厚労省 短時間労働者対策基本方針を策定

厚生労働省は、3月26日、平成27〜31年度の5年間に取り組むべき、短時間労働者(パートタイム労働者)の雇用管理の改善などの促進や職業能力の開発・向上などに関する施策の基本となる「短時間労働者対策基本方針」を策定しました。

同基本方針では「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」(以下実態調査と呼びます)が引用されていますが、この調査結果を見ると、パートタイム労働者の次のような実態が見えてきます。
1)パートを雇用する理由は、「人件費の節約」が48.6%、「仕事内容が簡単なため」が36.5%、「1日の忙しい時間帯に対処するため」が35.4%と多いのですが、「定年退職者の再雇用のため」も17.6%と、平成18年調査から大きく伸びています。高齢者雇用促進法が施行された今、この部分は大きく伸びることでしょう。
2)実態調査において「同じ内容の業務を行っている正社員がいる」と回答している「パート」は48.9%であり、そのうちの36.0%の「パート」が「責任の重さが同じである正社員がいる」と回答しています。また、「パートの役職者がいる」と回答している事業所は、「正社員とパートの両方を雇用している事業所」の6.5%を占め、そのうち25.4%の事業所が「所属組織の責任者等ハイレベルの役職(店長、工場長等)まで」の役職者がいると回答しています。
3)「正社員と職務が同じで、かつ人事異動の有無や範囲等が同じパート」の基本給の算定方法については、「正社員と同様の算定方法」、「正社員と共通の算定要素」によっているは、併せて22.5%にすぎず、「正社員とは算定要素が全く異なる」ほうが32.3%と多数派になっています。
こうした実態は、同一労働、同一賃金の観点からして、歪みがあると言えるかもしれません。


ところで、もっとも同一労働、同一賃金は労働基準法上の原則とはなっていません。労働基準法3条は国籍、信条または社会的身分を理由とする労働条件差別を禁止し、同4条が男女同一賃金原則を定めていますが、女性差別をめぐる裁判例でも、採用形態に差異がある場合には, 賃金格差の違法性を否定する例が多いといえます。よほど極端な事例でない限り、違法とされるのは難しいように思われます。
また、同一労働同一賃金に関するILO100 号条約を、日本も1967年に批准していますが、国内法上の効力がそれによって直ちに生じる訳でもありません。
同一の労働に対して8割以下の賃金格差を設けることは公序良俗に反するとして、差額分の損害賠償請求を認めた丸子警報器事件(長野地裁上田支部平成8年3月15日)という有名な判決がありますが、先例的な意義があるから有名なのではなく、他の判例に比べて特殊であるゆえです。
むしろ裁判例としては、同一労働、同一賃金を否定するもののほうが主流です。
正規職員と臨時職員の賃金格差につき, 「労働基準法3条及び4条も, 雇用形態の差異に基づく賃金格差を否定する趣旨ではない」 として, 同一の労働をしていることから同一の賃金を請求できるわけではないとする日本郵便逓送 (臨時社員・損害賠償) 事件 (大阪地裁平14.5.22判決, 労働判例830号22頁) があります。
また、定年に達し、契約社員として再雇用された労働者が、定年前と定年後の労働内容が変わらないのに、賃金が大幅に減額されたとして、「同一労働同一賃金」の原則に基づき、賃下げの不当性を訴えた案件でも、大阪高等裁判所平22.9.14判決は、公序良俗違反は認められないと結論付けました。