技能を活用した職についてもらうということになっているが、実際は、海外から低賃金労働者を呼ぶだけの手段に過ぎない。研修生は研修をしていて、労働をしていないという建前なので、労働基準法が適用されず、賃金ではなく手当を支払うことになり、当然雇用保険はなく、最低賃金制も適用されない。実際工場では、技能研修などはさせず、単純労働に就かせている。研修生の多くは中国人だが、多くは三年間研修するという誓約書を書かされ、保証金を積んでくる。途中で逃げれば巨額の保証金は没収される。中には、タコ部屋的取り扱いまでしているところまであり、時折新聞でも報道されている。
※追補 現在は外国人技能研修生にも労働法が適用されるようになっています。