築地市場、豊洲移転に赤信号

築地市場移転計画

 築地市場には日本全国から魚が集まってくる。下関のふぐも、大間のまぐろも、最上級品は築地に行く。しかし都は、東京ガス豊洲ガス工場跡地を購入、築地市場はこの工場跡地に移し、市場跡地は東京五輪のメディアセンターの敷地にする計画を立てた。結局東京五輪招致は失敗し、メディアセンターも必要なくなったが、東京都はそれでも豊洲移転を諦めていない。
 しかし、この東京ガス工場跡地、水銀が環境基準の24倍、発ガン性物質のベンゼンが4万3000倍、さらにシアン化合物が860倍という凄まじいくらいの土壌汚染のある土地だ。

都の土壌無毒化実験のウソ

 都は汚染土壌の無毒化が可能として、実際に無毒化実験を10年1月下旬から進めていた。都は3月10日の中間報告で、現地の16地点を選出した上で、実際の土壌を用いて複数の処理方法を試した結果、「環境基準値の4万3000倍のベンゼンが検出された地点では、中温加熱処理により環境基準以下に浄化できたほか、環境基準の62倍のヒ素が検出された地点と、170倍のシアン化合物が検出された別の地点では2回の洗浄処理で無害化に成功した」としていた。しかしこれが真っ赤なウソだったのである。
7月20日に判明したところによると、「土壌処理実験で、環境基準の4万3000倍のベンゼンが検出された地点が、環境基準値以下に浄化できた」と都が発表していた地点の実験前の汚染濃度は基準のわずか2.7倍に過ぎなかったというのだ。汚染の軽微な地点の土壌を浄化実験して、無害化したと発表していたのである。

中温加熱処理方法に疑問は無いか

 この中温加熱処理という処理方法の有効性も疑ってかかる必要がある。当初は、有害物質の処理を、費用のかかる高熱処理で行う予定であった。それだと1000億円くらいかかってしまうため、そんなことまでして豊洲に移す必要があるのかという批判もあった。
 ところが、都は高熱処理によらずとも、中熱処理で対応可能、濃度の低いものについては水などによる洗浄処理で可能と判断。この工事方法の変更により、処理費用は500億円台でできるようになった。今回の偽装工作が明らかになった以上、この中温加熱処理も疑ってかかった方がいい。

市場は築地にあってこそ意味がある

 築地市場の中を「場内」、外を「場外」と呼ぶが、場内ばかりでなく、場外にも水産物店、乾物店、飲食店が軒を連ね、いわば築地は東京都民の台所であり、食堂でもある。テリー伊藤のお兄さんがやっている玉子焼屋も築地にある。有名な寿司屋も、鰻屋もある。町全体が一風景をなしている。それをぶち壊すというのは、作家出身の都知事がやることとは思えない。
 都知事与党の自民党は移転に賛成で、野党の民主党は移転に反対だが、ここは民主党にひと頑張りしてほしい。

盛り土が土壌汚染

 7月21日朝日新聞夕刊によると、市場移転先予定地の「元の土壌」だけでなく、その上に後から運び入れた「盛り土」からも30地点で汚染が見つかっていたことが分かった。都中央卸売市場は「盛り土の汚染原因は特定できない」としているが、原因究明は当然のことだが、30地点だけでなく、より詳細な調査を望みたい。
 この盛り土は、都内などの公共工事の残土で、予定地約40ヘクタールの4分の3を、2.5mの厚さで、古い土壌の上を覆っている。汚染の原因だが、都は地下水による再汚染と見ているが、持ち込まれた土地自体に汚染度が含まれている可能性もある。もし後者だとすると、都自身が土壌汚染について、いかに危機感のない仕事をしているかということになる。
 最近、土壌汚染は決して稀な問題ではなく、工場跡地では必須の調査事項である。それが緊張感なく処理されているとしたら問題だ。そもそもこんな土地を大金をはたいて買ったこと自体、都がいかにこの問題について鈍感だったかを示しているからだ。