日本医師会の暴論に負けず、医学部新設を!

 13年9月20日、第1回産業競争力会議課題別会合で「農地中間管理機構」及び「国家戦略特区」について議論された。「一定の限定」のもと、医学部の新設を認めるとの方針を、文科省厚労省が示したという。静岡県医科大学の新設を提案しており、「地方の医師の不足」を解消するため、医師が不足する地域を特区に指定し、医科大学の新設を認めるらしい。
(日経朝刊13.9.21)
 ちょっと待ってほしい。医師を増やすのは地方に限られない。東京をはじめとする大都市圏でも医師を急増させないと大変なことになる。
 2010 年から2025 年までの15 年間で、75 歳以上高齢者増加予想数のトップ6は、東京、神奈川、大阪、埼玉県、千葉、愛知と大都市圏が占めている。理由は団塊の世代が大都市圏に集中しており、今後この団塊の世代が一挙に高齢化するからだ。増加数が一番多いのは東京都で、2010 年123.4 万人から2025 年197.7 万人へ74.3 万人増加する。増加率が一番高いのは埼玉県で2010 年58.9 万人から2025 年117.7 万人へ倍増する。
 高齢者が増えれば、医療の需要は増える。10年後の大都市圏は大変な医師不足になるのだ。このようなことは昔から分かっていたにもかかわらず、昭和54年の琉球大学医学部創設を最後に、34年間も医学部が新設されていない。なぜか。それは医師会が医師の増員、医学部の新設に反対し続けてきたからだ。
 高齢化社会による、医療の危機が叫ばれるこの期に及んでも日本医師会の連中は、医師の増員に反対し続けている。医師会はその理由を次のように述べる。
1.教員確保のため、医療現場から医師を引き揚げざるを得ず、地域医療崩壊を加速する。
2.教員が分散し、医学教育の水準、ひいては、医療の質の低下をまねく。
3.人口減少など社会の変化に対応した医師養成数の柔軟な見直しを行いにくくなる。
 そりゃそうだろう。医学部を作れば、そのための教員を用意しなければならず、教員が増えればその分現役の医師は少なくなる。当たり前の話だ。しかしそんな理屈が通ると思っているの?
 会社の社長が「今事業の拡大なんてすべきじゃない。今まで一線に立ってきたベテラン社員が後輩の指導に当たることになって、売上が落ちてしまう。」「指導力のある上司の数は限られているのに、それが他の部署に移ることになり、元の職場の社員を育てる力が不足する。」「それに売り上げがいざ落ちたら、余剰人員を生じて従業員の給料を下げなければならない。」こんな社長の会社ははっきり言ってつぶれるでしょう。
 このような世迷言に惑わされず、日本医師会の票欲しさに良心を失うことなく、政治は決断すべきだ。
 医学部をつくろうとしても、そう簡単にはできない。医師を育てるには膨大な時間とマンパワーがいる。今から動いたのではすでに遅すぎるのだが、これ以上遅れをとることは最早許されない。これまで医師会の票欲しさに、医学部新設を拒み続けてきた政治家、医師の利益代表に堕してきた厚労省は直ちに心を入れ替えるべきだろう。