中国 欧州危機の救済主に名乗り
李克強スペイン国債購入継続を約束
11年1月5日、訪欧中の中国の李克強副首相は、スペインのサパテロ首相とマドリードで会談し、スペイン国債購入継続を表明した。スペインは他国の副首相に国家元首のカルロス1世国王が会談。破格の厚遇を示した(同じような話が日本にも有りましたが)。
ユーロ危機にすくむ欧州に札束攻勢
10年5月には総額7500億ユーロの「欧州金融安定メカニズム」と、ユーロ圏の中央銀行による「証券市場プログラム」と称する、ユーロ圏の政府債及び民間債の流通市場からの買い入れ策が、策定された。これはギリシャ危機が他に波及するのを防ぐ防波堤の役割を期待されてのことだが、アイルランド危機で、この防波堤に対する信用が揺らぎ始めた。現在市場は、アイルランドの次を探る動きを示しており、次はポルトガル、次の次はスペインとも言われている。スペイン10年国債利回りは現在5%。スペイン政府は国債利回りの上げ下げに一喜一憂している。
これに手を差し伸べたのが中国。昨年10月に温家宝がギリシャを訪問し国債購入を発表、11月には胡錦涛がポルトガルを訪問し経済協力を約束した。
英仏も中国にも頭上がらず
さらにG20直前の11月4日、胡錦濤は訪仏、サルコジとの首脳会談で、エアバス102機の購入を約束した。ほかにも、仏大手原子力企業アレバから35億ドル相当のウラニウム、原子炉2基を購入し、アルカテル・ルーセントと通信網の構築などで11億ドルの契約を、仏石油資本トタル社と、約30億ドルの石炭ガス化プラント建設の契約を結ぶ等の大型商談が成立見込み。
英航空機エンジン大手ロールスロイスもエンジン7億5千万ポンド(約976億円)の売却を成立させ、キャメロン首相は10年11月企業トップ43人を率いて訪中、さらなる大型商談をトップ交渉で勧めたが、15年までに両国の貿易額の倍増を目指している。
人権は二の次、三の次
中国は札束攻勢で、自国の人権抑圧状況について、欧州が口出しをしないよう布石を打っている。
昨年12月に開かれた中国の民主活動家、劉暁波のノーベル平和賞授賞式には、中国の呼びかけでロシア、カザフスタン、コロンビア、チュニジア、サウジアラビア、パキスタン、セルビア、イラク、イラン、ベトナム、アフガニスタン、ベネズエラ、フィリピン、エジプト、スーダン、ウクライナ、キューバ、モロッコが欠席。
人権抑圧国家のヒーロー的存在だ。かつては人権を抑圧する国家があれば、欧米が経済制裁を行い、そのことが人権抑圧状況を緩和していたが、今は欧米が手を引けば中国が手を差し伸べる。欧州も米国も経済的に世話になっている中国に頭が上がらない。
バーナンキ1月議会証言
バーナンキ1月議会証言
米バーナンキFRB議長は、1月7日、上院予算委員会で景気見通しについて証言。消費、企業設備投資支出等、経済指標に改善がみられるとした。しかし、他方、住宅部門が多くの在庫を抱え落ち込んだままであり、労働市場の状況も控えめにしか改善していないとし、消費と生産の指標も労働人口を増加をさせるには十分でないとした。
雇用の低調
1月7日発表の、米雇用統計。失業率は9.7%の予想に対し9.4%となったが、非農業部門就業者数は10万3000人増と、市場予想の15万人を下回った。米は日本と異なり、人口増加国。人口増を賄うためには15万人の雇用が毎月生み出される必要がある。雇用統計上、積極的に求職活動をしている人のみが「失業者」とされる。失業率が改善したのは、失業者が新たな就業をあきらめて労働市場から撤退したからだ。職探しをあきらめた人の数は12月に130万人に増加。これらの人々は失業率の算定から除外されている。失業状態が6カ月以上の「長期失業」の比率は全体の失業の4割を超しているが、こうした層が雇用市場から撤退して行く。就職を諦めた人も含めた意味での失業率を想定した場合、2割になるのではと言われている。
金融危機で08年から09年にかけて、米では約840万人の雇用が失われたが、10年で回復した雇用は約110万人。金融危機前の状態には程遠い。
バーナンキは雇用が完全に回復するには4〜5年かかるとしている。景気の「見通しは異常なほど不透明」「米国は大恐慌以来、最悪の雇用問題に直面している。」と証言した10年7月のときから、情勢は変わっていない。
なぜ消費が増えるのか
株価の上昇により、家計のバランスシートが改善され、それた消費増に結びついたのではないか。2010年12月31日のダウ平均の終値は前日比7.80ドル高の1万1577.51ドル。08年のリーマン・ショック以前の水準を回復している。年明けも株価は好調だ。ただ、これは国内景気回復によるものではない。一つにはFRBによるQE2(量的緩和第2弾)によるドルのばらまきによる影響だ。景気対策でFRBの資産は1兆ドルから2兆ドルにと2倍に増えているが、その分ドルがばらまかれている。さらにはブッシュ減税の継続。民主党は中間所得層への減税継続を求め、共和党は高額所得層への減税継続を求めたが、オバマは両方とも継続してしまった。
これだけドルがばらまかれていれば、失業率が上がろうと下がろうと株価は上がるだろう。もう一つは広い意味での海外への生産移転だ。国内からではなく、海外から製品を輸入することでコストを下げ、企業の利益は上がるが、その分国内の雇用は奪われる。
米株価は、失業率が上がっても、下がっても上がる。上がれば景気回復を好感して株価が上がり、下がればFRBがもっとドルをばらまいてくれるだろうと期待して株価が上がる。
貿易保険 海外から海外も対象に
貿易保険の対象拡大
貿易保険は、企業が海外向けに製品輸出したり、海外プロジェクトへの投資等にかける保険。ことに、取引相手が新興国だと、カントリーリスクがあるため、リスクヘッジとして利用されている。民間も行っているが、主力は独立行政法人の日本貿易保険である。同法人の契約残高は11兆円にも及ぶ。
ところで日本貿易保険は国策遂行のための存在だから、日本から海外への貿易は保険対象になっても、日本企業の海外拠点から他国への貿易は対象外だった。今回、後者にも保険適用することに、同法人と政府間の協議で決定されたという(1月8日付日経)。
空洞化への不安
こう聞くと、国内産業の空洞化を促進するだけではないかという不安が当然生じる。ただでさえ、最近の円高で、企業は生産拠点をどんどん海外に移している。
日本の製造業の場合、一から海外で製造するのではなく、部品、モジュールを国内で生産し、それを海外拠点で製品に組み立てることが多い。そのため政府は、海外生産拠点で生産拡大すれば、海外拠点への輸出も増えるから、結果的に国内の雇用に寄与すると、今回の方針決定の理由を説明する。