徘徊高齢者の起こした事故に対する家族の責任(名古屋高裁判決について)

07年12月、愛知県で認知症の91歳男性が徘徊し、駅構内で電車にはねられ死亡した事故をめぐり、JR東海が遺族に振替輸送等の損害の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は24日、「見守りを怠った」などとして91歳の妻らに賠償を命じた一審名古屋地裁判決に続き、同居していた妻の責任を認定し359万円の支払いを命じた。近所に住む長男の責任については一審判決を変更し、認めなかった。
昨年8月の一審判決はJR側の請求通り720万円の支払いを命じたが、高裁は「JR側の駅利用客への監視が十分で、ホームのフェンス扉が施錠されていれば事故を防げたと推認される事情もある」などとして減額した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140424/trl14042421090006-n1.htm
本来は、線路上に侵入し、ダイヤを乱した男性本人が不法行為責任を負うところだ。しかし、この男性は、要介護4級というから、不法行為を問う前提としての責任能力が欠けていたのであろう。そのため、それを監視する立場にある家族に責任があるとして、損害賠償を求めたものと思われる。
確かに、家族が男性を縛り付けるなり、部屋に鍵をかけて拘束するなりすれば、当然事故は防げたであろう。しかし、緊急やむを得ない場合を除いては身体拘束は虐待になりうる。障害者虐待防止法では、養護者が「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は虐待とされているが、高齢者虐待防止法の虐待の定義には、身体拘束は含まれていない。しかし、介護施設の指定基準には「指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない。」(11条4項)とされている。
家族についても同様のことは言える。救急やむを得ない場合の拘束は虐待になりうる。法律でそれを明定していないのは、介護の専門家でもない養護者に過度の負担をかけるのを恐れてのことであろう。
話を、名古屋高裁判決に戻そう。介護者は、認知症高齢者が外に徘徊しないようにする義務があるが、他方被告の行動を必要以上に拘束してはいけないという義務もある。介護者は、ある意味二つの矛盾する義務の狭間に置かれているのである。その中で、起きた徘徊に過度の責任を負わせることに疑問を持たざるを得ない。