ライツ・イシュー

ライツ・イシューとは

ライツ・イシューという制度をご存じだろうか。新株予約権を株主に無償で割り当てるというものだ。注意してほしいのは、無料で割り当てるのは、新株そのものではなく、新株予約権だ。新株予約権は、「会社が決めた金額を払えば新株を買い取ることのできる権利」。上場会社が既存の株主に対して、時価よりも低い価格で株式を購入できる新株予約権(ライツ)を無償で割り当て、その行使を受けて新株を発行するという増資手法の一つである。

株主割当増資との違い

私が大学で商法を勉強していたころは、まだまだ株主割当増資が一般的に行われていたが、現在では、増資のほとんどが、てっとり早く資金が集められる公募増資、第三者割当増資によって行われている。ただ、昔の株主割当増資とライツ・イシューとは大きく違う点がある。それは、株主割当増資は必ず株主自身が新株を引き受けなければならないが、ライツ・イシューは株主が新株予約権を自らが行使することなく他に譲渡できることだ。

公募増資、第三者割当増資の問題点

リーマンショック以降、日本株が出遅れた理由の一つとして、同ショック以降、日本の上場企業が競って大型公募増資に走ったことがあげられている。リーマンショックの際、大企業も資金手当てに窮し、資金繰りができずに倒産しかねない状態になった。このことがトラウマになってか、各企業とも自己資本増強に躍起になった。さらに、BIS基準の改正がメガバンクを増資に駆り立てた。欧米の銀行が中心になって、「国際銀行業務を行うなら、コアTier1(「コアティアワン」と読む)といって、普通株を中心とする中核的自己資本比率を4%(まだ決まっていないが、多分このあたりになるようです)にしろ」ということを主張するようになり、メガバンク自己資本増強に躍起になったのである。しかし、大量の新株発行は会社にとっては良くても、既存株主にとってはアウト。株主が既存の株主の地位が希薄化するからだ。そのため、大型公募増資が発表されると、株価が下落することにもなる。

ライツ・イシューが株主に与える影響

しかし例えば、ある会社の発行済の株が1万株、株価が1000円で、ライツ・イシューによる新株引受価格が500円、1株主に1株の予約権が割り当てられたとする。全員がこれに応じると株式数は2万株で、時価総額は1500万円、株価は750円に下落する。しかし1株主の資産価値は変わらない。1株だけ持っていた株主が、新株予約権を行使し新株を取得した場合、前後で資産価値がどう変わるか見てみよう。
(前)株1000円+現金500円→(後)株1500円+現金0円
上の例では、株主が新株予約権を自ら行使しているが、新株引受権を売ったとしても、株主は現金化できるので株価が下がった分、現金を受け取れるので損はない。

ライツ・イシュー促進の動き

 ライツ・イシューについても、国内各証券取引所の上場規定が改正され日本の増資環境が変わった。以前は一株につき一株増資するのでなければ、ライツ・イシューの上場は認められなかった。資本が2倍になる増資など、考えられない。ライツ・イシューの上場の場がないと株主の保護に欠けるため、なかなか実現しなかった。しかし規定が改定され、1株につき0.1株の割合で発行された新株予約権も上場が許され、証券取引所で売買することが認められるようになったのである。
また、金融庁は、2月26日、ライツ・イシューに関し内閣府令案を公表した。企業などが無償で割り当てる新株予約権証券が、市場に上場され売買が可能になる場合、従来は権利割当日の25日前に有価証券届出書を提出しなければならなかったが、これを15日前に短縮するという。さらに、実務上のガイドラインを用いれば、これを7日前にまで短縮することも可能になるという。

金融庁は26日、「ライツ・イシュー」の発行手続きに必要な期間を短縮する内閣府令案を発表した。

新株予約権の割り当てに関連した有価証券届出書の提出期間を短縮する。ライツ・イシューは、既存株主の利益の希薄化を抑制できる手段として欧州などで実施されており、資金調達をしたい企業なども関心を寄せているが、日本では手続きに必要な期間が長いことなどから利用が進んでいない。法定期間が短縮されれば、制度の利用につながる可能性も出てくる。

 金融庁は、開示に関連する内閣府令案を公表した。企業などが無償で割り当てる新株予約権証券が、市場に上場され売買が可能になる場合、従来は権利割当日の25日前に有価証券届出書を提出しなければならなかったが、これを15日前に短縮する。さらに、実務上のガイドラインを用いれば、これを7日前にまで短縮することも可能になる。

 ただ、新株予約権の割り当てをめぐっては、割当対象となる株主を特定する基準日の2週間前に公告するよう求める会社法の規定があるため、今回の内閣府令案を経ても実質的に短縮される期間は2週間前までに限られそうだ。

 ライツ・イシューに関連した制度整備は各方面で進んでいる。東京証券取引所は09年末、新株予約権1個に対し株式1株を発行するケースに限っていた予約権の上場ルールについて、例えば予約権1個に対し0.1株を発行する新株予約権でも上場できるよう見直した。これにより、ライツ・イシューを利用する際の商品設計の自由度が増し、増資計画の柔軟性が高まった。

 東証ルール、金商法の内閣府令と見直しが進むことで、日本でも企業などがライツ・イシューの利用に乗り出しやすい環境が整ってくる。ただ、

追加 金融庁情報開示を簡略化

 金融庁は、ライツ・イシューの普及を進めるため、全ての株主に目論見書の送付を発行企業側に義務付けていたのを改め、インターネット上の開示で済むようにする方針を決めた。また証券会社が5%以上を取得する場合に大量保有報告書の提出を免除し、3分の1超を取得するのに必要なTOB手続を省略することができるようにするという。(10.1.10日経)