中国全人代開幕

全人代開幕

 第11期全人代第3回が5日午前、北京の人民大会堂で開幕した。温家宝首相は施政方針にあたる政府活動報告を行い、GDP成長目標を昨年と同じく「8%程度」に設定。積極財政と金融緩和を継続する方針を示した。一方で、経済構造の転換や所得の再分配などに取り組む姿勢を明らかにした。

積極的な財政政策

 「積極的な財政政策」とは、民間消費に元気がないから、政府が金をばらまいて需要を作って行こうということだ。このため、10年度予算案は過去最大の1兆500億元(約14兆円)の赤字予算となった。ただGDP比からすれば3%程度であり、健全な部類と言える。
 問題は地方財政だろう。地方は有効需要創出とばかり、銀行からの借入、地方債の発行を増やしており、しかもその使途も身内や知人の企業への便宜供与を図ったものが多く、「橋を壊して橋を壊す」ようなものになっている。今後地方財政の破綻が大きな問題になってくる可能性がある。

適度な通貨緩和政策

 現在の政策金利は08年11月26日に決定された5.58%のまま変更されず現在にいたっている。これについても、しばらくは利上げを行わないということだろう。ただ、中国では積極的財政策、融資の拡大により、資産バブルが懸念される状態になっている(中国国家統計局の公式発表でも10年2月の主要70都市の不動産価格は前年同月比10.7%増と08年4月以来2桁台に乗った。10.3.11日経)。しかし、現状、輸出が落ち込んだままであり、かといって急速な内需拡大が見込めない以上、政政策金利の引き上げをできる状況ではない。そのため、とりあえずは、人民銀行が1月初めから行っている、2回の預金準備率引き上げや短期手形入札の利回り引き上げなどによる市場からの資金の吸い上げを、今後も引き続き行うことになるだろう。
 人民元の新規貸出額を、昨年実績よりやや少ない約7兆5000億元(約97兆円)に設定した。

高付加価値産業への転換

 中国はこれまで軽工業や、電機でも組立工程等、労働集約的産業が中心だったが、続的成長のために経済発展パターンを転換し、高付加価値・省エネ型産業を強化する必要性を強調した。それと同時に中小企業、サービス業の発展を図るという。高付加価値産業はの産業構造の転換がうまく行くかどうかは置くして、もしこれが成功したとすると、こういった産業は労働集約産業ではないため、中国の膨大な労働力を吸収できない。そのために、労働力吸収力に優れる、中小企業、サービス業の発展も目標に加えている。
 しかし、中国社会は中国共産党を中心とした利権構造が、そのまま産業構造に転写されている。金をかけ、規模を大きくし、経営効率を高めるだけで、成長できる鉄鋼業等の重厚長大産業ならば、開発独裁体制でも成長しうるが、サービス産業は民需の拡大がなければ発展しない。中産階級が社会の中心を占め、国民間の所得格差が縮まるような社会でないと、サービス業は発展しない。しかし、中国で起きていることは、富める者は政府と結びついて益々富み、貧しいものは政府から見放されて成長の恩恵を受けないできた。高付加価値産業への産業構造の転換から生じる余剰労働力を吸収できるだけの発展をサービス業が遂げられるだろうか。
 また、地方政府が中小企業、サービス業の発展に尽力するだろうか。地方政府としては、党幹部が、自分の親族の企業や、仲間の企業に仕事を発注したほうがよっぽど儲かる。海外から新技術を導入したり、新技術を有する海外企業を買収しても、その金は外国のほうに行ってしまい、自分や仲間が儲けることができない。地方政府には、産業構造を転換するだけのインセンティブがない。

所得の分配制度の改革

 第3次産業の進展のためには、富の偏在の解消が不可欠で。ある。そのため、温家宝首相は所得の再分配にも言及。(1)財政・租税による調節(2)独占業種の賃金総額と賃金水準の規制、国有企業や金融機関の上級役員の所得厳格化(3)不法所得の取り締まり強化を打ち出した。しかし、これを本当にやろうとすると、私腹を肥やしている地方政府の汚職役人、党幹部の利害と対立する。次期国家主席との呼び名の高いは習近平は、太子党という、共産党高級幹部の子弟層の出身である。習はこうした既得権者層の利益を代表している。胡錦涛温家宝は、共青同からのたたき上げ組で、肌合いはかなり違う。太子党としては、国民受けする胡錦涛温家宝を表に立てているが、胡錦涛らが自分達の懐に手を入れてくれば、必死になって戦うだろう。だから、所得の分配は思うようには進まないのではないか。