武力行使の3要件と幸福追求権

いよいよ平和安全法制整備法案が国会に提出され、議論が緊迫してきました。今までは、周辺事態法という法律で、「日本周辺」の地域における我が国の平和や安全に重要な影響を与える事態についてだけ、武力行使を認めるとしていました。今回の法改正では、その周辺事態法が廃止になり、「日本周辺」という限定がなくなります。そこで、それに代わる歯止めはどうするのか、ということが大きな問題になる訳です。

政府は、武力行使については三つの要件を定めたので、歯止めとしてはこれで十分という見解です。
その3要件の一つとして、
「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことが必要だとしています。

しかし、この「幸福追求の権利」というのは何の事だか分かりますか。

憲法の13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」
とあります。でも規定の仕方がなんか漠然としていますね。ですから、憲法ができた当初はあまり重要視されていおらず、憲法上の人権というと、思想及び良心の自由、宗教の自由、職業選択の自由表現の自由とか、具体的に名前の挙がっている権利に関する議論が中心だったんです。

ただ、憲法は70年以上前にできたものですから、その後、社会が変わってくるにつれ、プライバシー権であったり、環境権であったり、新しい人権が生まれてきます。そうしたものも、憲法上人権として保障すべきだという議論が起きてきます。それで、どうしたか、というと、こうした新しい人権は、憲法13条の幸福追求の権利に含まれるんだと、頭の良い人が考えたんですね。
すなわち、幸福追求権とは、全ての人権の源みたいなもので、そこから表現の自由とか、宗教の自由だとか生まれてきたのだから、憲法に書いていない権利の根拠はこれに求めれば良いんじゃないかという訳です。

まあ、それで元の話しに戻る訳ですが、今ある周辺事態法は「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」があって初めて武力行使ができると定めています。「平和及び安全」の部分が、「国民の生命、自由、幸福追求権」に置き換えられる訳で、その限りでは武力行使できる範囲がかなり広がっています。もっとも、政府は「根底から覆される明白の危険」という限定をつけているから、十分な歯止めになるんだという訳ですが、実際どうなのか、国会で十分議論をしてほしいですね。