低迷続く米住宅市場

低迷続く米住宅市場

 S&Pが5月31日発表したケース・シラー住宅価格指数によると、3月の主要20都市圏は前月比で0.2%低下した。低下としては小幅だが、ここ2年余りではほぼ横ばいの状態が続いており、住宅市場には依然として回復の兆しが見えていない。現在も住宅在庫は過剰な状態にあり、当分このトレンドは続きそうだ。
 米国の住宅着工件数も低調だ。同件数は06年1月から下落を続け、09年1月には4分の1以下にまで落ち、その後多少の変動はあるものの、低水準なままにある。

ある専門家の分析

 ある専門家は11年3月の時点で次のように分析している。
「ケースシラー指数20都市の平均値は現在138.16で、これは2003年レベルと同じですが、細かく見ていくと都市により違いがあることが分かります。2000年1月を100とする指数がロスやニューヨーク、ボストンなど5都市では160前後で、11年前のレベルと比べるとまだ余裕があります。一方バブルの影響が大きいとされるラスベガス、フェニックスまたシカゴなど9都市では指数が100前後で、ほぼ11年前のレベルまで下がっています。残りの6都市(シアトル、マイアミ、サンフランシスコ、ポートランド等)は130前後となっていますが、この最後の6都市のグループの前年比が6.2%のマイナスと3グループの中で下げ幅が一番大きく、また今後も更に下がると見られており、最下位グループに徐々に近づきつつある状況です。」
http://blog.goo.ne.jp/mklblog/e/2bc7be7d31e5b1cc2ba7c15ca3a6c0d4

米住宅市場が低調な理由

 理由はいくつかある。

  1. 差押物件:割安な差押物件が市場に絶えず供給され、住宅市場の重しとなっている。
  2. 銀行融資の厳格化:今後の地価下落リスクに備え、銀行は売買価格の5分の1を頭金で用意するよう求めているが、これを満たすような顧客は限られている。
  3. 失業率の高止まり:失業率は最近若干改善傾向にあるが、それでも失業率は9%前後で高止まりしている。
株価は上がっているが

 株価は09年3月に底を打ってから、上昇に転じ、危機以前の水準に近いところまで戻っているのに対し、住宅価格は下がったまま。米国はTARPだ、TALFだ、果てはQE2だと金をばらまいているため、株価は上がっている。しかし、株なら下がってもすぐに売れるが、不動産はそうは行かない。短期的には楽観的な米国投資家も、長期的には楽観的になれないのだろう。
 富裕層と、中間層の消費傾向の違いもあるだろう。富裕層は金余りで株等のリスク資産にどんどん投資しているが、不動産の購買者層の中核を占める中間層は、雇用の低迷もあって、消費が低調だ。

低調な米住宅市場が及ぼす悪影響

 新築建物着工が増えれば、関連消費が大きく増える。米GDPの3分の2は個人消費だから、GDP成長率に及ぼす影響が大きい。
 FRBは、金融危機以前は資産も米国債が中心だったが、危機以降住宅ローン債券が比重を増し、今や資産の半分近くが不動産ローン債券になっている。不動産価格の低下はFRBのバランスシートを悪化させる。
 不動産の価値が上がれば、それを担保にしてローンの借入枠が増え、消費も増えるが、そうした伸びも期待できない。