オバマと胡錦濤

緊急の電話会談

 オバマ大統領は、4月1日夜、訪米を決めた胡錦涛に歓迎の意向を伝えるために、専用機の中から電話した。電話は1時間に及び専用機はワシントン郊外の空軍基地の滑走路にその間停止した。

公式発表では

 胡主席は4月12─13日にワシントンで開催されるオバマ大統領主催の核安全保障に関するサミットに出席する。そしてその3日後には、米財務省の主要貿易相手国の為替政策に関する報告書(為替政策報告書)発表されるが、そのタイミングでの電話会談だ。
 ホワイトハウスの声明によると、オバマ大統領はイラン問題での協力要請と、G20のコミットメントを実行する重要性を強調したということになっているが、果たしてどうだろう。
 オバマ大統領は、健康保険改革法案成立のためにアジア訪問をすっぽかしたり、輸出倍増計画を発表したりと、11月の米中間選挙を控え
、国内的課題への姿勢が目立っている。そうした中、議会では、中国政府が人民元為替相場を操作し、4割ほども過小に操作評価しており、報復関税をかけるべきだとの声が強い。オバマ大統領としては悩ましい。米国債を大量購入してくれる一番のお客さんの中国には嫌われたくない。

会話の内容は

 胡主席とはこんな話になったのではないか。
オ:アメリカに来たら、ぜひサシで会談を持ちましょう。
胡:ええ、もちろんですとも。ロシアとの交渉では、見え見えの、いえ、偉大なる成果を上げられた訳ですし、私たちも覇権を求めないことは国是ですから。
オ:いや、そのことではなくて
胡:イランのこともお気がかりでしょうから。
オ:それも大事ですが、もっと大事なことがあるでしょう。うちの議会がうるさく言っている、あの問題ですよ。
胡:あの問題というと
オ:(この狸め、と思いつつも怒りを抑え)うちの議会が、今の人民元は安すぎる。報復関税をかけるとか、とにかくうるさいんですよ。
胡:民主主義は大変ですな。お立場には同情を禁じ得ません。ただ、私らは今の相場は、合理性をもったものと信じています。そちらの議会の方は、勇ましい発言が多いですね。わが国が、世界に不況をもたらしているのでしたら、すぐにも改めます。私たちは、政府、中央銀行が一丸となって、景気対策を進め、世界経済のけん引役となっています。全てのものには、光と影があります。影ばかり見ず、光を見ることも必要でしょう。
オ:確かに中国政府の努力には、世界が、感謝しています。しかし、世界の声は何と言っていますか。IMF内でも元切り上げの話が出てきています。欧州なんか、もっと厳しいことを考えていますよ。
胡:うちの中央銀行中国人民銀行の委員も「できるだけ速やかに人民元の段階的上昇を再開すべきだ」ということを言っているでしょう。ただ、うちも政府が金をどんどん出し、金融もかなり緩和しているから、今の経済成長が保てているんですよ。熱い鉄を急に冷ましたらどうなります。もろくなるでしょう。ものごとにはタイミングというものがあります。
オ:私たちのことわざでは、鉄は熱いうちに打て、と言いますが。
胡:明日日本政府の菅さんと会うのですが、日本は、私たちの考えをかなり理解してくれていますよ。プラザ合意のあと、日本はあなたの国から言われて急激に円高を進めましたよね。その行き着いた結果がバブル崩壊でしょう。我々は日本のあの失敗を繰り返す訳にはいきませんから。
オ:(「この野郎、俺のケツには火がついてんだよ!」と言いたいのをこらえて)ですから、私の顔を立ててくれというんですよ。
胡:選挙はまだ先の11月じゃないですか。まだ話し合う時間は十分あるでしょう。それに、時間は作ろうと思えば、作れるものです。
オ:アメリカには世論調査というものがあるんですよ。あなたも学生時代は、毎回テストで成績をつけられていたでしょう。
胡:そのあたりは私らの馴染みのない世界の話ですから、コメントのしようがないですな。あなたと私の考えは共通しています。問題は時間なのです。今はその時間ではない。お互いの立場を理解し合うには今少し時間が必要です。あまり遅くてはあなたが困るし、余り早くては私が困る。今月末にはG20財務相中央銀行総裁会合があるし、5月には米中戦略経済対話がありますな。6月にはG20サミットもある。今の今でなければならない理由は無いでしょう。
オ:私としても、今ここでお返事をいただこうとは思っていません。ワシントンでお会いできるのを楽しみにしています。
胡:私もです。再見。

結局、為替報告は先送りに

 ガイトナー米財務長官は3日、4月15日に予定されていた「為替報告書」の公表を延期し、中国が為替操作国にあたるかどうかの判断を先送りすると明らかにした。